第44話 王様

 勇者を家に連れて来てから数日の月日が経った。

 アイリとマミは偵察から帰って来ていた。

 サリバン軍は進行しているらしく、方向はコチラに向かっているみたいである。

 この国にサリバン軍が来るまでに小国と大きな山を2つ越えなければいけないらしい。

 小国も勇者不在の国らしく、サリバン軍に飲み込まれるだろう。

 長距離の移動でサリバン軍は疲弊するどころか、飲み込んだ国の人間を魔人化させて戦力を増やしているらしい。

 魔人化についてわかっている事は全ての人間を魔人化するのではないらしいこと。

 なにかの条件が揃って魔人化するらしいこと。人間を魔人化させるのがサリバンの能力であること。

 それぐらいらしい。


 サリバン軍の進行は、誰かがサリバンに勝利するまで続くのだろう。

 この世界のどこにサリバンに勝てる戦力があるんだろうか?


 この国にいればアイリもマミもいる。それにまだ眠っているけど、勇者もいるのだ。俺を含めて4人の戦力がいた。

 だけど俺は悩む。

 この国を捨てて逃げるべきかどうか?

 家族がいるのだ。

 逃げた先にもサリバンが来るかもしれない。あるいは別の敵が来るかもしれない。

 その度に俺達は逃げるのか?

 逃げて逃げて逃げ続けた先に家族が平穏に暮らせる環境があるのか?


 悩んでいる最中に、王様が俺の家に来た。王様は平民のような洋服を着ていた。もしかしたら小国の王様は一般人とさほど変わらないんだろうか? 従者も引き連れていたけど、彼等も平民のような服を着ていた。

 まだ40代の王様は、深刻な顔をしてサリバン軍がコチラに向かって来ている事を話した。

 サリバン軍のことは知っていたけど、俺は初めて聞いたみたいなリアクションで相槌をうつ。そして王様は勇者がやられた事も話した。

 

 その勇者は、カーテンの向こう側のベッドで眠っている。だけど王様には、そのことは言わなかった。理由は特に無い。なんとなくである。


 ちなみにネネちゃんは美子さんの職場で預かってもらっている。本来なら今日はネネちゃんを預かるのは俺の番だったけど、王様が訪問したのでネネちゃんは預かってもらった。


 このままではサリバン軍にこの国が飲み込まれるかもしれない、どうか力を貸してほしいと王様が頭を下げた。

「少し考えさせてほしい」と俺が言うと、従者の人が「貴様、王様が頭を下げているんだぞ」と噛みついて来た。

 それを王様は手で制して、失礼な事をしたことの詫びをした。


 王様は意外といい人なんだな、と俺は思はない。王様自ら俺に頼らないといけないヤバい状況なんだ、と俺は思う。

 今までならギルドを通してクエストという形で俺達に依頼して来た。

 もし俺達がクエストを受けなくても、強敵を処理する方法はあったのだろう。

 自国の勇者を呼び戻すとか、近い国にお願いするとか。

 だけど今回は、俺達以外に頼れる者がいない状況なんだろう。



 王様が来た日の夜に、マミに紹介したい人がいます、と言われた。

 用意された食事が1人分多い事には気づいていた。

 もしかしたら紹介したい人の事を知らなかったのは俺だけなのかもしれない。

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