第258話 遠い過去の縁
机を挟んだ長椅子には、ジェレイドがしょんぼりと座っている。
父は執務机に肘を着き、指を組んでこちらを見ていた。
「ジェレイド叔父様が、何故わたくしの兄を傷つけて、わたくしの自由を閉ざしかねない策を弄したのか、皆目見当がつきませんし、信用なりませんわ。信用出来ない方を頼って、これからの5年という歳月を過ごすのは政治闘争に巻き込まれるより辛うございます」
言葉を紡がれる度に、ジェレイドはしおしおと身を縮こまらせるかのように萎れている。
「シルヴァインには、今日謝罪をしました。ロ…マリアローゼにも謝罪します」
「何故、そんな事をしたのか理由をお聞かせ頂けなければ、謝罪は受け入れませんわ」
ジェラルドは苦笑し、ジェレイドは片手で顔を覆った。
「兄上、部屋をお借りしても?」
「構わん。だが、明日一日、私の仕事を手伝うように」
そういうと父は席を立ち、侍従のランバートも後に続いて出て行く。
え?待って?
叔父上と二人きりにしていいのですか?!?
止める間もなく父と侍従は出て行ってしまったので、仕方なくマリアローゼはジェレイドを見た。
「理由は、嫉妬だよ」
「まだ年端もいかない子供にですか?」
正確な年齢は聞いていないが、30近い筈なので、二周りも年下の甥に絡んだ事になる。
実に大人気ない、とマリアローゼはぷりぷり怒った。
「君は僕の妹だからね」
はて?
姪なのだが…この人は何を仰っているのだろうか。
予想外の一言に、マリアローゼの怒りは中断されて、きょとん、とした。
そして、否定する前に、ジェレイドが続ける。
「転生する前からだよ」
「えっ?いえ、わたくし、前世で兄はいませんでしたけれ…ど……あれ?」
マリアローゼは自分の頭を押えた。
確かに兄はいなかった。
けれど、それは物心ついた時にいなかったから、そういう認識を普段はしていたのだ。
まだ赤ちゃんの頃に兄は亡くなったので、父はそれはもう次に生まれた「私」を可愛がっていたと母が言っていた。
父の体罰を虐待だと捉えていなかったのは、きちんと父や母の愛情も貰っていたからだ。
「赤ちゃんの時に…死んでしまわれた……?」
「いや、それは多分僕じゃない」
マリアローゼはその返答にぽかん、と口を開けた。
「今すごく真剣に悩んで思い出しましたのに…?」
「言い方が悪かったね。もっともっと遥か昔の話だよ。君が思い出せているのは最近の記憶だろう」
何だか話が壮大かつ胡散臭くなってきたぞ?
と、マリアローゼはジト目でジェレイドを見つめる。
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