謝罪会見 23

 半ば開いた鉄扉門のその向こう。

 それを望んだ五人はそれぞれにさらに険しく表情を引き締めた。


 目を遣れば数十メートル先に石造りの階段を従えた黒摩天城が聳え立っている。

 きっとあの中に鐘古氏と松本氏、そして那智氏も囚われているのだろう。

 すぐにでもその黒石の階段を駆け登りたいところだが、けれどそうはいかない。

 なぜならその手前、まるで古代ギリシャの練兵場のような石畳の中庭に冥界の尖兵隊ともいうべき武装した魑魅魍魎たちが矛先を向けていたからだ。

 ざっと見積もってその数、百体以上。

 普通ならとても数人で太刀打ちできる数ではない。


「あのさあコンティー、こういうことは門を開ける前に言ってくんない」


 こめかみに冷や汗を滲ませた緋雪氏の文句に近藤は震えながら龍の牙を連打する。


「あ、あれ?いや、まさかこんなことになってるなんて思ってもみなかったものですから。えっと、いま閉めますから、ちょっと待ってくださいね。おっかしいなあ。な、なんで閉まらないんでしょうか」


「いや、いまさら門が閉じたらマジ、コントですよ」


 七倉氏が魍魎どもから目をそらさずに強張った笑みを浮かべた。

 ナッツの犬影がムクムクと膨らみ、尻尾が八又に分かれた巨大な狼の姿に変じる。

 

「コントでもなんでもいいから早く閉めてよぉ」


 烏丸氏の背後でしゃがみ込んだブロ子さんが叫んだ。

 

「フフッ、何を云う。せっかくのおもてなしだ。遠慮なく楽しませてもらうおうじゃないか」


 烏丸氏がそのセリフを放った瞬間、先頭に列を成した死神たちがその大鎌デスサイスを振りかぶり、黒衣をはためかせて一斉に襲いかかった。

 

 キイィィーーーーン。 


 耳をつん裂く金属音。

 最高回転数に達した緋雪氏のマキタ草刈機がデスサイスの柄ごと死神を真っ二つに断ち切った。そして石畳に転がった死神は一瞬で真っ黒に変色し、次いで霧となって消えていく。


「こうなったら仕方ないわねえ。下草の代わりに刈ってあげるから覚悟しなさい」


 緋雪氏はそう言い放つと介子推かいしすいの棒術よろしくマキタを振りかざした。(介子推:古代中国春秋時代、晋の文公、重耳の放浪時代を支えた忠義の士。神技とも云われる棒術の使い手)


 その勇姿を横目に七倉氏がニヤリと唇を歪める。


「ですね」

 

 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 !!!


 九字護身法の印を切ると束ねていた黒髪がパッと解けて放射状に広がる。

 すると刹那、目前に迫った数体の死神が衝撃波を受けたように後方に弾き飛ばされた。さらにすかさずナッツがそれらに飛びつき、その喉を喰いちぎっていく。


 緋雪氏と七倉氏、そしてナッツは扇状に取り囲んで襲ってくる魔物たちの向かって右翼を迎え撃つ形になった。

 すると自然、左翼は烏丸氏が単独で受け持つことになる。

 けれどその数の不利を彼女はものともしない。

 両手でしっかりと握ったH&K製MP7は1分間に1000発というその凄まじい掃射で襲いかかってくる敵を次々に払い倒す。

 括ったブロンドの髪を左右に振りながら、その端正な顔には狂気じみた笑み。

 その目線の先、数多の銃弾を受けて折り重なるように倒れた死神たちは煤の塊のようになってすぐにふわりと霧散していく。


「あはッ!さすがは暗黒界の戦女神アテナと呼ばれる千弦様」


 背後に隠れたブロ子さんが歓声を上げた。

 烏丸氏が声を張り上げる。


「このPDW短機関銃の薬莢は後方排出だ。当たらないように気をつけておけ」

「はい!」


 ブロ子さんがミリタリーコートの腰にしっかりとしがみついた。


「敵の前線が怯み始めた。前に押し出す。遅れるなよ」

「はい、分かりました!くうッ、カッコいい!ブロ子、どこまでも着いていきます」


 烏丸氏に勢いを削がれた死神部隊はそれを避けるように陣形を歪めた。


「もう、烏丸さんてば無茶振り。それじゃあこっちの敵が多くなっちゃうじゃない」


 高揚気味に、けれど不満を吐いた美魔女緋雪氏のマキタが一閃。

 また死神の一体があっけなく黒霧に変わる。


「ホントね。でもこっちだって負けてられないわ。いでよ、土爪トウチャオッ!」

土爪トウチャオ:高田裕三氏の漫画作品『3×3EYES』に登場する獣魔。三本の鉤爪で地中から敵を攻撃する……ていうかパクるなよ、那智)


 唱えた七倉氏のフレームレスメガネがキラリと輝いた。

 同時に数メートル先の石畳が盛り上がり、凄まじい勢いで土中から飛び出した黒い影が前線に襲いかかったかと思うと、あっという間に元の地面に潜り込んで消える。

 死神たちは動きを止め、その髑髏の顔に動揺の気配を浮かべた。

 と、次の瞬間にはその黒衣に三本の亀裂が走り、悲鳴を上げる暇もなく霧となり散じた。


「ヒュー!やるじゃない、イルカさん」


 そう叫んだ緋雪氏がまた一体の敵を打ち払うと七倉氏はナッツが屠る死神たちを尻目に小さくサムズアップを決める。


「そういう緋雪さんもかなりのものだわ」


 そして再び九字を切り、ナッツに大鎌を振るおうとする敵を弾き飛ばした。


「でもさ、妖術使いだってこと別に隠さなくたって良かったんじゃない。おっと!」


 いつのまにか背後に回り込んでいた死神の鎌刃が緋雪氏の首に鋭く向かう。それをすんでのところで受け止めた彼女は膝をついて堪え、忌々しそうに舌打ちをした。


「すみません。説明するのが面倒だし、怖がられるかと思って。いでよ、光牙コアンヤアッ!」

光牙コアンヤア:これも『3×3EYES』に登場する獣魔。単純に光線のようなもの……だから堂々とパクるなって)


 七倉氏がpaulsmithのスーツに隠しきれない豊満な胸もとに印を切ると眩い閃光が発した。その光線は緋雪氏を襲う敵の腹を貫き、その死神は溶けるように消える。


「ふうッ、助かった。怖がったりしないって。めっちゃ心強いよ。ありがと」


 再び襲いかかってくる死神に対峙した緋雪氏が素早く敬礼すると七倉氏はウインクで返答した。

 


 つづく


 ほい! 第三弾!

 ようやく戦闘シーンに突入です。

 ところで3×3EYES(サザンアイズ)なんてご存知の方いるのだろうか。

 パクってますがどうか温かい目で見守ってやってくださいね。

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