第159話 手紙とフクロウ
シルヴァインと彼に報告があるというユリアを残して、
ルーナの開いた扉の中に、マリアローゼとカンナが入っていく。
「ええと、わたくしこれからお手紙を書きますので、ちょっと失礼致しますわね」
「では、私は読書をしてます」
窓際に置かれた机にマリアローゼが座ると、ルーナが手紙を書く一式を用意した。
カンナはすぐ近くの壁際に置いた椅子に腰掛けて、本を読み始める。
「ルーナ、わたくしの鞄もお願いしますわ」
「かしこまりました」
いつもルーナが持ち歩いている手荷物を持って、マリアローゼの足元へと運び、
ルーナはマリアローゼの為にお茶を用意しにその場を離れた。
マリアローゼは幾つかの手紙をゆっくりと書いていく。
1通はリトリーに向けて、もう1通は公爵邸にいる人々に向けての手紙だ。
リトリーに対しては記憶を失って、名前をオリーヴェに改めたテレーゼの話、
それから彼女の処遇の話を説明して、最後は幸運を祈っている事をしたためた。
公爵邸に関しては、マリクに薬のお礼や効果についての話と、レノやクリスタへの協力の話。
レノとクリスタの二人には、魔道具の進捗具合と、マリクが作る薬の量産体制について。
キースにはご機嫌伺いと、薬の生産についての統括を依頼と、代理人である商人との販路や諸々の相談。
エレパースには神聖国で手に入れた植物の種を小包にしたものにカードを添えた。
書き終わると、ルーナが淹れてくれた甘いミルクティで喉を潤した。
「ありがとう、ルーナ。とっても美味しいです」
ルーナはにっこりと嬉しそうに笑顔を見せる。
ひと段落ついたその瞬間に、バターーンと扉が開けられた。
ユリアが何かを持って立っていて、よく見ると大きな鳥籠だった。
「お約束のフクロウさんですよ!!」
鳥かごの中には、割と大き目の白いフクロウが止まり木にとまっている。
「まあ、白い。羽も、目も綺麗ですわね」
駆け寄ったマリアローゼが籠を覗き込んで、嬉しそうに笑った。
フクロウは白い羽に、銀色の嘴を持っている。
目は夜空のように青く澄んでいて、星を散らしたような光が宿っていた。
ユリアはまず、ルーナに厚手の革の手袋を渡しながら言う。
「フクロウを止まらせるほうの手に付けてあげてください」
「私もフクロウははじめてです」
側に寄ってきたカンナを見て、ユリアは少し考えた。
「私は別に素手でいけますけど、カンナさんは……革鎧なら大丈夫そうですね」
「大丈夫です」
しげしげとフクロウを見ていたマリアローゼが顔を上げてもじもじとするのを見て、
ユリアは鼻血が出ないか心配になり鼻と口を急いで覆う。
「あの…あの…噛まれたり、しないでしょうか?」
上目遣いの破壊力+もじもじの殲滅力にHPマイナスになりながら、ユリアが全力で答えた。
「噛まないと思いますけど、万が一噛みやがったら、私が噛んでやりますよ!」
「そ、それは可哀想なので、やめてあげてください」
ユリアがやると言ったら本当にやりそうで、マリアローゼは自分よりもフクロウの身が心配になるのだった。
ルーナが左手に革の手袋をはめてくれたので、ふんす!とやる気に満ちた目をユリアに向けると、
ユリアが籠に手を入れて、フクロウを取り出した。
もう片方の手に乗せてある餌を、マリアローゼに差し出す。
「これあげてみてください」
「分かりました」
恐る恐るフクロウの目を覗き込みながら、餌を嘴の近くへ持っていくと、静かに咥えてぽしぽしとフクロウが食べた。
ほわああと、頬を染めて大きく息を吸い込んで、マリアローゼは目を輝かせる。
「食べてますわ!」
「可愛いですね!じゃあカンナさんとルーナさんもどうぞ」
ユリアから餌を渡されたカンナは、今の可愛いですね、はマリアローゼ様の事なんだろうなあと思いながら、同じようにフクロウに餌を与えた。
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