第37話 俺、副業もしている
ネネちゃんは週に2回だけの幼稚園に行くようになり、喋れる言葉も知っている言葉も増えていった。
布オムツも取れて、脱乳した。
脱乳したことによって、美子さんの不思議なミルクが出なくなってしまった。
もし美子さんが俺の庇護下なら、俺も聖母のミルクが出たのかもしれない。男のミルクなんて誰が飲みたいんじゃ? でも美子さんは俺の庇護下に入ることはなかった。
2人で歩んできた。
そんな彼女が庇護下というのは違和感がある。
庇護下に入る条件は今だにわかんない。何人も弟子にしてほしい、という子達はいた。だけど庇護下に入ったのは、ネネちゃんを含めて4人だけだった。
たぶん予想では俺が守りたくて、相手も俺に守られたい。平等な関係ではなく、俺が与える側で、相手が与えられる関係性じゃないと庇護下に入らないんじゃないか?
予想になってしまうのは、詳細がステータス画面に書かれていないからである。
幼稚園が無い時は俺がネネちゃんを仕事に連れて行く事もあったし、美子さんが仕事に連れて行く事もあった。
価値観がママとパパのどちらかにも偏らないように平等にネネちゃんを預かるのを振り分けた。
ネネちゃんを仕事に連れて行くのは、正直にしんどい。だから負担を振り分けた、というのもある。
美子さんは裁縫教室を週に2回、学習教室を週に2回するようになった。自宅に近い一軒家を借り、異世界でも先生をやるようになった。
ネネちゃんは病気をすることなく、すくすくと育った。自動回復があるのだ。
病気や怪我をしても俺達が気づく前に治ってしまう。病気や怪我が治ってしまうことは、彼女に臆病さを消してしまった。
怪我をしても治るのだから、魔物に考えもなしに飛び込んだこともある。彼女が初めて魔物を倒したのは3歳の時だった。子ども用の小さな剣を握り、ゴブリンを倒してしまったのだ。
初めてネネちゃんが魔物を倒した時、この子は天才なのかしら? と俺は思わなかった。ネネちゃんに怯えがないことが不安になった。
このままでは強い敵がいても真正面から同じように戦うようになってしまう。
スキル封じ、みたいな事をされたらどうするんだろう? スキル封じなんて聞いた事もないけど、異世界にはあるかもしれないのだ。
怯えは武器なのだ。色んな思考を凝らし、自分が優位になるように戦う。ネネちゃんにはコレが出来なかった。
怯え、を持っていないのだ。
俺が彼女に教えるのは、怯えだった。
実際には怯えなくていい。怯えて戦う人間のように慎重に戦略を練ること、を教えている。
慎重さを手に入れる事ができれば、大胆さは生まれながらにして持っているのだから完璧なのだ。
ちなみに自動回復は、俺の【支配者】のスキルでも借りる事はできなかった。パッシブスキルは支配者では使用できないのかもしれない。
冒険者ギルドにて。
「どうしてパパは先生って呼ばれているの?」とネネちゃんに尋ねられた。
ネネちゃん5歳。
まだまだ小さい女の子。
だけど黒髪のクルクル髪の毛は伸ばしていた。
髪の毛を切る事を嫌がるのだ。女の子らしく長い髪の毛を彼女は好んだ。
長い髪の毛は、ツインテールに結んでいた。結ばれた髪の毛は、縦ロールになっている。
ネネちゃんは日本人だった。
だからこそ俺達は、誰がどう見ても親子に見えた。
「どうしてパパが先生って呼ばれていると思う?」と俺が尋ねた。
秘技、逆質問返しである。
「わかんない」とネネちゃんが言って笑った。彼女は笑うとエクボが出た。
「パパ、抱っこして」
と唐突にネネちゃんが抱っこを要求する。
「いいよ」と俺が言うと、椅子に座ってる俺の膝にネネちゃんが座り、ギュと俺を抱きしめた。
「先生というのは、教え導く人のことを言うんだ」と俺が言う。
「おしえチクビ?」とネネちゃんが首を傾げる。
教え乳首? そんな小うるさい乳首は嫌だ。
「教える人のことを先生って言うんだ」と俺が言う。
「ママも?」
「そうだよ」と俺が言う。「パパは弟子がいて、その子達に色んな事を教えている。だから先生って呼ばれてる」
「デシって?」
「アイリやマミのこと」と俺は言った。
クロスの事も頭に浮かんだ。だけど彼の名前は出さなかった。
「お姉ちゃん達がパパのデシなの?」
「そうだよ。それにネネちゃんもパパの弟子だよ」
「先生」と1人の男が尋ねて来た。
筋肉隆々の冒険者である。名前は知らない。
「デシ?」とネネちゃんが首を傾げた。
娘の言葉には答えず、お客さんを見た。
初めて利用するお客さんである。
「強くなりたいんですか?」と俺は尋ねた。
「はい。お願いします」と男は言って、俺に金貨2枚を差し出してきた。
まだ受け取らない。
ちゃんと金額も知っている。たぶんルールのことも知っているだろう。
だけど念のために語っておこう。
「強くなるのは1日の期間だけ。1日が経過すると元に戻る。今の自分の強さを元に1.5倍、魔法も攻撃力も強くなる。強くしてからの返金の問い合わせは一切断っております」
「お願いします」と男は言った。
「頭を出して」と俺が言うと、お辞儀をするように男は俺に頭を出してきた。
俺は男のパサパサの髪を撫でた。
金箔のような光が降り注ぐ。
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