第6話 金
王妃は手も声も振るわせていた。
「お、お前のような汚ならしい娘のせいで我が国は……レオンは!!!」
どうやら言葉にもならないくらい怒っているらしい。けど貴女の息子も悪いからね? 不倫は1人じゃ出来ないならね? 大丈夫? そこんとこわかってる?
「はあ!? 先に手を出してきたのレオンだし!」
「なっ! なにを!」
私と同じところが引っ掛かったようだ。リーシャが王妃に食ってかかる。
「私ちょっと嫌だったのに! 王妃にしてやるからって仕事中に何度も何度も連れ出されてさ!」
『嫌だった』という部分は事前の調べではわからなかったな。店ではずっと2人でイチャついて、しょっちゅう別室に入って行ったと言う話だったが。まあ心の中まではわからないか。
「汚らしい娘に積極的に触ってきたのはそっちだから!」
さっきから全く庇ってくれない男にいい加減イラついてきたようだ。そいつ、私が手を挙げている時もオロオロするだけだったからいい加減期待しない方がいいよ。
「ねぇレオン! 助けてよ!」
ストレートに助けを求めているが、レオンは黙ったままだ。リーシャと目を合わせないようにしている。
「は、話が違うじゃない!」
あんなに太々しい態度だったのについに焦りが見え始めた。
言い返された王妃は固まってしまっている。自分の息子が、『汚らしい娘』と積極的にやることやっていたのがショックだったようだ。そう言えば王や王妃達はどのくらいこの2人のことを把握していたのか。
「息子に、なんと言われていたのですか」
「母上!?」
なにか覚悟を決めた表情と声色になった母親を見て、どうやらレオンも焦り始めたようだ。遅くない?
「レオンとは1年と半年くらい前にパパのお店で……最初はよその国の商人の息子だって言ってたわ」
諦めたようにリーシャがポツポツと話始めた。それは調べたとおりだな。王や王妃の方をみても、この辺りは知っていたようだ。
「ベタベタ触ってきてたけど、金払いもいいし、プレゼントもいっぱい持ってきてくれてさ」
「な! 俺が触れてもいつも嬉しそうにしてたじゃないか!」
「金持ちの客なんだから嫌な顔できるわけないでしょ!」
自分を一方的に悪く言われると思ったようだ。レオンが急いで訂正する。
(うわぁ~自分のいいように勘違いしていたのか)
「1年くらい前かな……急に自分はこの国の王子だ! って言いだしてさ。王妃にしてやるから抱かせろって」
「信じたんですか?」
「……パパにお金積んでてもう断れなかったのよ」
「はぁぁぁ!?!?」
しまった! つい素が出てしまった。
(ダメダメ! 不倫女に同情の余地なし!)
でもやっぱりちょっとその状況は同情してしまう。父親に売られたなんて辛くないわけがない。
この場にいる全員の表情が険しい。これはある意味いいことだとだ。この場にいる全員がこの出来事を嫌悪する倫理観を持っている。貴族に平民が虐げられたくらいで騒ぐなと言う人間も多い世界だ。この辺も私の嫁ぎ先として選ばれた理由だったのだが……。
「う! 嘘を言うな!!!」
「はぁ? 嘘じゃないし!」
肝心の夫がこれだもんな……。
「俺のことを愛していると言ったじゃないか!」
「そりゃあその後好きになったわよ。何度も愛してるって言ってくれるし、お金はあるし、もうお酒運ばなくても贅沢に暮らせるし」
「俺の金に惹かれたというのか!?」
「なによ! 最初にお金で買ったのそっちじゃない!」
レオンを吊し上げる前に2人で揉め始めてしまった。
「レオン! 黙りなさい!」
王妃は息子の方をしっかり見て怒鳴った。どうやらこの経緯は知らなかったようだ。私の方は、リーシャが打算的な愛でレオンと一緒にいたというのは予想外だった。
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