第43話 魔族


貸し切りと言えど、完全に二人じゃない。


御者が1人と馬に乗った護衛が2人いる。


まぁ、当たり前と言えば当たり前だな。


「しかし、帝国迄馬車を貸し切りなんて豪勢ですね」


「まぁ、ちょっとお金が手に入って、ですが流石に馬車を貸し切りにしたらかつかつですよ!」


「そりゃそうだろう? 貴族や大商人じゃなければ貸し切りなんてしないからな」


「その歳でたいしたもんだ」


「はははっ、新婚みたいな物で見栄を張りました」


「理人…もしかして無理させちゃった?」


「まぁ、この位また稼げば良いんだ」


「うん、頑張ってね」


本当はお金なら使いきれない程ある。


だが、それがバレたら、治安が悪い異世界だ。


殺されたりしたらたまった物じゃない。


だからこそ謙虚に生きなければならない。


◆◆◆


王国を逃げなくちゃいけない訳が解った。


俺達の目の前には…おびただしい魔族の軍団が居る。


「気がつかれないように迂回しましょう」


「ああっ、そうだな」


「これだけ距離があれば大丈夫だ」


護衛の1人が斥候に優れていて良かった。


そうじゃ無ければ…詰んでいた。


あれが、おそらく魔族か…魔物に混ざって、無数の魔族も行軍している。


明らかに見た目からして知能が高く強そうな個体がいる。


あれがきっと魔族だ。


あの数の魔族や魔物が相手じゃ、恐らく大樹達勇者は勝てないだろう。


ジョブやスキルの恩恵がどの程度の物か解らないが…数千、数万相手には恐らく通じない気がする。


「ミウ…これつけて」


俺はブレスレットを取り出し、一つはミウに渡し、一つは自分が身につけた。


今の所、この馬車は見つかっていない。


だが…万が一見つかったら…俺達は終わる。


このまま迂回して立ち去れば…


『見ぃつけた』


空から声が聞こえた声がした。


「うわぁぁぁぁぁーーーー」


「助けて、助けてーーー助けてーーっ」


「….」


馬車から外を覗くと、空から蝙蝠の様な羽の魔物が3体で馬車を襲ってきていた。


御者の首は無くなって死んでいた。


2人の冒険者も、もう瀕死で死ぬのは時間の問題だ。


助ける…そんな余裕はない。


「ミウ…逃げるぞ」


「うん…」


静かに手を取り、逃げ出そうとしたが…


『逃げられると思うの』


その中の1体がこちらに飛んできた。


ヤバい…


「理人―――っ」


ミウの背中を爪で突いて…嘘だろう手が胸のあたりを貫通していていた。


『次はお前だ』


「ミウ、ミウ…ミウーーーっ」


「り…ひ…と…」


『お前もすぐに後を追う事になるわ』


そういうと魔族は俺の心臓に爪を突き立てた。


「魔族…貴様は…俺の…ぐふっ、うがっあああああーーーーっ 俺の敵かーーー」


『人類は全員敵だ』


「そうか…」


俺はミウの手を握り…祈りながら…ただ冷たくなっていく。

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