第223話 公爵令嬢の望む物

「無事で何よりであった。そなたが戻って、我が王妃も息子達も大変な喜びようだ。

領地では伸びやかに過ごすと良い。何か希望があれば申してみよ」


挨拶を受けた王座に座る美しい王が、笑顔で言った言葉にマリアローゼは目を瞬かせた。


ん?

何故?

特に功績は挙げていないし、ただ行って戻って来ただけである。

もし交渉で何かを得たのなら、それは父やモルガナ公爵の力なのだし…


「勿体無いお言葉に感謝致します。ですが、わたくしは何かを為しえた訳ではございません」


とりあえず、言葉を選んで無難に答えながら、宰相として王の近くに控えている父を盗み見ると、

僅かに頷いた。


頷いた?

え?何か申していいの?


けれど、何かをくれ、というのは抵抗がある。

頭の中でぐるぐる悩んでいると、王は言葉を続けた。


「謙遜は良い。色々と国勢に影響する物を、得たのだ。我が姪よ」


確かに姪ですけども?!?

何かを得たって言われても…もしかして、リトリーの事かしら?

秘密と言っても、公爵家だけで囲っていたら謀反と疑われかねない秘密だし、

秘密はばれるものなので、王や王妃に伝えたとしても異論はない。


「では、申し上げます。わたくしは我が領において、孤児や貧民の育成に力を入れる予定でございます。

つきましては、孤児や貧民、生活に困窮している者の領地の移動を許可する書面を頂きとう存じます。

貴重な働き手などを奪う訳ではなく、大量の人々を移す訳でもないので、他の領にも痛手にはならぬかと

存じます」


気になっていたのは、この領民の移動についてだった。

孤児は問題ないだろうけれど、もし他の人を移動させたい時に一々交渉するのは面倒だな、と思っていたのだ。

勿論次善の策はないことはない。

交渉材料さえあれば、簡単に手放せるような人材しか求めるつもりもないからだ。


むふん、とドヤ顔で見ると、父は目を見開いている。

多分、驚いている。


え?駄目だったのかしら?


隣の兄を見上げると、口を歪めて俯いている。

こっちは笑いそうだ。


王と王妃を見ると、やはり驚いたように少しの間時が止っている。


「よい。早速作らせよう。しかし、ううむ。我が姪でもあるが、お前の娘は常識では測れぬな」

「私も日々驚かされております」


王がジェラルドに顔を向けると、畏まった雰囲気で、ジェラルドが王へと返事と共に会釈をした。


「もっと他に、自らの財となるような物の希望はないのか?」


興味津々、という目付きで、王が口にする。


自らの財、財産やお金と言われても、物や衣装や宝石?などは特に欲しくない。

かといって、領地!などとは口に出せないし、そこまで強欲にもなれない。

少し悩みはしたものの、特に思いつかなかった。


「今は思い浮かびませんので、考えるお時間を賜りたいと存じます」

「ふむ。いいだろう。そなたが一体何を欲するのか興味がある」


愉しむ様に王が目を細めて笑い、マリアローゼはにっこりと微笑を返した。



謁見が終ると、一緒に宰相である父も部屋から出て、スッとマリアローゼを抱き上げた。


「もっと他に欲しいものは無かったのかい?」


「だって、お父様とお母様が十分に色々な物を与えてくださいますし…お二人から戴けずに、

陛下から戴ける物と言ったら……あとは領地くらいしか…」


マリアローゼが言ったところで、ブハッとシルヴァインが噴き出した。

そのまま快活な笑い声をあげている。


「いえ、あの、広い領地とか豊かな領地ではなく…あの狭くていいので薬草が育つところがあればいいなと、……もう!お兄様うるさいですわ!笑わないでくださいませ!」


「そうか。それでも陛下は許可したかもしれないが、我が家の領地を好きに使って構わないんだよ、ローゼ」

「……それは、有難う存じます。フォルティス家の領地も使わせて戴く予定です」


ジェラルドは、ははっとシルヴァインのように嬉しそうに笑った。


「それも問題ないだろう。さて、執務室へ向かおうか」


廊下で待っていたランバート、カンナ、ユリア、ルーナも共にジェラルドの執務室へ向かう。


あら?1人足りない…。


「叔父様は何処に消えましたの……?」


「堅苦しい事は苦手だからと、謁見拒否して宰相様のお部屋に先に行くと言って消えましたよ」

「そうですのね」


ユリアの言葉に、マリアローゼはこくんと頷いた。

ただでさえ、父を驚かせて兄を笑わせた事態を引き起こしたので、逆にジェレイドが不在で良かったのかも知れない。

マリアローゼはもう一度こくん、と頷いた。

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