第147話 モールからの脱出(2/2)

「さて、皆さんお腹空いてますよね? 今食べるならカツ丼と親子丼、どちらが良いでしょうか?」


とりあえず遠藤雄二えんどうゆうじさんの治療を終えた僕は、抱き合って喜ぶ彼らの様子を眺め、ロクな食事も与えられていなかった様に見えたので、一旦食事を摂って元気になってもらう事にした。


今はまだ興奮していて大丈夫かも知れないけど、栄養を摂らないと遠からず倒れてしまうだろう。


「「「「……」」」」


僕の質問が悪かったのか、理解できなかったのか返事をもらえなかったので、仕方なく適当にカツ丼三個、親子丼二個をアイテムボックスから取り出して見せる。


防犯シャッターを変形させて傷の治療までしたんだ。

これから脱出を強行する事でもあるし、もう僕の力を隠していても仕方が無いだろう。


「うそっ!」

「えっ! 本物なの、これ?」

「「「(ゴクリ)」」」


美味しそうに湯気を発する丼物を前に、大友有紗おおともありささん生駒麗華いこまれいかさんは驚愕して叫び、他の男子達はゴクリと喉を鳴らした。


「もちろん、これは本物で食べられますよ? この後直ぐに小学校に戻りますので、食べて体力を戻して下さい。お代わりも用意できますから」


彼らは互いに顔を見合わせ、食べて良いかどうか迷っている様だ。

いきなり来た僕を信じて食べろと言うのも無理があるのかも知れない。


「私、頂くわ!」

「お、おい! 麗華れいか!」


制止しようとする遠藤雄二えんどうゆうじさんを振り切った生駒麗華いこまれいかさんが、覚悟を決めた表情で親子丼を口にする。


(もぐもぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん)

「…………美味し〜い!」


親子丼を口にした生駒麗華いこまれいかさんが料理番組のメインキャスターの様に叫ぶ。


「わ、私も食べる!」

「「俺も!」」

「僕も!」


それを聞いた四人も見ていてたまらなくなったのか、それぞれドンブリを片手に凄い勢いで食べ始める。


僕は彼らが喉を詰まらせないようコーラやオレンジジュースをアイテムボックスから出して提供し、お代わりのリクエストにも応えてゆくのだった。





ーーーーー




「あの……ありがとうございました。雄二ゆうじを治してくれた事も、食事も凄く美味しかったです!」

「そ、そうよね! 不思議だけど! ありがとうございました」

「あなたが僕を治療してくれたんですね。どうもありがとうございました!」


生駒麗華いこまれいかさん大友有紗おおともありささん遠藤雄二えんどうゆうじさんが僕にお礼を言ってくる。


「お前の事、怪しんで悪かったな……」

「うん。俺も……」


吉田翼よしだつばささんと渡嘉敷直哉とかしきなおやさんも僕に対する態度を謝ってくれた。


「皆さん気にしないで下さい。初めまして、僕は高校一年生の荒井冴賢と言います」


「えっ! 私達より歳下だったんだ!」

「そうそう、私達は全員高校二年生なのよ!」


生駒麗華いこまれいかさん大友有紗おおともありささんが目を丸くして驚く。


「ははは。この物々しいライダースーツのせいかもしれませんね。僕は歳下みたいですし、気楽に冴賢と名前で呼んで下さい」


「なら僕の事も雄二ゆうじって呼んで欲しい。一歳ぐらい大して変わらないしね」


「俺は吉田翼よしだつばさだ。つばさと呼んでくれ」

渡嘉敷直哉とかしきなおやだよ。直哉なおやって呼んでよ!」

「私は大友有紗おおともありさ、私も有紗ありさって呼んで!」

「私は生駒麗華いこまれいかと言います。麗華れいかと呼んで下さい」


「分かりました。雄二ゆうじさん、つばささん、直哉なおやさん、有紗ありささん、麗華れいかさんですね。よろしくお願いします」

「「「「「よろしく(お願いします)」」」」」





ーーーーー





僕達六人は改変されて通れるようになった防犯シャッターをくぐり、閉じ込められていた店舗を出た。


「お前ら、待て!」

「おいおい! どうやって出たんだよ!」

「なんで防犯シャッターが変形しているんだ……」


サーチで分かっていたんだけど、僕達が出た時に三人の男性が僕達の前にやって来た。


多分この避難所の男性二人と、三人目は僕を閉じ込めた大柄の男性だ。

雄二ゆうじさん達五人は男たちを見て警戒している。


「僕達はもうここを出て行きます。すみませんが、大津さんによろしく言っておいて下さい」


「ふざけんな!」

「行かせると思うか?」

「まあ待て。俺は緊急用にこれを持ってるんだ。考え直すんだな」


大柄の男性はそう言うと懐から小さい拳銃を取り出し、こちらに構えて見せる。


「きゃあっ!」

「ひっ!」


「はっはあ!」

「無駄なのが分かったか!」

「なるべく怪我はさせたくない。大人しく戻るんだな」


大柄な男の構える拳銃を見て震え、絶望的に表情なる高校生達。

逆に圧倒的な拳銃の優位に、他の男たちは得意げになった。


まあ普通は飛び道具が相手では勝機は無いに等しいだろう。

ましてや僕達は武器は何も持っておらず完全に丸腰だ。


でも普通はそうだというだけで、僕は全然普通じゃない。

蹴散らして叩きのめす事も簡単に出来るけど、サーチで見ても三人とも黄色じゃないので、根っからの悪党という訳ではないのだろう。


少なくとも拳銃でこちらを殺す気は無いと感じた僕はスルーして帰る事にした。

というか綾音さん達も待っていると思うので、なるべく早く帰りたい。


「えっと、それじゃあ帰りますね」

「おいおいお前、これが見えねえのかよ?」


大柄な男性が忠告する中で僕はつかつかと遠慮なく近付き、銃口の眼前に立って告げる。


「見えてますけど、僕達を撃とうとする気は感じませんね。でも、もしも撃つのなら覚悟を持ってやってください」


僕は拳銃を構える大柄な男性としばし睨み合った。

そのまま30秒ほど沈黙が支配する。


そして男性は拳銃を降ろして力なく呟く。


「……行きな。元々俺はこんなやり方は気に入らなかったんだ」

「島田さん、いいんですか!?」

「大津さんに怒られますよ!?」


付き従う男たちは不満そうだ。


「お前ら、少しは人を見る目が無いと長生き出来ねえぞ。俺はこれまで裏稼業に生きて来たから分かる。銃を目の前に突きつけても全く動じねえコイツは、たぶん化け物だ。俺達なんぞ敵じゃないんだろうぜ。この先いつまで生きられるか分からねえが、ここで無駄に死ぬ必要もねえだろう?」

「「……」」


「それじゃあ行きましょうか、皆さん!」


諦めた男達の案内で、僕達はショッピングモールを後にするのだった。

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