第193話 お魚争奪戦
「何て、何て、可愛らしいんだマリアローゼ!
お花の妖精さんかな?でもただの妖精さんじゃないな?
そうか!妖精のお姫様か!」
何と言う三段論法だろうか。
マリアローゼは褒められているのに、何だかとっても居心地が悪くなっていた。
「…ルーナがドレスを選んでくれましたの。飾ってくれたのもルーナですわ」
褒めるならルーナを!
と転嫁すると、ジェレイドはルーナに視線を向けた。
「ふむ。君が専属侍女殿か。幼いのに腕は確かだし、将来有望だね。
これからもロゼたんを宜しく頼むよ」
「畏まりました。邁進いたします」
はて?
今変な単語を耳にしたのだが…?
ロゼたん?
まさかの転生者…?
転生者の大安売りか?
ぽかんと口を開けてジェレイドを見上げるマリアローゼに、ジェレイドは手を差し出した。
「さあ、席まで短い距離だけど、エスコート致しましょう。我が妖精姫」
そういえば。
あの、忌まわしい王城での二つ名は、この人が出所ではないのだろうか?
と疑いが芽生えるが、とりあえず差し出された手に、マリアローゼはちょこんと手を乗せた。
「ありがとう存じます、おじ…レイ様」
叔父様と言いかけると、一気に表情が曇ったので、マリアローゼは名前を言い直した。
だが、流石に目下でもなければ、従業員でもない相手を呼び捨てには出来ない。
納得したようで、名前を呼ぶとジェレイドはにっこりと笑顔を浮かべた。
本来なら宿のテラスや食堂で食事を楽しみたいところだが、警備の関係上自室で取らざるを得ない。
居間は食事の度に家具を入れ替えるという、何とも迷惑な労力がかかっていた。
だが、ギラッファが公爵邸から伴なって来た従僕達で、力仕事は問題ないようだ。
旅の間は給仕もエイラがしていたが、今は従僕達が屋敷でのように働いている。
「こちらは今朝、マリアローゼ様とシルヴァイン様がお釣りになられたお魚になります」
基本的に1皿に1品盛り付けて、皿ごと目の前に置かれていく。
取り分けずに、客や主人が給仕された料理を皿に盛るのは、子供のいない晩餐会の時だ。
運ばれてきた食事の説明を、ピンと背筋を伸ばしたギラッファが恭しく伝える。
「食べるのが勿体ないな。一口食べて残りは保管しておこうか…」
などと不穏な事を言い出すジェレイドに、マリアローゼは眉を下げて抗議した。
「腐らせてしまいますわ。どうぞ、レイ様の血肉にしてくださいませ」
栄養にしてくれないと、魚達も命を失った意味がないのだ。
という意味でしかないのだが、マリアローゼの方を見たジェレイドは笑顔の中に狂気を覗かせている。
「何だか興奮するね?!」
「しないでくださいませ」
ぴしゃりと断るが、嬉しそうに魚を食べ始めたので、とりあえずはまあいいか、とマリアローゼも魚を食べ始めた。
淡水魚だけあって淡白ではあるが、付け合せの野菜や香草でとても良い風味を醸している。
「美味しいですわ」
ほう、と息をつきながら堪能している横で、ジェレイドは部屋の壁際にあるテーブルに視線を送った。
白い布を掛けられたテーブルの上には、皿に盛られた残りの魚が銀盆に並んでいる。
「残りも全部貰おうか」
「俺が食べます」
「私が食べます」
ジェレイドの依頼に、シルヴァインとユリアも声を重ねる。
いきなり争奪戦の勃発である。
「僕が一番年上だからね」
「俺は育ちざかりですから」
「私だって今日はめちゃくちゃカロリー消費してるんで」
一歩も退く様子はないし、分け合うという道を自ら放棄しているので、マリアローゼが仲裁に入った。
「全員同じ数で分けてくださいませ。余ったものはルーナとノクスに下げ渡しますわ。
わたくしのお魚さんなので、異論は認めませんことよ」
キッ、と眉を吊り上げて、叱るつもりで言っているのだが、その様子を見た三人は笑顔だ。
納得いかない。
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