#37 協力者

「そこに座っていてくれ。飲み物は何がいい?」

「なんでもいいぜ。…久しぶりだな。ここにくるのも」

「お前と会うこと自体久しぶりだからな。元気にしてたか?」

「すこぶる…っていうわけでもないけど、割と元気にしてるぜ。」


リュウゲンは、ある男の部屋にきていた。その男は白い軍服を身に纏い、見た目は騎士のような出立だった。そして、その男となにやら親しげに話している様子が見て取れていた


「全く、同じ街にいるっていうのに、全く会わないんだもんな」

「それはお前が観衆に囲まれているからだろ。俺はお前のこと街でよく見かけるしな」

「本当か!?全く気づかないんだが…」

「遠くでお前のこと見て笑ってるぜ。お前の困り顔、マジでおもしれぇしな」

「ああ、そういう…はぁ、お前は本当にいい性格しているよ…」

「ありがとな」

「褒めてはないぞ」


笑いながら、2人は親しげに談笑する。騎士のような出立の男は、少し笑みの残る表情をしながら、リュウゲンに問いかけた


「それで?珍しくここにきたと思ったら、何をしにきたんだ?」

「早速本題から入ろうとするなよ。昔話から始めても良いだろ?」

「お前と話す昔話はあまり気持ちのいいものじゃないから遠慮しとくよ。」

「そりゃ残念」


口ではそう言っているが、リュウゲンの顔は残念そうな顔ではなく、にこやかな表情のままだった


「まぁ、別に本題から入るのも悪くねぇな…単刀直入に言えば、俺たちに協力して欲しいんだ」

「協力?施設を貸しているだけじゃ物足りないって?」

「ああ、歯に衣着せずに行ったらそういうことになる。厚かましいと思うか?」

「いや、思っていない。寧ろ、嬉しいな」

「なんでだよ」

「お前が僕のことを頼るなんてこと、今まであったか?」

「なかったな。これが初めてだ」

「だろ?だから嬉しいんだよ」


リュウゲンは「なんだよそれ」と、笑いながらいい、騎士も「僕にも分からない」と、そのような会話を繰り広げる


「で、具体的には何に対して協力すれば良いんだ?」

「お前のその称号を使って、強い奴らを集めてくれ」

「強い奴らって…抽象的だな。当てがないわけじゃないが、協力してくれるかもわからないぞ?」

「ああ、それでいい。これは一種の賭けみたいなもんだ。なんなら他の“稀代の三雄”サマを呼んでくれても良いんだぜ?」

「冗談はよしてくれ…ところで、一体何をしでかそうとしてるんだ?そんな強い奴らばっかり集めようとして…お前もしかして戦おうとしてるんじゃ…」

「半分正解で半分間違いだ」


その返答を聞いて、騎士は困惑した


「半分正解…?一体どういう意味だ?」

「戦うっていうところが正解だ。けど、俺自身が戦うわけじゃねぇ」

「まるで理解できないな。お前が戦わないのなら、一体誰が戦うんだ?」

「お前には、少し話してみても良いかもな」


そして、リュウゲンが口を開き、とあることを言葉にした瞬間に、騎士は酷く驚いた


「正気なのか!?」

「ボスはそう言ってる…俺には信じらんねぇけど、するって言ったらする奴だぜ。アイツは」

「そりゃ信じられないだろうな…抗議とかしなかったのかい?」

「俺も最初は抗議したんだけどな。決めたことだからそれに従ってもらうって聞いてくれなくて…」

「お前でさえも意見を無視されるのか…あの人の決意は堅そうだ」

「ああ、俺たちは名目上組織っていう枠組みだから、上のやつには逆らえないんだよ」

「面倒だな…大体どれくらいなんだ?」

「まだもう少し先の話になる。それに、これを実行するには俺たちだけじゃ足りねぇ」

「だから、僕の伝手を使ってできるだけ強い人たちを集めろって言うことか…」


騎士は深刻そうな顔になりながら、深く考え込んだ


「どっちにしろ、まだまだ先の話になるのは確かだ。急ぎじゃねぇし、無理なら断ってくれても構わねぇ。協力してくれたら嬉しいのは確かだが、強要してるわけじゃないってことを理解してくれ。お前のペースでやってくれ。決断着いたら連絡してくれよ」

