第22話 ミウSIDE 涙
もう終わりが近いのかも知れない。
顔から体まで焼けただれているから犯されたりしない。
「女が落ちている…持って帰ろうぜ…うわっ化け物だ」
「これじゃ、毛布被せても出来ねーー死ね!」
「ぐふっ」
運が良いのか悪いのか顔から体に大きな火傷を負ったから犯されたりしない…
スラムまでは追って来なかった…だけど、もう動けないよ。
もう何日食べていないか解らない…顔は焼ける様に痛いし、動けない
「化け物――っ」
「化け物…キモイんだよ」
「あれよりはマシね、汚いから手で触らないで石をぶつけるのよ」
「石ぶつけろーーっ」
もう動けないよ…子供から親まで石をぶつけてくる…
あはは、とうとうハエが集り始めた。
当たり前だよね…垂れ流しなんだから…でも
それすら払えない…
つまらない人生だったな…親に捨てられて盗賊に拾われて。
魔族みたいな緑髪だから、性的な事はされなかったけど…
人を殺し奪わないといけない生活。
それをした時だけが唯一褒められる。
沢山殺してきたから…今度は私の番が来ただけだ…
どうせ死ぬなら…早く死にたい…惨めだよ…
誰かが近づいてきた、また石を投げられるのかな…
黒い綺麗な髪、肌が白くて背が高い、目が少し怖いけど騎士様みたいに綺麗な人だ…
きっと、ミウと違って幸せな人生を歩んでいそうだな…
この人に見られた瞬間、自分が凄く惨めに思えたよ…
そして、こんな姿で居るのが恥ずかしかった…
盗賊もスラムに居るのもミウと同じクズだから気にならない。
だけど、この人は違う…
そんな人の前で死にかけてハエを払う…惨めだ。
「なに…見ているの…この化け物みたいな顔を見て面白いの…」
だから、絞り出すように声を出した。
なんで見ているんだろう?
殴りも石をぶつけたりもしないで…ただただ見ていた。
なんで…解らない?
「あの…俺の奴隷になりませんか?」
奴隷?
そんな価値が私にあるとは思えない…
もし、五体満足でも…あり得ないよ。
「冗談…今のミウは…」
しかも火傷までして膿だらけの化け物みたいなのに…
「しんどいんだろう? なるかならないだけで良いよ」
幻聴が聞こえてきた気がする。
こんな状態の私にこんな事言うわけないよね…
「あははっ、幻覚なのかな…なるよ…なる…」
幻覚や幻聴なら、何言ったっていいよね。
「解った」
そう聞こえた様な気がした。
◆◆◆
う~ん。
何だろう?
すごくフカフカして気持ちが良いな…それになんだか暖かい。
体も痒くないしハエの羽音もしない。
私…きっと死んじゃったのかな…まぁ良いや…このまま寝て居よう。
う~ん気持ち良い。
最高…えっ…顔がごわごわしていない。
ゆっくりと目をあけてみた。
えっ、何で裸なのかな?
だけど、これは夢?
火傷が全部無くなっている…それだけじゃなく古傷まで全部無くなっている…
嘘嘘嘘…髪の毛も体もまるで水浴びした後みたいに綺麗。
目を覚ますとまた嫌いな嫌な現実が待っているのかな?
そう思いながら目を開けると…
「えっえええええーーーっ」
「おはよう!治療が必要だったから…悪いけど裸にしたんだ…一刻を争う状態だったから、悪い…」
目の前に…あの綺麗な人が居た。
「…ん」
「一応、服も用意したんだ、ほらこれ着て…」
新品の綺麗な服。
こんなの着た事無いよ…
「ああっ…」
「此処に置いておくから着てくれ…その…目のやり場に困るから、もし食べられるなら胃に優しい食べ物を用意したからね、それじゃ隣の部屋に居るから」
「ああっ、あの」
行っちゃった…
あれは夢じゃ無かったの…
右腕にしっかりと奴隷紋が入っているじゃない。
しかもこれ赤い奴だから『終身奴隷』だ。
たしか、元犯罪者に入れる奴隷紋でこれを入れられると生涯主人になった人に逆らえなくなる奴だ。
逆に誰かの『終身奴隷』になれば、今までの罪は許されるから、もうミウは犯罪者じゃない。
またこれから先ミウが犯罪を犯せば、それは全部『主人』のせいになる。
尤も、主人の命令には逆らえないし『死ね』と言えば死ぬしかない。
身も心も全部他人の物になる事で償ないになる。
それが『終身奴隷』…犯罪奴隷になる事。
でも…奴隷でもなんでも『あの人』は私の命を救ってくれた。
今迄が最低なんだから、あれ以下になる訳はないよね。
新しい服…しかも綺麗。
奴隷が着るような服じゃない。
服を着て…となりに行くと….
「体、大丈夫?! 食事や果物を用意したんだ、もし大丈夫なら遠慮しないで食ってくれ」
私の為に…新しい服と美味しそうな食事…
こんな事誰もしてくれなかったよ…
「うっうっ…」
「どうした?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーん、グスッスンスン」
「どうしたんだよ…まぁ良いや辛かったら幾らでも泣いても良いよ」
「うわぁぁぁん、うわぁぁぁぁぁぁん」
なんでか解らないけど、涙が止まらなくなった…
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