蜜柑製の死

彼方灯火

2023年5月18日

空を見上げると、真っ黒に染まった月があった。


空の色は反転。


逆に黄色。


すべて思い通りになると思っていたはずなのに、まったく何ともならないという絶望。


机の上に転がっているペンを取り、空になったコーヒーカップの中に立てかける。


窓を開いて、空の様をもう一度確認する。


音。


無。


世界、社会などという曖昧な概念をすべて捨てて。


自分の内に宿る感覚だけに耳を澄ませようとする。


けれど、それにすら失敗し、もはや自分がどこにいるのかさえ不確定。


二階にある部屋の窓から外へと身を投げ出す。


衝撃を受ける身体。


しかし、それだけでは死ねない。


固い地面に手をついて身体を持ち上げた。


一点。


自らの体内から零れだした血液が、コンクリートに赤い染みを作り出している。


素直に、綺麗、と感じる心。


時計を見る。


午前十二時三十四分。


ちょうどの数字はいつも見られない。


奇跡は起こらない。


すぐ傍に立っている街灯の光に目を奪われ、そのもとに佇む動物に目を向ける。


幾匹かの猫がこちらを見ていた。


僕も見る。


目が合う。


合う、合う。


重たい身体を持ち上げて、夜の町へと漕ぎ出していく僕。


そうだ、今の僕ならどこにだって行ける。


きっと大丈夫。


怖くなんかない。


どこに行こう?


どこへ行こう?


人差し指と親指を擦りつけて、音を出す。


夜中へと響いていく。

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