「ああ、分かった。このことは、僕達の中でもきっちりと話し合って決めよう。流石に、僕1人で決めれることじゃないからな」

「お前が協力するって言ったらアイツらも二つ返事で承諾すると思うんだが…さすが賢いねぇ。頼りにしてるぜ。“稀代の三雄”『蒼穹の騎士』サマ?」

「その呼び方はよしてくれ。お前にそう言われるとむず痒い」

「そうか?なら普段通りソウランって呼ばしてもらうぜ。」


先ほどの深刻な顔と打って変わって、両者とも、非常ににこやかな表情になって、そこでの2人での会合は笑顔で幕を閉じた。話が終わるやいなやリュウゲンは早々に部屋を出ていった


「…リュウゲンのやつめ。なんでこんなタイミングでとんでもない爆弾を僕にふっかけてくるんだ…」


ソウランは口上ではそう言っているが、表情は嬉々としていた


「仕方ない…ダメダメな相棒のためにも”蒼穹の騎士“である『ソウラン・カイロウ』が、稀代の三雄としての矜持と責任を持って、力になるとしようか」


ソウランは自身の中で考えをそうまとめる。そして、何らかの名簿を開き、資料を凝視して、呼びかけに行く人物の情報収集を行なっていた


「取り合うべきはまずは“稀代の三雄”から…か。“虚無の魔道士”…はどこにいるかは一応知っている。“孤高の武人”…はどうだろうな…だいたいあの場にいるから目星はついているが応じてくれるかどうかはわからないな…いや、疑っていてもいても仕方ないな。いくとしようか。信じるとしよう。それよりもまずは…」

「主様。中へ入ってもよろしいでしょうか」

「ん?構わないよ」


ソウランが考えを纏めていたタイミングで、ドアの奥からノック音と共に、女性の声が聞こえてきていた。部屋に入ることを許可した


「失礼します」

「レーネか。どうしたんだ?もう食事は済ませたはずだが…」

「リュウゲン様から話を聞きました。なにやら、“異形衆”の頭領が、悪巧みをしていると」

「そのことか…君にも意見を聞いておこう。どう思う?」

「どう思う…とは?」

「今回のリュウゲンが話した件についてだ。君の意見が聞きたい」

「…正直言うと、無謀が過ぎると思います。愚策ですし、確実に失敗します。我々が協力しても、無駄だと思います」

「まぁ、大体はそう思うだろうな。だが、リュウゲンには一応考えがあるらしい。それが実行できるかはわからないが、黄金期の相棒を信じるのも、たまには悪くないと思っている。僕は彼らに協力するつもりのなのだが、反対というのならば、好きにしてくれても構わない」

「…やはり、主様はずるいです。私たち『蒼穹近衛』が、貴方の言ったことに反対するはずがございません。少なくとも私は、死にゆく時まで、主様に従うつもりです」


少し呆れ気味で、だが微笑みもこもった、そんな声で、レーネはソウランにそう答えた


「死にゆく時まで、なんて言わないでくれ。僕は死ぬ気はないし、君たちのことも死なせるつもりはない」

「ふふ、とても頼もしいです」

「そうと決まれば、だな…レーネ」

「なんでございましょうか?」

「至急『蒼穹近衛』を集めてくれ。僕も交えて話をして、今後のことについて意見を交換し合いたい」

「承知しました」


こうして、ソウランは異形へ協力するために、自身の側近を全員集めて、行動を開始、リュウゲンの方も、それと同時にまた別の活動を始めたのだった

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