#43 かつての仲間
「さて、どうしたもんかな…」
俺は自身の用事について考え込んでいた
「はー…なんでこんな面倒ごとをせないかんのかね。招集なんざボス一人で済ませればいいものを…いや、無理な話か」
できるだけ強者を集めておけ…これがボスからもらった用事兼命令なのだが、まぁめんどくさい。従わなくてもいい…気もするのだが、従わないと面倒なことになりそうなので従う。薄い人脈を使ってかき集めてんだからお礼の一つくらいは期待してもいいよな?
「あとあるとすれば…傭兵団くらいのもんか…チッ…なんでこんな無意味なことしてんだろうな。
完全に街に戻るのもまだ少し時間がかかりそうではある。片っ端から声を掛けるのは迷惑をかけるだろうし、命令とか言われてバカにされるのもゴメンだ。
「笑えるよな。俺が、誰かの下につくなんてよ。自分で自分を嘲笑ってやりてえ気分だ。…以前の俺が見たら、多分俺の事を殺すだろうな。」
そんな独り言を呟きながら、夜で寂しくなった街道を歩く。
「…森の方が騒がしいな。レヴィが戦ってんのか。最近は人間の方も異形の殲滅に勤しんでるようだしな。面倒なことになったもんだぜ⋯」
「…そうなんだ」
「?誰だ?」
考え事をしながら街道を歩いていると、家の屋根の上から妙に聞き覚えがある声が聞こえた
「やっぱり、異形になったんだね。」
「…いけ好かねえな。
「隠してたそっちも悪い。丸くなったね。リュウ。『血濡れの赫龍』はどこにいったの?」
成程。合点がいった。表現の仕方が正しいわけでは無さそうだが、『血濡れの赫龍』というもう捨てた異名。かつての仲間しか知らない呼び名。これで、”修羅”の人間じゃないという方が無理がある話だ
「生きてたんだな。『慈悲なき黄龍』」
「…分かった。さっき『血濡れの赫龍』って呼んだことは謝るから、その名前で呼ばないで。恥ずかしい。」
「俺はピッタリだと思うぜ?まあネーミングセンスは疑うが。」
かつて存在した闘いの絶えぬ国”修羅”。その国で共に戦ってきた同僚『シノ・ヨモツ』が、そこにいた。
「最近はどう?元気?」
「まあまあだ。けど、お前を見て気分が良くなったよ。んで、なんか用か?」
「それは良かった。リュウがここにいるって噂だったから少し顔出しに来ただけ」
内心、もう死んだって思ってる仲間に会えて心底嬉しい。最近の心の蟠りが少し無くなった気がした。
「じゃあね。リュウ。また会う時まで元気で」
「シノ、もう行くのか?」
「さっき言ったでしょ。顔出しに来ただけ。でもちょっとだけ、残念。もうちょっと一緒にいたい」
「ならいればいいじゃないか。俺はいつでもウェルカムだぞ?」
「⋯ならもう少しだけ」
屋根の上から降りてきて、ぽすっと俺の胸に頭を押し付けるシノ。修羅に居た当時は恋人同士であった俺たち。久しぶりに会ったのも相まって、シノはすんなりとこちらに来た。
「⋯どう?上手くやっていけてる?」
「ああ、上手くやれてるさ。」
「良かった。⋯本当に、丸くなったんだね」
「体型的な話か?」
「違う。性格の方。昔からは考えられないくらい、優しくなってる」
「あっちは争いの絶えない国だ。気張ってねえと俺らが殺されるしな」
「今のリュウが、素ってこと?」
素…って言われると違う気がするな。今も昔も、俺の理念は変わってない…けど、多分昔よりも仲間に対する情なんかを持つようになった気がする
「⋯いや、普通に性格は丸くなってる…と思う。」
「ふふ、そうだと思った。⋯もう行かなきゃ」
「なんだ、もう行くのか。本当に少しだけだな」
「今の仲間を待たせてるから。本当はリュウと一緒にいたいけど、今はそっちを大切にする。」
「ああ、いいと思うぞ。じゃ、また会う時があれば…お互い、元気に会おうぜ」
「うん、じゃあね」
かつての仲間との別れを少し惜しみながら、屋根の上に飛び乗ったシノに、伝え忘れていたことを伝える
「いつでも待ってるからな」
「!⋯ふふ、ありがとう。リュウも死なないでね」
そうシノから激励の言葉を貰った俺は、いつになくやる気が増してきていた
「…さて、元気も貰った事だし、仕事再開しますかね。傭兵団に向かって取り合って貰えないか試してみるか」
そうして俺はまた別の所へ向かうため、1度戻ってきていた街から出るのであった
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