第3話 男爵家のルシアード
ルシアードの実家は、海湾都市ラーベラから鉄道で数日行ったところにある「じちりょう」とかいうところらしい。
あまりにも田舎すぎて大きな都市や町になら必ずあるはずの、飛行船の発着場もないくらい不便な場所らしい、と聞いたことがある。
彼の両親は男爵様で、都会暮らしを好んでいるから、ラーベラにある「たいしかん」で住んでいるのだとか。
「ルシアードも通うって言ってた」
「彼もくると思う。男爵家の四男だし‥‥‥だからそれまで会えないと思うけど」
ロレインは妹が孤独に耐えられなくなって泣いてしまうのではないかと思ったらしい。
けれどもそれからすぐ、父親とともに森で魔獣と遭遇し、魔猟に興味をしめしたエレナは、竜殺しの威光もあって進学よりもさきに冒険者になった。
魔獣を絡めとる罠の扱いや、魔法をどうすれば効果的に作用させられるのか。
この点に深く考えを沈めたエレナは、やがて数学的な見地からさまざまな魔法を、より威力のある魔猟のほうほうとして扱う術を体得してしまう。
8歳でルシアードとともに初等部に入学したころには、SからGまであるランクのうち、最下位のGをそうそうに脱して、Eまで進めていた。
12歳では史上最年少となるCへと進み、中級冒険者としていつかはなるであろう「最後の竜殺し」と呼ばれるようになる。
皮肉にも彼女が身につけた数学的な才能は魔法だけでなく会計や経理などといった事務的な側面にまで及んだ。
14歳のとき、国家会計士の資格を取り、飛び級をしてエレナは学院を卒業。
そのまま、父親の商工融資ギルドの会計士として就職する。
心残りなのは二年ほど続いている、恋人のルシアードを学院に残してきたこと。
彼は両親が領地の経営を本格的にするという理由で大使館に住むことができず、仕方ないので学院の男子寮に入寮したので、なかなか会えない。
授業が同じ時間帯だったり、図書館や毎週末にもよおされる学生夜会への参列などでゆっくりと進んでいた二人の仲を、ここしばらくの間、手紙のやり取りだけで済ませてしまっていた。
学院内では通信魔導具の持ち込みが禁止されていて、通話すらもできないのだ。
「なんて前時代的!」
と、市内で時間を決めて会うとき、かならずエレナはそのことについて不満を漏らした。
「まあまあ、規則なんだから仕方がないよ。君だって14歳までは従っていたんだし」
「それはそうだけど‥‥‥。でもやっぱり、会いたいときには会いたいよ」
と、普段のやり手社員の顔はどこかに隠して、エレナは寂しさを癒して、と甘える。
ルシアードはその度に困った顔をしつつ、エレナを抱きしめてくれた。
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