五章 永住の地を目指して

第139話 北上(1/31)

僕達はホワイトフォート改め坂部市を出て、改造キャンピングカー10台で縦列になって北上を開始した。


今日は降っていないけど、最近降り積もった雪が溶けないで道路上にそのまま残っているので、スリップしない様に慎重に進んで行く。

あまり計算に入れていなかったけど北上するに従って雪量も増えるだろう。


パパの計画だと、この後は北上した都市のショッピングモールなどの大きい施設を一時的に僕達の拠点にして元自衛官の二人の指導の元、武器を使用した戦闘訓練を実施する予定なんだ。


この先ずっと僕や救助隊のメンバーだけで戦って行くのは不安なので、通常の実弾兵器で他の人も訓練だけはしておこうという事になっている。


しかしゾンビ映画だと最初から物資の多いショッピングモールに立て籠もるのは鉄板なんだけど、大体のケースでは最初は良いけど最後はそこの崩壊や脱出までがセットだから、あまり縁起としてはよろしくない。


でも、100人以上を軽く収容できて訓練も出来そうな敷地となると、やはりショッピングモールの様な大型の施設が第一候補になってしまうんだ。


もし、そこに生き残りの人達が居て僕達の理念に理解を示してくれる人がいれば、合流してもらうのも良いかも知れない。





ーーーーー





僕は道路上に現れる感染者をサイコバレットで倒し、道路脇に念動力テレキネシスで移動させてゆく。


他にも乗り捨てた車や瓦礫などを、逐次念動力テレキネシスで動かしながら進まなければならないので、雪と合わせて車での移動なのにかなりゆっくりとした行進になってしまった。


今の僕の念動力テレキネシスの最大同時発動数は5なんだけど、僕はコンピューターじゃないので放置車を動かそうとするとそれに集中してしまい、結局一度に一つ二つしか動かせなかったからだ。


空を行ければずっと早いんだけど、キャンピングカーの数に僕の念動力テレキネシスの最大数が届いていないので、将来はともかく今は地上の道路を進むしかないんだ。


改造したキャンピングカーは凄く大きいので、道が曲がっていることも考えると道路の片側だけではなく全て綺麗にしなければならない。


最初は調子が良かったんだけど、都市部に進むに従って道路上の感染者や障害物もかなり凄く多くなった。

出発から三時間ぐらいでサイコバレットを数百発撃ち、念動力テレキネシスはその数倍は発動しただろうか。


計画では初日に都市部の拠点にたどり着く予定だったんだけど、15kmぐらい進んだ時点で超能力の連続使用で僕が疲れ果ててしまったんだ……





ーーーーー





「大丈夫?」

「お水持って来ようか?」


「うん……ありがとう。少し休めば良くなると思う……」


超能力の使い過ぎで疲労して顔色が悪くなった事をパパに指摘された僕は、明日奈さんの割り当ての区画に寝かされており、明日奈さん、莉子さんが僕を心配してお世話をしてくれていた。


「感染者の数が思っていたより多かったし、乗り捨てられた車や瓦礫なんかも多いからお前に負荷が掛かってしまったな。大丈夫か?」

「うん。でも少し休みたいかな……」


「わかった。一先ずこの辺りの感染者は一掃したんだ。今日は少し早いがここで朝まで休む事にしよう。以降の感染者は元自衛官の佐々木さんと一条さんに対応してもらうから、今日はゆっくり休むんだ。計画は少し変更しよう」

「うん」


パパの言葉で安心した僕は眠りに落ちていった。





ーーーーー





翌朝、僕は目を覚ました。


時計を見ると日付が変わって朝の四時だ。

連続で十二時間も寝てしまったみたい。


でも睡眠で精神力が回復したのか今は凄くスッキリとした気分だ。

ここは明日奈さんの寝る区画だけど、サーチで探すと明日奈さんは妹の玲奈と一緒に寝ているみたいで、気を使わせてしまったみたい。


しかし、今回の事は僕の失態だった。


いつもならもう少し余裕があるんだけど、キャンピングカー10台分の改造や出発の準備をほぼ二日間でやって精神力を消費してしまっていたので、あまり力が残っていなかったんだと思う。


やっぱりもう少し準備期間が欲しかったところだ。

この状態でも大丈夫だと思ったんだけど、それは僕の慢心と言っても良いだろう。

皆の命も掛かっているんだ、これからは気を付けないと。


サーチで見てみると、元自衛官の二人はキャンピングカーの外で見張りをしてくれているみたいだ。


僕はキャンピングカーを降りて二人の所まで行く。


「佐々木さん。一条さんも、どうも済みませんでした」


「あら。もう大丈夫なの?」

「やあ!」


二人とも背中合わせで真剣に警戒中みたいだったけど、僕が現われたのを知って笑顔となった。


「はい。能力の使い過ぎで消耗したみたいですが、もう回復しました」


「ふふっ! 貴方にも人間らしいところが合ったのね、逆に安心したわ!」

「俺達も早速皆さんの役に立ててるようで良かったよ!」


「すみません。お騒がせしました……」


(ググウ〜)

辺りにお腹の鳴る音が響き渡る。


「すみません! 僕、ずっと寝ていて何も食べていなかったので……」

「「……」」


「これどうぞ夜食です。後は僕が警戒しておくので、お二人はそれを食べてキャンピングカーで休んで下さい」


僕は熱々の肉まん三個ずつをビニール袋に入れ、二人に手渡した。


「あ、ありがとう。そうさせてもらうわ!」

「う、美味そうだな。ありがとう!」


そう言うと佐々木さんと一条さんは足早にキャンピングカーに戻って行く。


少し慌てた感じだったのは、たぶん鳴ったのが佐々木さんのお腹だったからだろう……

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