第三章 悪魔祓い師の少年
25.悪魔祓い師の少年
見上げれば黒い塊。草木が幾重にも折り重なって、緑の手毬を作って、時折きしむ。完全に閉じ込められた。枝と葉が流れている僕の血を求めて這って来る。グッデは助かった。これでいい。
光の閉ざされた手毬の中で、星が見えはじめた。血を流しすぎて、幻が見えたのか。枝の隙間から差し込んで来る月光は神秘的で素敵だ。その光が大きく膨らむ。木々がざわついて、光から逃げて行く。何が起こっている?
視界が突然開けた。目を覆うと、隣で得体の知れない発音が飛び交う。呪いの言葉のように、長く暗い音調。決して歌ではないが、その流れるリズムが消えたとき、月光も引いていった。
あれは月の光ではないのか? 光は僕を助けた人物の首にかかっている十字架に吸い込まれていった。消えたのは光だけではない。黒い手毬状になっていた密林が、卵がかえったように割れ、灰を降らせている。燃えてしまった。
突然誰かに担がれる。バルコニーから飛び降りている。誰だ? 助けてくれたのは?
着地と同時に、のけ反ったのはグッデだ。
「しっかりしろ。お前何やったんだ?」
グッデがあれこれ説明しろと叫んでいる。僕を降ろしたのは、黒装束の少年だ。黒髪を後ろで束ねている。少なくとも僕と同じぐらいの年だ。まだ、暑い季節だというのに、コートを夜風に吹かせている。なにより、鋭い瞳の輝きに打たれた。無言の少年はグッデには構わず、僕に見とれている。外傷が跡形もなく消えていることに気づかれた。
「何者だ?」
僕も同時に問いかけた。
「君は」
少年は質問に答えようか迷っているように見えた。
「何とか言えよ」
喧嘩腰のグッデに少年は答えた。
「通りすがりの悪魔祓(ばら)い師だ」
一夜にして、英雄伝説が生まれた。少年はたまたま通りかかり、僕達を助けた。それが、偶然にも、呪われた土地を解放してしまったのだ。町で言われている噂では、得たいの知れない光は図書館の木を焼き払い、それが呪いを解く鍵だと言うのだ。確かにあの大きな木は不思議な力を持っていたように感じた。
「何が起きてるんだ一体!」
グッデが苛立ちを隠せず街頭で毒づく。結局骨折り損な気分なのだろう。グッデが怒っている原因はそれだけではない。悪魔祓い師の少年の力を借りないで、僕を助けたかったそうだ。グッデのそういうところが好きだ。
僕は人だかりに目を止めた。悪魔祓い師の少年だ。有名人のようにもてはやされているのですぐ分かった。彼の行く先で待ちかまえていたのは、小柄な老人、聞いたところによるとこの町の町長だ。町長はどうやら昨日の一件の礼を言っているようだ。
「よく、依頼を受けてくれました。これで安心して暮らしていけます」
少年は頷きもせず、聞き流している。興味はさほどなさそうだ。ところが話が報酬に移ると、軽く手を差し出した。
「金」
隣でグッデがいけすかない野郎だと、ぼやいている。
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