大聖女と嘘つき公爵〜偽物だとして処刑された聖女は、そうして初めて本当に愛してくれていた者を知る〜

はねまる

プロローグ:その公爵は偽りを吐く

「……ふふふ。さすがは偽物にせもの殿だな。相変わらず人をたばかることに精が出ているようですな」


 その朗々ろうろうとした皮肉の言葉に、アザリアは思わずしかめつらを作ることになった。

 

(また貴方ですか)

 

 胸中でうんざりと呟き、その発言の主に目を向ける。


 ここはとある村の外れだ。

 人家も少なく、あるのは雑草のにぎわいと、野鳥の軽やかなさえずりばかり。

 

 そんなひなびた農村の風景の中に、彼は立っていた。


 数多あまたの従者を連れ、華やかな衣装をまとった気品のある青年──ではあるのだが、アザリアは彼について好意的な感想を抱いたことは一度として無い。


 なにせ、である。

 彼は敵なのだ。

 品の良い顔立ちをして、しかし絶望的に醜悪しゅうあくな目つきをしているあの男。

 レド・レマウス。

 ケルロー公爵家の当主であり、王家であっても一定の敬意を持って接する必要がある大物だ。

 だが、アザリアは彼に敬意を向けるつもりにはまったくなれないのだった。

 露骨ろこつ嫌悪けんおの表情を向けることになる。


「まったく、大したお方ですね。私がここにいるとわざわざ聞きつけていらっしゃったので? ケルロー公爵とは、よほどヒマなお立場なのですか?」


 皮肉を返す。

 すると、あの男──レドは嫌味な笑みで「ふん」と鼻を鳴らしてきた。


「ご挨拶だが、貴殿のような者に言われたくは無い。そろそろ認められたらいかがですかな?」

「いつものことですが、一応問わせていただきましょう。何を認めろと?」

 

 彼は「はぁ」と嘆かわしげに肩をすくめてきた。


「言わねば分からんとは、やはり愚かな。しかるべき身分を持たず、『燐光りんこう」すら持たない。そろそろ認めることだ。聖女をかたれ者であると認め、王家、万民ばんみんに謝罪するといい」

 

 彼は得意げな顔をして、アザリアを指差してきている。

 アザリアはうんざりと肩を落とす。

 いつも通りだった。

 いつも通りの、自分に酔っているような間抜けな糾弾きゅうだんである。


(まったく、この男は……)


 そして、これまたいつも通りだ。

 アザリアは深々と、どうしようもなくため息をつくのだった。

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