第170話 それぞれの戦い(5/2)

(沢田虎太郎)


相手の鬼と大将の合図で戦闘が始まった。

大将達はまだ睨み合ったままだ。


何か知り合いみたいだが大将の事だ、因縁のある相手なんだろう。


俺は先頭に立ってこっちに飛び込んで来る奇妙な体型の変異体を、サイコスレッジハンマーで全力でぶん殴る。


「どおりゃあああ!」

(ズガン!)


相手は手をクロスさせてガードしたみたいだが、打撃面の衝撃を受けて片方の腕が一本もげて吹き飛んでいった。


よし! 俺の打撃攻撃は変異体にも通じるぞ。


あの時、最初に変異体をぶっ叩いた時はただのバットだから折れちまったけど、これなら殺れるぜ。


(シュドッ! シュドッ! シュ! シュッ!)


後ろから飛んでくる青白い矢が後続の変異体達に突き刺さる。

悠里のサイコボウでの援護射撃だな。


悠里の矢は貫通力が高いので頭に刺さればきっと奴らを倒す事が出来るだろう。

ペアで戦う時は自分だけじゃなくて、相方の力も活かすように立ち回らなければならない。


訓練での模擬戦の時、俺は何度も前に出過ぎて悠里を危険に晒しちまった。

だが、その苦い教訓が今は生きてくる。


俺は前に出過ぎないようにして悠里の盾になりつつ反撃主体の構えをする。

その方が遠距離攻撃とのコンビネーションも活かせる。


俺達は絶対に負ける訳にはいかねえんだ!

後ろには小さい妹を含め、俺達兄妹を受入れてくれた大切な仲間達がいる。


ゾンビの大群もここに迫っているらしいから、最悪でも脱出までの時間は稼がなきゃならねえんだ。


ちっ! さっき吹き飛ばしてやった変異体が立ち上がるのが見える。

悠里の矢が刺さったやつもまだ動けるらしい。


これは少し長丁場になりそうだ。


もう少し大将達から離れるとしようか。





ーーーーー



(細井悠里)


虎太郎君が最初に突っ込んで来た変異体をハンマーで吹き飛ばした。


さすがというか虎太郎君の力は凄く、相手は片腕が千切れて吹き飛んでいった。


私も負けじと虎太郎君をブラインドに利用した射撃で、後続の気持ち悪い変異体達と、あの鬼からジェネラルと呼ばれていた二体にも牽制で矢を射掛けた。


隊長に相手にする様に指示された個体。

これであの二体の注意を引けたはず


あの鬼は隊長に因縁のある相手の様だけど、私達は隊長を信じて着いていくだけだ。


変異体達に矢が通って貫通はしたけれど腕でガードされてしまい、ジェネラルの一体には拳で矢をはたき落とされ、もう一体の婦人警官のような一体には凄いスピードで避けられてしまった。


私と高校の仲間達が絶望的な状況の中、隊長や虎太郎君に救出されて旧ホワイトフォートに保護されてから半年以上が経つ。


私達は追放された荒井家に着いてきた。

それはもちろん未来の為。


例え旧ホワイトフォートに残ったとしても、旧態依然とした体制が維持されるなら、そこに未来は無いと思ったからだ。


後ろには、今や家族も同然となったたくさんの仲間がいる。

私達は負ける訳にはいかない!


あれから少し隊長達からは離れて戦っている。


私はブラインドでの射撃攻撃を続け、とうとう集中攻撃で一体の変異体の頭部を貫いて沈黙させた。


虎太郎君に少し負荷をかけてしまった。

けどまだ、たったの一体……


変異体は脅威だと以前から聞いていたけれど、予想以上の強敵だ。

それにジェネラルと呼ばれている個体もまだ本気を出していない様に思える。


私は元生徒会長として自分の所属してた高校生達を守ると誓った。

だけどもう私の高校の生徒以外も今や大切な仲間だ。


皆を死なせる訳にはいかない。


人類の未来のためにも。





ーーーーー



(平坂綾音)


私と茜は冴賢殿に指示された個体に向け、肩を並べて突っ込んでいく。


基本的に私と茜は二人とも攻めが得意だ。

攻撃は最大の防御、守勢に回るわけには行かない。


「はあっ!」

(シュザッ!)


同じく突っ込んできた変異体と思しき気色悪い輩の首を、速度が乗った状態から平坂心刀流ひらさらしんとうりゅう抜刀術ばっとうじゅつで斬り飛ばす。


すかさず後ろに回ってきた他の変異体は、茜がリーチの長い薙刀で牽制した。

この辺りは姉妹ならではのコンビネーションであり、この数ヶ月間の訓練の成果でもある。


旧ホワイトフォートを追い出されて小学校へ来てからは、サイコ部隊内での戦闘訓練も毎日のように繰り返してきたからだ。


基本は一体多だけど、一対一やペア戦闘、全員での波状攻撃など、色々なパターンを想定して訓練を行っていたのだ。


初撃は相手の意表を付いた抜刀術ばっとうじゅつで変異体の首を刎ねる事が出来たけど、ガード反応の早い個体がいれば、そう上手くはいかないのかも知れない。


だけど私達は負けられないのだ。


私達の背後には戦闘力を持たない無防備な人々や、残された私の愛する家族である弟の真九郎や母様もいる。


私達平坂家の者には、弟にいずれは道場を再興してもらって父様の跡を継いでもらうという目標もある。


それに私は……明日奈さん、莉子さんが羨ましくもある。


私はこれまで恋愛を経験した事は無かった。

父様以外に私より強い男性がいなかったからだ。


それがあの時ならず者共に襲われ、真九郎が殺されそうになって絶望した状況を冴賢殿に救われて以来、きっと私の心は彼に奪われてしまったのだと思う。


この前の真子ちゃんの件も、間近に見ていた私は感動したものだ。

あんなに強くて神の如き力を持っているのに、凄く優しい心まで持っているだなんて反則だ。


この想いは告げられないまま次第に大きく膨らんでゆく。


私だって冴賢殿と、ずっと一緒にいたいのだ。

私はサイコブレード(刀)を高く掲げ、上段に構える。


勝とう! 勝って私の望む未来を掴み取ろう。





ーーーーー



(平坂茜)


とうとう変異体との戦いが始まった。


お姉とのアイコンタクトで開幕で抜刀術ばっとうじゅつを使うと見た私は、お姉が術後の隙を狙われないようにと考える。


そして予想通りお姉が変異体の一体を倒した。

やった!


すかさず私は背後に回り込んできた奴らに、薙刀を水平に薙いで近寄れない様に牽制する。


私達はこの数ヶ月間、色んな特訓をしてきたんだもん。

このぐらい当然よね!


私の薙刀だって、まだまだお姉の刀ほどは洗練されていないけど、小学校に来てからは基本に立ち返って修行をしてきていて実力は上がっているはずよ。


でも決して油断は出来ない。

まだあの特殊な変異体は動きを見せていないしね。


私達は負けないし、負けられないの!


後ろには家族もいるけど、無力な子供や女性達だって多い。

中には軟派な奴もいるけど……それだって平和に暮らせている証なんだ。


私達は絶対に勝つ! 勝って未来を切り開くのよ!

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