第226話 チョコレートと王子達
マリアローゼはとてとてと急いで席に戻り、椅子に座ると、目の前に用意された菓子を見詰めた。
まだトマトのないこの世界に、チョコレートは存在する。
王妃が言った珍しい菓子というのは、チョコレートではないのは確かだ。
だが、見た目や味を考慮しても、簡単に作れるものではない。
チョコレート大好きな転生者が、血眼で捜したのだろうか。
口に入れると、甘く溶け出して、マリアローゼは幸せそうに両頬に手を置いた。
「気に入ったようですね。よかったこと」
「ええ、とても美味ですわ」
蜂蜜の香りに混ざって、柑橘系の良い香りがするので、甘いのにくどくない仕上がりだ。
やはり無香料の甘味料が欲しいところである。
「こちらの原料はどちらから仕入れておりますの?アルハサドでしょうか?それともグーラで…」
「そうですわ。大半はアルハサドから、グーラからも輸入しておりますわね。
フィロソフィ公爵家の領地でも栽培はしていたはずよ」
「まあ……」
スラスラと答える王妃はやはり優秀だし、常に勉強や情報収集を欠かしていないのだろう。
王妃は王妃で目を細めて、マリアローゼに優しい眼差しを向ける。
「良く勉強しているのですね」
「いえ、まだ足りませんの。原料となる植物が南方で育つと知っていただけでございます…」
「その歳でその事を知っていて、輸入先も見当がつくのでしたら十分よ」
マリアローゼは、それ以上否定する事は出来ずに、ニッコリ微笑んでから、他の菓子に手を伸ばした。
公爵家の領地でも、カカオを育てているとは知らなかったが、育てたのは十中八九ジェレイドだ。
だとしたら、このチョコレートの件も彼が関わっていてもおかしくはない。
もしかしたら、予想以上に彼の個人資産は莫大なのではないだろうか。
そしてやはり、転生者なのだろう。
長谷部という転生者と付き合いがあったとはいえ、言動にそれらしい兆候が多く見えることもその理由だ。
一度ゆっくりと話してみる必要がありそうだ、とマリアローゼは美味しい菓子に頬を膨らませつつ思った。
考え事をしつつも、すっかり菓子を食べるのに夢中になっていたマリアローゼはハッと手を止めた。
ミルリーリウムとカメリアの会話の隙を窺いつつ、マリアローゼは質問する。
「あの、今日殿下達はどうされていますのでしょうか?わたくし、ロランド殿下にお返ししたい物がございまして…
出来ればアルベルト殿下にも改めて御礼を申し上げたいのですが…」
「まあ……では此処に呼んでも良いかしら?二人とも平素と同じ予定で動いているけれど、
今頃落ち着かない気持ちで過ごしている筈だもの」
カメリアとミルリーリウムは意味深な目配せをして、くすくすと笑い合う。
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