謝罪会見 27

 <これまでのあらすじ>


 三流作家那智氏が謝罪会見の途中で姿をくらました。

 けれどそれはどうやら超天才科学者であり著名文化人でもあり、また世界でもトップクラスの資産を有する実業家でもある鐘古こよみ氏が企てた策略であったらしい。

 鐘古氏は凄腕の女性傭兵、松本氏とともに那智氏を引き連れて恐山の地下に存在する黒摩天へと向かったがその途中、何者かに拉致されてしまう。

 一方、烏丸氏、緋雪氏、七倉氏、ブロ子さんも鐘古氏たちを追って恐山の地下へと潜ったがその矢先、鐘古氏の配下である近藤コンティーに拉致の報告を受ける。

 彼らは急ぎ救出のため黒摩天の城内に突入したが、そこに待ち受けていたのは魑魅魍魎の群れ。

 死神と小鬼ゴブリンはなんとか撃退し、石階段ももう少しで登り切るというそのとき彼らの行く手に立ちはだかった三体のオーガ。

 そのうちの一匹はなんとか倒したものの、残りの二体を攻めあぐねる四人。

 そして緋雪氏が倒れ、七倉氏の妖術は通用せず、攻め手が尽きてしまった。

 果たして彼らの命運やいかに。


 **********

 

 目蓋でもこの強度か。

 愚鈍に見えるオーガたちも倒された一体を目の当たりにしてすでに学習したのか、糸のような薄目でこちらを睥睨している。

 さすがにあの隙間に銃弾を撃ち込むのは自分の腕を持ってしても難しい。

 予定外の急務で仕方がなかったとはいえ、準備が足らなかった。

 スタリオンにはロケットランチャーも積んでいたのに持ってこなかったのは不覚だった。

 後悔など微塵の役にも立たないことは承知しているはずなのに仲間の犠牲が普段の怜悧な思考を狂わせていた。


「あのう……」

 

 背後からブロ子さんのややのんびりとした控えめなトーンが聞こえてきた。


「なんだ」


 苛ついた声で答えるとブロ子さんが耳元で囁く。


「千弦さん、もう一度オーガの目蓋を撃ってもらえませんか」

「断る。弾丸たまを無駄にするだけだ」


 素っ気なく答えたが、ブロ子さんはさらに唇が触れるほどに顔を寄せてくる。


「お願いします」


 烏丸氏はオーガの様子を窺いつつ、横目にジロリとその端正な顔立ちを睨んで訊く。


「何か、考えがあるのか」

「ええ、上手くいけば一匹は倒せるかもしれません」


 ブロ子さんが不敵な笑みを浮かべた。

 烏丸氏はひとしきり逡巡する。

 そしてまたそんな自分を嗤った。


 ここまで来たらどんな手でもやらないよりはマシか。


「分かった。貴様に任せる」


 そう短く言い切った彼女はすぐに左のオーガの目蓋にグロックの照準を合わせた。

 そして躊躇いもなく引き金を引くとガスを抜くような発砲音が控えめに鳴り、ほとんど同時に辺りに鈍い金属音が響き渡った。

 

 チッ、やはり無駄弾になったか。

 しかしあの皮膚はなんでできている。薄い目蓋も貫けないとは。


 顔をしかめた烏丸氏にオーガたちは再び大きな口を開けて不気味な笑声を放った。


 屈辱。


 奥歯を噛んだそのとき、そばで衣擦れの音がして目を遣る。

 するとその時にはブロ子さんが左足を大きく前に踏み込み、残像しか捉えられないほどしなったその右腕からグレネードが放たれたところだった。

 その球筋を烏丸氏の鋭い目線が追う。

 

 バカな。手榴弾グレネードでは奴らに火傷のひとつも負わせられない。


 表情が引き攣った。

 けれどその矢先、烏丸氏はブロ子さんの狙いを察した。


 そうか、そういうことか。


 彼女が頷くと同時に、グレネードがオーガの口に飛び込んだ。

 次いでオーガの喉が蠢き、唾を飲み下すような音が聞こえてくる。


 確かに体内の粘膜ならば硬質化できるはずもない……。


 烏丸氏がニヤリと唇を歪めると刹那、オーガのひとつ目が大きく見開かれた。

 そして次の瞬間その喉元からくぐもった爆音が響き、次いで再び開かれた口腔から狼煙のように一筋の煙が立った。


「よしッ!」


 ブロ子さんが控えめなガッツポーズを決めた。

 それと同時に緑色の巨体がゆっくりと前のめりに倒れ、凄まじい音とともに石段をいくつか滑り落ちて二人の目前で止まる。


「千弦さん、作戦成功です!」


 その場で二、三度跳び上がり、満面の笑みで自分に抱きつこうとしてきたブロ子さんを烏丸氏は視線を前方に向けたまま片手で制する。


「よくやった。しかし喜ぶのはまだ早い」


 ブロ子さんがハッとして石段を見上げると、ただ一体だけ残ったオーガが地の底から響いてくるような低い唸り声を上げていた。


「来るぞ」


 烏丸氏が短い警告を発した。



 

 つづく


 ハーイ! みなさん、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!

 こちら世にも珍しい数ヶ月に一度しか更新されない作品だよ。

 もうみんな前の話なんか忘れてるよね。

 だから一応あらすじ書いてみたよ。

 でもね、これが傑作なんだよ。

 なんとあらすじ書こうとしたら、作者も忘れちゃっててさ。

 もう一回、始めっから読み直したんだよ。

 そしたらもうね、笑っちゃうやら、感心しちゃうやらさ。

 こんな脈絡もない話をよく延々とここまで書いたものだってね。

 でも、ここまで来りゃやっぱ最後まで書き上げたいもんさ。


 というわけで超スローペースなこの作品を以後もどうぞよろしくお願い致しやす。



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