第2話 ゴブリンの逆襲
赤ちゃんは女の子だった。
男に付いているはずのアレが付いていない。
首は骨がないようにグネングネンだった。支えてあげないと頭が落ちそうである。
俺は赤ちゃんの頭を腕で支えた。産毛の柔らかい髪。頭部すらも柔らかい。赤ちゃんを落としてしまったら死んでしまいそう。
慎重に俺はしゃがんだ。
泣いている赤ちゃんを地面に置きたくなかったので、胡座をかいて膝の上に乗せた。そして俺は茶色いポンチョを脱いで、息ができるように顔だけ出して赤ちゃんを包んだ。
「寒いね。家に連れて帰ってあげるからね」
と俺は赤ちゃんに言った。
「オギャー、オギャー」と赤ちゃんは泣き叫んでいた。
赤ちゃんを優しく抱きしめ、俺は小走りに家に向かった。
オギャー、オギャー、と赤ちゃんの泣き声。
俺の腕の中には小さい命があった。俺の腕の中に未来があった。
「可愛い、可愛い」
と俺は自然に呟いていた。
子どもはいらないと思っていたのに、いざ赤ちゃんを抱くとこの子を守らなくちゃいけないと思えた。
胸がキュンと痛くなるほど赤ちゃんは可愛かった。玉のような赤ちゃんである。
口からタバコの煙のように白い息が溢れ出す。
近くで枯葉を踏む足音が聞こえた。
赤ちゃんを潰さないようにギュッと抱きしめて、俺は走った。
グサ、グサ、グサと足音が俺を追いかけて来ていた。
後ろを振り返る。
緑の肌をした小柄な人型魔物が俺を追いかけ来ていた。
ゴブリン。
しかも2匹もいる。
彼等は獣の皮を防寒具として着ていた。
赤い瞳が俺を殺すために睨んでいる。彼等の手には俺の頭部を潰すための棍棒が握られていた。
赤ちゃんの泣き声で居場所がバレてしまったんだろう。仲間を殺されて警戒していたのだろう。
走りながら俺は空気を吸った。冷たい空気を吸うたびに肺が痛くなる。
ゴブリンに襲われてしまったら赤ちゃんも殺されてしまう。
俺は手の平に魔力を溜めた。
体の熱い血液が手の平に集中するようなイメージ。
立ち止まり、追いかけて来る彼等に体を向けた。
「ファイアーボール」
と俺は叫んだ。
言葉にするとイメージを具現化しやすくなる。
俺の手の平から熱い炎の塊が放出された。
ファイアーボールは名前の通り、火球である。
1匹のゴブリンにファイアーボールが当たった。
着ていた獣の皮や棍棒に引火する。
ゴブリンは火を消すために、地面にゴロゴロと慌てて転がった。
もう1匹もファイアーボールで攻撃しようと手に魔力を溜め始めた。
次にファイアーボールを出すまでに時間がかかる。
手に魔力が集まるまでの時間に、ゴブリンは火ダルマになった仲間を助けようともせずに、鋭い目をしてコチラに向かって走って来た。
魔力が手に溜まった。
そう思った瞬間に、頭に衝撃を感じた。
ゴーン、と鼓膜が響く。
足を踏ん張って倒れるのを食い止めた。
赤ちゃんを守らなくちゃ。その意思が俺を気絶させるのを引き止めた。
オギャー、オギャー、と相変わらず赤ちゃんは泣いていた。
俺を攻撃したのは3匹目のゴブリンだった。
気づかないうちに別の場所から近づいて来ていたらしい。
手を伸ばせば届く距離にゴブリンが立っていた。剥いだ獣の皮を着ているせいで腐った肉の匂いがする。
この距離なら風魔法が届く。
「ウインドブレード」
手に風の刃を作り、ゴブリンの首を切った。射程範囲3メートルぐらいの攻撃である。
ゴブリンは首から血をブッシューーーと溢れ出して倒れた。
まだ1匹残っている。
俺は逃げた。
目に血が入ってしみる。
片目を瞑り、走りながら赤ちゃんを見た。
オギャーオギャーと泣いていた赤ちゃんが、眠たそうに小さなアクビをした。戦っている状況も知らないで呑気である。でも可愛い。
岩陰に隠れた。
乱れた呼吸を整え、息を止めた。
まだ名前もない赤ちゃんは眠りに落ちた。
抱っこ慣れをしていないせいで腕に鈍い痛みを感じた。
俺達が岩陰に隠れたことも気づかないでゴブリンが通り過ぎた。
俺はしゃがみ、地面に触った。
「アーススプリッター」
と俺はスキル名を叫んだ。
地面が割れる。
割れた地面にゴブリンが落ちる。
深さ150センチぐらいの割れ。だけどゴブリンは小柄で仲間に引き上げてもらえないと出て来れないだろう。
ようやく門まで辿り着いた。
門番に赤ちゃんがバレてしまってはいけないような気がして、ポンチョに隠して門を通った。
帰りが早いじゃないか、みたいな事を門番に言われたけど、攻撃されて動きが鈍くなってしまったから帰って来たんだと誤魔化した。
だらしねぇ奴だな、と門番にバカにされたけど、へへへと笑って誤魔化す。
手に持っているモノはなんだい? と門番に尋ねられた。
ゴブリンのはらわただよ、と俺は答えた。依頼で持って帰って来たんだよ、と俺は言う。
冒険者は変なモノを持って帰って来るんだな、と門番は顔をしかめた。
門をくぐると俺は早歩きで家に帰った。
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