3章 子どもの終わり

第35話 子どもの成長

 子どもの成長は早い。

 ハイハイするようになったと思ったら、ネネちゃんは立っていた。

 あのハイハイしている時の子どものオチリは、すぐに見れなくなってしまうのだ。

 そして立ったと思ったら難語なんごを喋るようになる。

「あぁーー」とか「みゃーー」とか「もぉーー」とか「きゃーー」とか「まぁーー」とか、喋りたいんだろうけど言葉にならないのだ。

 その言葉にならない言葉は、すぐに意味を持つようになる。

「まぁーー」と叫ぶ声が、「まんま」になるのだ。

 ご飯を食べる事を理解して、早くメシをよこせや、とボスベイビーから指示が出る。

 ご飯をあげたら、手でご飯を掴んでグチャグチャにして、床にわざと落としたりする。遊び食べである。

 食べ物で遊んだらいけません。そんな説教はネネちゃんには理解できない。

 この星に来たばかりのネネちゃんは床に食べ物を落とすと、食べ物が床に落ちることが不思議なのだ。

 水をこぼすと水がこぼれることが不思議なのだ。それにパパママが慌てることが面白いのだ。

 だから実験する。ネネ博士は食べ物で実験して、その功績として家を汚して、口周りに離乳食をいっぱいつけて、なぜか髪の毛にも食べ物を絡ませた。

 そして実験に疲れて、口をモグモクしながら頭を揺らして寝始めるのだ。

 先生、今実験中ですよ、と言って起こすと、『なにワシを起こしてんじゃワレ』と言うように「ミャーーーーー」と泣き始める。


 ネネ博士の実験はご飯を食べる時だけではない。

 積み木を重ねる時も実験なのだ。

 実験の最中は集中しているせいか、かならず唇を尖らしている。それがたまらなく可愛い。なんで唇を尖らすんだろう? 無意識にやっているんだけど、集中すればかならず唇が尖る。


 ネネ博士は唇を尖らせながら、積み木の上に積み木を重ねると積み木が重なることを発見する。

 博士、大発見です。


 1歳でそのことに気づくなんて我が子は天才かしら。パパママは思ってしまうのだ。

 ちなみに彼女が立ち始めたのも生後10ヶ月ぐらいだった。気づいたらつかまり立ちをしていた。その時もこの子は天才かしら? と思ったものである。

 こんなに早く立つモノなの? 他の子とウチの子は違うのかしら? 天才なのかしら? と親の脳みそは思うわけである。子どもによっては早く立つ子もいれば、遅く立つ子もいる。ただそれだけの事である。


 積み木を重ねると、積み木が重なると知った1歳のネネ博士。

 パパが積み木を重ねてあげると潰しに来る。積み木がバラバラバラ、と崩れていくのが面白いらしく「キャキャキャ」と嬉しそうに笑う。


 たぶんパパがパパらしくなるのも、この頃だと思う。積み木を崩して爆笑するネネちゃん。

 それは確実に赤ちゃんより成長して、少し意思疎通が出来るようになって、……いや、コチラの意思がネネちゃんに伝わっているって訳じゃなくて、ネネちゃんの意思が何となくわかるようになって、おっぱいを飲む回数が減り、それに比例するようにママに抱っこされる時間より、パパと遊ぶ時間が増えて2人で実験をするようになるのだ。


 でも、やっぱりママが好きなネネちゃんは、パパと2人で実験をしていても「ママ」と言って美子さんのところに抱きつきに行く。


 ちなみにネネちゃんが「まんま」の次に喋った言葉は、「ママ」である。

 これはわかっていたことである。まんまからママにはなりやすいのである。

 その次に「パパ」が来るモノと思っていた。

 だけど違った。

 彼女が次に喋ったのは、「やったー」である。

 しかも、ちゃんと握りこぶしを振り上げて「やったー」と叫んだのである。よくよく聞くと小さい「っ」が入っていないような舌足らずな「やたぁー」である。

 何かを手に入れて「やたぁー」。嬉しいことがあれば「やたぁー」。

 ネネちゃんよ、パパよりそっちの方が難しくないか?

 まさか「やったー」に負けるとは……。悔しいやら、可愛いやら。

 彼女がパパを呼ぶ時は「ママ」だった。

 きっとネネちゃんにとってはパパもママもさほど変わらない存在なんだろう。おっぱいが出るかどうかの違いなんだろう。


 ネネ博士との実験は家だけには止まらない。いざ、外へ。

 コチラの世界にも公園に近いところはある。通称、子ども広場である。

 子ども広場には遊具は無い。広い芝生スペースと隅っこに砂場があるだけである。

 彼女の実験場所は隅っこにある砂場だった。

 パパがいる時はパパがお供するし、パパが仕事をしている時はママがお供をしている。


 砂場に行き始めた当初は、砂の味を確認していた。すごい不味いらしく、口に砂を入れて、泣きそうな困ったような顔をして、口の中の砂を取ってくれ、とジェスチャーと難語でパパに訴えてきた。

 一回で砂が不味い、ってことが理解できなかったらしく、ネネ博士は何度か砂を口に突っ込んでいた。

 もしかしたら、今日こそは美味しいのかもしれない、と思ったのかもしれない。

 だけど何度も確認するうちに、昨日もその前の日も不味かった。だから今日も不味いだろうと理解できたらしく、砂は食べなくなった。


 なぜかネネ博士は、自分が持って来たお砂場セットではなく、人が使っているお砂場セットを使いたがった。

「人のモノを使いたい時は貸して、って言うんだよ」と俺は、まだ喋ることもできないネネちゃんに教える。

 喋らなくても何度も教えていたら伝わるモノで、人のモノを借りたい時は、「あっ、あっ」と指差して、貸してくれアピールするようになる。ウチの子は天才かしら?


 よその子も、自分のモノより人のモノの方が魅力的に感じるらしく、ネネちゃんのお砂場セットを貸してくれとオファーが来る。

「こういう時はいいよ、って言うんだよ」とネネちゃんに教えてあげる。

 そもそもネネちゃんは自分のお砂場セットに興味がないので、人が自分のお砂場セットを使おうが無視である。

 いいよ、はまだ覚えなかった。


 っで、お砂場セットを貸し借りしている子ども達とネネちゃんは仲良くなる。お砂場は子どもの社交場でもあるのだ。


 遊んでいる子ども達を見ながら、お母さんお父さんも喋る。話の内容は、子どもについてである。

 コチラの世界にも幼稚園のようなところがあることを教えてもらう。毎日行くような場所じゃなく、週に2度ほど行くような場所らしい。

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