第74話 勝手に解決する系お嬢様
キースの心強い申し出に、マリアローゼはゆっくりと切り出した。
「はい……では宿題を出しますね。犯罪の温床になる、孤児や貧民の救済についてですわ。
今回の事で教会はあてにならないと悟りました。
でも、恒久的に機能する互助的な仕組みがないと、資金的にも厳しくなります。
ですので、その辺を踏まえて、救って養うだけでなく、自立の道を……」
ふむふむ、うんうん、等と頷く兄達に説明していると…
「ああっ!」
マリアローゼが突然大きく声をあげた。
「どうしたローゼ」
「すみません。あの…話していたら解決してしまいました」
折角の宿題が台無しである。
ハハハ、とシルヴァインが笑い出し、キースも苦笑をして溜息をついた。
マリアローゼの悩みがなくなって嬉しいような、相談にのれなくて悲しいような複雑な顔だ。
「じゃあ、その解決方法を僕達できちんと計画書にしますから、話してみてください」
「!」
「わかりました!大筋は先程申し上げた通りで、主に力の無い子供、身寄りの無い女性などの弱者の支援です。
全面的な生活、衣食住の提供をする代わりに、其々に見合った労働と職業の訓練を課します。
勿論そこでも、単なる授業で終らないように利益に繋がるように工夫致します。
そして、他所でも働く事が可能な水準に達したら、彼らを派遣するのです」
「派遣……それはまた……」
「例えば生活なら洗濯や料理だったり、才能があるならば楽器や歌なども娯楽として提供できますし、武術ならば、店の用心棒だったり…多岐に渡ると思います。
金銭の遣り取りや取引は一括してこちらで行い、2~3割を施設への還元とすれば、運営可能なのではないかと。
労働する側は、技術の習得に信用出来る仕事の斡旋と安定した収入が得られますし、雇う側も信頼出来て、必要最低限の費用で済む便利な労働力を得られます。
派遣する施設側も、軌道に乗れば半永久的に収入があるので、次の人々への援助も出来ますし、慈善活動として寄付も募れますし、立派な経済活動にもなるのではないでしょうか」
シルヴァインは、全て聞いてから頷いて、キースの頭を大きな手でぽんぽんした。
「じゃあ、草案はお前に任せる。市場調査と価格設定もな」
「はい。でもこれは、仕事によっては冒険者ギルドと話し合う必要もありそうですね」
「そうだな。それも込みで進めておいてくれ」
にっこりと微笑むシルヴァインに、キースは肩を竦めて見せた。
「そして…」
マリアローゼが言葉を続けたので、兄達は不思議そうな顔でマリアローゼを見る。
「優秀な人材がいたら、商会や公爵家に引き抜きますの」
にっこりと可愛らしく笑う妹。
何とも末恐ろしく感じさせる5歳児なのである。
翌日から早速、マリアローゼは街道や街道周辺の地理や文化などの勉強を始めた。
朝はカンナと運動をして、一休みしてから朝食、そして図書館での読書というルーティンワークである。
何故か今日はシルヴァインの変わりにノアークがいなかったが、
授業に戻ったのだろうか?と少し気になりつつも、
アルベルトやシルヴァインと情報共有しながら本を読み進めた。
昨日シルヴァインから説明を受けるはずだったが、時間が無かった為にこの日やっと、アルベルトは神聖教についての話を聞かされていた。
「益々ローゼは渡せないな」
「渡さないけどな」
等とアルベルトとシルヴァインが話している。
渡さないと同意されたのに、アルベルトは微妙な顔でシルヴァインを見て、
シルヴァインはにこにこと邪気のある笑みを浮かべていた。
マリアローゼは本に視線を戻しながらも、ぼんやり考える。
全部うまくいって、大手を振って帰ってこられたらいいんだけど。
極力、実力行使や逃亡は避けたい。
必要ならばする覚悟は勿論あるのだが、家族に迷惑もかかるだろうし、
国としても厳しい対応を迫られてしまうだろう。
追わせない様に「あ、こいつ聖女にすると厄介だぞ」と思ってもらいたいところだ。
ついでに聖女じゃないと水晶にはきちんと判断して頂きたい。
水晶については、ワタシマリョクナイ マホウツカエナイ という伝家の宝刀があるので、多分問題ないだろう。
歴代の聖女を、聖女たらしめていたのはその性質や成り立ちではなく、
「癒しの魔法」と「生命を削る魔法の使い方」の可能性が高いのだから。
だから、聖女として有るべき姿、慈悲深いだとか清貧だとか、そういう素質に拠る判断ではない筈だ。
そもそもそんなものを探知する魔法がないのだから、魔道具として精製しようもない。
マリアローゼはふう、と息を吐いて、また手元の本をゆっくり読み始めた。
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