第262話 母の特権

食事が始まると、ジェラルドが、そういえば、と話し始める。


「昨日の夜伝える予定だったのだが、アノス老の旅にはヴァローナが付き添う事になったよ」

「まあ、お爺様が、一緒に行って下さるのね!」


マリアローゼは喜色満面で嬉しさを顕にした。

5年も離れていたら、何時寿命がきてもおかしくないのだ。

出来る限り、アノス老の元で色々と学びたいマリアローゼは、両手を胸の前で組んで、にこにこと微笑む。


「それからマリクにエレパースに工房のレノとクリスタ、警備にウルラートゥスも向かう」

「まあ……ウルも?おうちの警備は大丈夫でして?」


流石に心配そうな顔で父と母を見るマリアローゼに、二人は顔を見合わせて笑ってから答えた。


「父も強いことを忘れないでくれ。それに警備に強い人間は他にも雇っているから大丈夫だよ、ローゼ」


「分かりました、お父様」


マリアローゼはこくん、と頷いた。

父が万全の用意をしていない訳がない、とマリアローゼは納得する。

本当に不安なのは、父やこの屋敷から離れて旅立つ事の方なのかもしれない。


でも、ルーナやノクスがいる。

母や兄も、カンナもユリアもいるのだ。

それはそれとして、今回は面倒臭い理由の旅ではないし、冒険に近いのではないだろうか?

そう意識を切り替えると、途端にわくわくしてくるのが不思議である。

途中で通り過ぎる村や町でも、マスロやレスティアでの出会いのように、新たな人物や、新たな食べ物と出会えるかもしれない。


そうですわ!

お上品なドレスなどより、動きやすい服の方が良いのではなくて!?


マリアローゼは自分の思い付きに満足しながら、まだ履いたことの無いズボン姿の自分を思い浮かべた。


女の旅は危険だから、男装するのが良いと何かの本でも読みましたわね!


うんうん、と頷いて、マリアローゼは早速、紅茶で喉を潤してから、母に問いかけた。


「お母様、わたくし、ドレスではなくて、動きやすい服が欲しいのですけれど」


「駄目だよ!ローゼ!生足を晒すなんてとんでもないよ!!!」

「それは俺も反対だ」

「お父さんは許しません」


いやいや。

何故半ズボン限定になってるんですか。


そして、兄や父までむっつりと腕を組んでいる。


「あの、足首まで隠れるズボンでしたら宜しいのでは?」

「ローゼにはフワフワなドレスが似合うと思うよ!僕は!」

「俺はヒラヒラのが似合うと思う」

「私は何を着てても世界一可愛いと思うよ」


そういう話じゃない。


ミルリーリウムにマリアローゼは首を振って見せると、ミルリーリウムはふんす!と頷いた。


「殿方達は黙ってらして。女性の衣装にあれこれ口を出すものではございませんわ。

母であるわたくしが!マリアローゼと!相談して決めますの」


フフン!とドヤ顔をして母が言うと、渋々男性陣は口を閉ざした。

女の子の服を決めるのは、ある意味母親の特権でもある。


「では登城する。また晩餐に」

「ああ、僕の小鳥ちゃん!君の洋服をえらb…」


何かを言おうとしたジェレイドが、首根っこを父に捕まえられて引きずられて退場していく。

やっと騒がしい人がいなくなったので、安心してマリアローゼは母と手を繋いで部屋へと戻った。

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