第132話 荒井家の追放(1/29)

ホワイトフォートの代表選挙で勝利した坂部さんは、夕方頃に街の中央広場で当選の演説を行なった。


周りは坂部避難民グループや、日本政府の高官の栗山さん、行方防衛副大臣、自衛隊幹部などで固めている。


「え〜私が新しくここの代表に就任しました坂部です! ご支援ありがとうございました!」


パラパラとまばらな拍手が起こる。


「え〜私が当選したからには公約通り、日本政府と連携してやっていきたいと思います! まずは政府の方々と、そのご家族をここにお招きして、住んでいただきたいと思っております。水道・電気・ガスが使えている住宅に関しては、改めて配置換えも行う予定ですので、その際はご協力よろしくお願いします。また、自衛隊の拠点にもなるので、不要な道路や家は取り壊し、防衛力強化も進めて参ります!」


「住宅の配置換えなんて、聞いてないぞ!」

「政府の人間の家族って何だ?」

「家を取り壊すってどういう事だ!」


聞いていた住民から不満の声が上がるけど、坂部さんは気にせず続ける。


「え〜それと、ホワイトフォートという名前ですが、やはりここは日本ですので、私が当選したあかつきには、名称を改めたいと考えていました。ですので、これからここは、坂部市、と名前を改めたいと思います。また、これに伴って私の役職は市長という事になり、市の執行部は、私の権限、で割り当てて行きますので、どうかよろしくお願いします!」


「名前を変えるな!」

「なんで後から来たお前の名前なんだ!」

「議会が無いなんて市長の独裁じゃないか!」

「横暴だ!」


ホワイトフォートの名前を坂部さんの名前に変え、市長の独裁体制に変わると聞いて、さらに住民から不満の声が上がる。


「そして重要な事ですが、田畑や店舗、食堂、治療院など、全ての施設やその物資も市の管理となり、その所有権は日本政府に帰属します。適切に管理されていなかった今までとは違い、市が効率的に物資等を、割り当てますので、ご安心下さい!」


「自由が無くなるって事じゃないか!」

「私達のお店はどうなるの?」

「卵はもう食べられないって事か!」

「管理社会じゃないか!」


物資豊富で購買自由だった今までと異なり、購買まで管理されると聞いてさらに住民から不満の声が上がる。


「最後ですが、今まで日本人でありながら日本政府にたてつき、自衛隊の武器まで多数破損させた、荒井家の一族は、この坂部市から追放とします! 三日以内にここから出て行かせますので、ご安心下さい!」


「馬鹿な!」

「そんな事聞いてないわ!」

「荒井さん一家は一番の功労者だぞ!」

「反対だ!」

「俺達は危ないところを助けて貰ったんだ!」

「そんな! 私達を助けてくれたのに!」

「荒井さんはそんな横暴はしなかったぞ!」

「そうだそうだ!」


最後に僕達のホワイトフォート改め坂部市からの追放が告げられ、住民からは今までで一番多くの不満の声が上がった。


ここを追放されると聞いて、僕や一緒に聞いていた明日奈さんや莉子さんも驚いていたけど、パパは仏頂面を崩さなかった。


もしかしたらパパはこうなる事を予想していたのかも知れない。





ーーーーー





「どうするのパパ?」


坂部さんの演説を聞いた住民が騒然とする中、僕は横にいるパパに尋ねる。


「まあ俺達がここを出るしかないだろうな。お前が坂部や日本政府関係者、自衛隊を皆殺しにする覚悟があるのなら別だが」


「それは……」


「別に殺人鬼になれって言ってる訳じゃない。覚悟の問題だな。今回で言えばあらかじめ防空システムを整えておいて、日本政府関係者や自衛隊をホワイトフォートに入れなければこういう事は起こらなかったんだ。入れてしまった後にこうなってしまえば、もう相手を殺すかこちらが逃げ出すしかないって事だ」


「……流石に皆殺しには出来ないよ」


「ああ、今はそれでいい。しかし今回は良い教訓になったと思うしかないな。弱者を装って体制をひっくり返えそうとする輩とか、旧態依然とした体制を維持しようとする者達とは、今後は極力接触を断つしか無いだろう。悪いが、夕食時に家にいつものメンバーと、平坂家、川上先生、小谷さん達を集めておいてくれ。早目に今後の対応を決めておきたい。準備は後でママと相談してくれ」


そう言うとパパは少しだけ悲しそうな顔をして、家に帰って行くのであった。




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