第20話 タイミング

………。


ふぅ…。なんとか間に合ったな。

最近はこのように急な腹痛が多くて困る…。


配信の途中に慌てて行ったから、今の配信がどうなっているか分からない。


早いとこ戻っておもろいコメントするんや!


部屋に戻ってベッドにダイブし、電源をつけてまた配信を見始めた。


「……ん?」


そこで俺はある違和感に気付いた。


まず、ゲーム画面が動いていない。

これはなんらかのバグが発生した可能性があるので、特に気にならない。


ただ、キャラクターがおかしな形で静止しているのだ。

その姿は、まるで体をよじった体勢のまま

モーションキャプチャーの範囲外に出たみたいに。


「なんだ?トイレにでもいったのか?

でも、そうだとしても人気Vtuberなんだし画面に

『お手洗い行ってます。』

って書くと思うんだけどな…?」


あくまで俺の主観だからそれを押し付けるなと言われればそれまでなんだけど、何となくイキシアさんはこういうのちゃんとすると思っていたから。


となれば、コメント欄を開けば何かがわかるかも!と閉じられていたコメント欄を開く。


すると


:wwwww

:それは反則過ぎですwwwww

:草ww

:草

:草

:腹痛い…!www

:濃ゆすぎなwww

:タイミング完璧で草

:強w


と、wが大量発生しているじゃないか。


「…マジで、何が起きてるんだ……?」


未だに状況が理解できない。


そんな時、聞こえてきたのだ。

それはもう見事な、完璧な引き笑いが。


「へへっヒェッヒェッヒェッwww

ック…!ンヒョヒョヒョッ!」


……なんということだ。

これは、まさか、イキシアさんなのか?


いや、そんなはずはない。

イキシアさんは清楚なんだ(多分)。

こんな変な笑い方するはずが━━━


:シアちゃんの笑い方で面白さ爆増ww

:シアちゃんの笑い方クセが強いっ!


アッ…。


察してしまった。察したくなかったけど。


しかし、それならこのよじれたまま止まった

イキシアさんにも納得がいく。

笑いすぎてこうなったんだね…。


「いや、それより俺がいない間に何があったんだよ…。

コメ欄もwばっかで意味わかんないし。」


爆速で流れるwの海の流れに抗いながら、上の方へスワイプしてみる。

だが、それもすぐに諦めることになった。


うわー…。めっちゃ気になるぅ〜…。

こんなにもコメ欄が笑いに満ちているなんて、

何があったのか知りてぇ〜…。


以前の俺なら、話についていけなくてすぐに

ブラウザバックしてたかもしれない。

だが今の俺は、逆に自分も自分の発言でコメ欄をwの海にしてぇー!って思いでいっぱいだった。


それからしばらく(割とすぐだったが)流れが収まるのを待って、『何かあったんですか?』とコメントをしてみた。


『ヒヒッ‼︎

…ハァ…ハァ。


んんっ!ご、ごめんね!ちょっと、フッ!

お見苦しいところを見せてしまいました…。


えっと、、今来た人とかに説明するとね?

フフッ…!いつもわたしに求婚?してくださる方がいるんだけどね?

その人が━━』


笑いを堪えながら一生懸命説明しようとしていて可愛かったが、長くなるので要約すると、


・いつも一万スパチャと共に求婚してくる

通称 『求婚のソナタ』※なんでそう呼ばれてるかはわからん。

がコメ欄に現れた。


・イキシアさんはその求婚をいつものように

ありがとー。と軽い感じで対応していた。


・そのすぐ後、ゲームの中の登場人物がプレイヤー(イキシアさん)に求婚をするイベントが発生。


・そのキャラクター対して『求婚のソナタ』は44,444円のスパチャと共に、ブチギレ

厄介彼氏面コメントを残して去っていった。


・そのタイミングの良さと44,444円の圧力、

それに加えて厄介彼氏面コメントのコンボで

イキシアさんの配信は笑いの渦に包まれた。


というわけらしい。


なんだそれ。面白すぎるだろ!


話を聞いただけなのに、俺でも少し笑ってしまった。


『フフフ……w

ね、タイミング良すぎたね。

それに44,444円って……ww

…ごめwツボっちゃったwゲーム再開するねw』


イキシアさんはまたゲームを進め始めたが、時々思い出したかのようにフフッと笑っている。


すげぇなぁ。こんなにもウケを取れるなんて。

この『求婚のソナタ』さんも名物リスナーなのだろうか。


ただ、話を聞いた中ではイキシアさんは

軽い感じで流していたらしいから、普段はそこまでウケる。ということはなかったのかもしれない。


コメントとかでもタイミングが良すぎた。

とかそういうのが多いから、タイミングありきの爆笑だったのかもしれない。



「…タイミング、かぁ。」


そう呟いてしまうほど、自分の中で妙に納得がいった。


今にして思えば、バラエティーなどで笑いが生まれるのは、芸人さんたちのツッコミやボケの

タイミングを掴む力が優れているからともいえる。


これはいい勉強になった。


【面白いコメントを残すためにはタイミングが

大事】


と。












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