第141話 子供達の家(2/2)

僕と綾音さんは低空飛行で子供だけのグループのいる小学校前まで移動する。

二人だけだし近距離だったので、乗り物は使わずに直接身体を念動力テレキネシスで浮遊させての移動だ。


綾音さんは少し怖がったので僕と手を繋いでの飛行となったんだけど、飛行中の綾音さんは顔が凄く赤くなって手汗もかなり掻いていた様子だった。


どこか具合でも悪くなってしまったんだろうか……




小学校前に着いて着陸して手を離すと綾音さんの顔色も戻ったようだ。

ホッとした僕は、アイテムボックスからダミーの物資を入れた大きいリュックを出して背負う。


正門の前はガレキが積み上げられてバリケード化しているので、何処から入れば良いのかと辺りを見回した。


「冴賢殿、あそこです!」


綾音さんの指す方向を見ると、一部金網が断ち切られて開いている箇所がある。

僕と綾音さんは頷き合い、そこを通って小学校の敷地に侵入していった。





ーーーーー





一応はバリケードに囲まれている事もあって感染者は中にはいない様だ。

さっきの金網が切れているところがセキュリティホールになっているけど、それを知らない感染者は入れないのかも知れない。


でも映画だと、そこから入れると以前から知っている人がゾンビ化した場合に、それを覚えていて侵入してくるといったシーンがあったから100%安全とは言えないだろう。


そんな事を考えながら校舎の入口に近付いた時、僕達二人に向けて飛来物を感じたので咄嗟にサイコアクセルを発動した。


ゆっくりと流れる時間の中で、飛んできている物がただの石である事がわかる。

いつの間にか校舎の二階にいた子供達が僕達に向けて石を投げていたんだ。


石と言っても大きいのは当たるとかなり痛そうなので、綾音さんより一歩前に出てアイテムボックスからバールを取り出し、全ての石を叩き落としてサイコアクセルを解除する。


「「「「「「 ! 」」」」」」


僕達に向けて投げた石が全て一瞬で弾かれたのを見て絶句する子供達。

だけど直ぐに僕達に向けて思い思いの言葉を浴びせて来た。


「ここは僕達の家だ!」

「大人達は帰れ!」

「そうだ!」

「そうよ!」


「お兄ちゃんとお姉ちゃん達を返せ!」

「「返せ!」」


返せとは、どういう事なんだろう?

僕は敵意が無いことを示すため、バールを地面に置いて両手を上げた。


「ちょっと待って! 僕達は今日ここに着いたばかりで、君達の敵じゃないよ? それに僕達は二人とも高校生だから、まだ大人じゃないんだ!」


こんな感じの事しか言えないんだけど、信じてもらえないだろうか?

いつの間にか綾音さんも僕に合わせて両手を上げてくれている。


「お姉ちゃん達が帰ってこないの……」

「お兄ちゃん達も……」

「もう、食べる物が無いの……」

「お腹空いた……」


「こ、こら! お前たち!」

「向こうへ行ってろ!」

「あなた達は下がってなさい!」



小さい子は正直で、もう食べる物が無いと言っているし栄養状態も心配だ。

これは、こちらから積極的に食べ物を提供して話を聞かせてもらう事にしよう。


「ねえ君達! 食べ物ならこのリュックにいっぱい入ってるんだ。これを全部君達にあげるよ。だから少しだけ僕達に話を聞かせてくれないかな?」





ーーーーー





「美味しいね!」

「美味しい〜」

「あったかいご飯、美味しい!」

「(もぐもぐ)」

「ウインナー美味しい!」

「うん、美味い!」


僕はリュックから出すと見せかけてカセットガスコンロ、土鍋、お米、ペットボトルの水をアイテムボックスから取り出して炊飯を行なった。


その間に綾音さんに、もう一つカセットガスコンロ、フライパン、大量のウインナーを取り出して軽く塩胡椒で炙ってもらい、子供達に紙皿で配膳してもらった。


リュックはかなり大きい物なので、それほど不自然ではないだろう。

汁物は説明がつかないので今回はやめておいた。


「今、追加のご飯も炊いているからね!」

「ウインナーのお代わりも、まだまだありますよ?」


「うん」

「……ありがとう」

「お兄ちゃん達、ありがとう」

「……」

「さっき石投げちゃって、ごめんなさい……」

「ごめんなさい……」


「大丈夫だよ! 気にしないで」

「その通りです」


こうして食事を提供して信頼を得た後、僕達は子供達の事情を聞くことが出来たんだ。



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