第189話 終末の救世教(5/22)
(佐々岡莉子)
「全員、車から降りろ!」
ホワイトフォートの武装解除後に美久ちゃんは無事に解放されたけど、乗り込んで来た<週末の救世教>の男達がこちらの物資を奪いに来た。
「うお~っ! すげえ車だ!」
「何だこりゃ! 米もいっぱいあるし、冷蔵庫に肉やら卵が沢山あるじゃねえか!」
「良し! これは教祖様もお喜びになるぞ!!」
キャンピングカーの装備や冷蔵庫の中の食材、置いてあるお米を見て男達が歓声を上げる。
パンデミックから約一年、彼らが今までどう過ごしてきたか分からないけど、これだけ豪勢な食材はもう滅多にお目にかかれないのだと思う。
正直、私達だって冴賢くんのアイテムボックスが無ければ、これだけ贅沢な食材などとてもじゃないけど揃えられないと思う。
男達の指示で降りろと言われたけど、奥のベッドでは冴賢くんがまだ眠ったままだ。
私達は冴賢くんを置いておく事も出来ず、固まってしまった。
「何やってんだ、お前ら! 降りろと言ってるだろ! 殺されたいのか?」
「眠ったままの怪我人がいるんです!」
明日奈ちゃんが冴賢くんの体に手を当てながら言う。
私もすかさず冴賢くんの側に行って男達に告げる。
「そうよ! 眠っているから動かすことが出来ないの!」
「そんな奴はここに捨ててけばいい!」
それを聞いた綾音さんも冴賢くんの側に来て、両手を横にして男達に立ち塞がる。
「私が生きている限りそんな事はさせません!」
綾音さんは凄い形相で、殺気を感じたのか男達は少したじろいだ。
そこへ佐々木さんが男達に覚悟を決めた顔で冷静に告げる。
「彼は私達には非常に大切な人なの。彼を置いていく事はできないわ。どうしてもというのなら、例え全員が殺されるとしても素手でも戦う覚悟よ!」
「……ま、まあ、いいだろう。車からは降りてもらうが、お前達の中で誰かが運べばいい」
「隊長、いいんですか?」
「ああ。後は教祖様のご判断にお任せしよう」
その後、車や物資は奪われたけど虎太郎君がやってきて冴賢くんを運んでくれた。
私達は徒歩でどこかに連行されるみたい。
私はどうなってもかまわない。
何があろうとも冴賢くんだけは守らないと。
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(桑田明人)
佐々木さんから無線で連絡があった。
こちらの人質が取られたので、武装解除する事になったとの事。
人質は大谷美久ちゃんだ。
あちらの言いなりになるのは悔しいけど、ここは仕方がないだろう。
美久ちゃんは兄の光司君と一緒に、冴賢さんと元々の集落にやって来た初期メンバーだと聞いている。
いつも明るく元気いっぱいで、最近はお菓子係になって皆の笑顔の為に一生懸命頑張っていたはずだ。
あの子を見捨てる事に賛成する様な者は、ここホワイトフォートには居ないと断言しても良い。
それに冴賢さんがいたら絶対に見捨てる事なんかしないはず。
というか冴賢さんが起きていたら、こんな心配などしなくて良いんだけど……
今は目覚めない冴賢さんを守りながら、この場をしのいでいくしかない。
男達は嬉々として僕達の武器を奪って車から追い出した。
僕は彼女の柚葉や中学の仲間達と固まって、降ろされたキャンピングカーの後を徒歩で着いていった。
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(細井悠里)
「虎太郎くん! 1号車に行って、隊長を運んで欲しいって!」
「了解だ!」
トランシーバーで連絡された内容を私が伝えると、虎太郎くんは急いで1号車の方に向かっていった。
言葉に出さなくても虎太郎くんが隊長をとても大事に思っている事がわかる。
隊長は私達の、いいえ、この世界の唯一の希望なのだから。
美久ちゃんは無事に解放され、兄の光司君の元に帰って来たみたい。
死んだりしていなくて本当に良かった。
しかし<終末の救世教>なんてパンデミック前は聞いた事がない教団名だ。
もしかしたらパンデミック後に結成されたか、既存の教団が名称を新しく変えたのかも知れない。
私はまだ足の怪我が完全に癒えていない状態なので、高校の仲間達の手を借りながら男達に指示された方向に歩いてゆく。
私達はそのまま徒歩で彼らの住むエリアまで歩かされ、お昼過ぎぐらいにとあるビルの大ホールに全員が集められた。
周りは銃などの武器で武装した者達に囲まれている。
少し待つと大勢の護衛を連れ、ゆったりとした服に包まれた聖職者の様な人が現れて私達に告げた。
「終末の救世教にようこそ! 私が教祖である! 諸君との出会いは不幸に見舞われたが、幸い死者はいなかった。これからはここで我々教団の為に協力してもらう事になるだろう!」
私達は望まない宗教団体に捕まってしまったようだった。
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