第110話 招かれざる者(11/4、サーチ範囲2000m)
僕達救助隊は生存者の救出活動に出掛けていた。
虎太郎さんはもちろんだけど、今回から細井悠里さんも一緒だ。
悠里さんは半月ほど前に救出した高校の生徒会長で、どうしても救助活動をしたいとの本人の希望で参加してもらっている。
もちろん事前にパパの許可は得ているし、僕の超能力で作ったサイコボウを使用したデモンストレーションも見せて、パパを含む皆にも納得してもらっていた。
パパ達にも試しにサイコボウを使ってもらってみたけど、悠里さん以外はロクに的に当てる事が出来ず、それは僕も同様だった。
もしかすると、凄く訓練するとかサーチと連動させれば命中するのかも知れないけど、僕がそれをするなら普通にサイコバレットをたくさん撃った方が良いだろう。
虎太郎さんは近距離専門だし、遠距離からの援護が可能な悠里さんは戦力バランス的に貴重な存在となった。
悠里さん以外にも弓や武器を使える人はいるかも知れないけど、虎太郎さんや悠里さんの様に自分から戦おうという意思と覚悟が無いと、いざという時には戦力にならないだろう。
悠里さんはパパにその辺りの覚悟も試されていたけど無事クリア出来たみたいだ。
ちなみに悠里さんからは名前で呼んで欲しいと言われたのでそうしている。
なので僕の事も冴賢と名前で呼んで下さいと言ったのだけど、悠里さんはそれは恐れ多いと僕の事は隊長呼びになってしまった。
それを聞いて、明日奈さんと莉子さんは少しほっとしている様子だった。
ーーーーー
救助活動は基本的には少人数の生き残りを対象としている。
孤立している人達は生存が危ぶまれるのと、救助した後にその人達を集落に招いて良いかどうかの見極めが個別に行えるからだ。
明らかなひゃっはーさんや危ない人達なら、物資だけ渡してサヨナラする方針だ。
避難所を丸ごと招き入れる事になると中には少し問題のある人もいる。
今までそれを受け入れた事もあるけど状況によっては仕方が無い時もある。
真理がいた避難所は主だった男性達が殺されて皆が絶望していたし、悠里さんの高校の時は感染者に追いつめられている状況だったからだ。
救助に関しては、もちろんその人達を救いたいと思っているからなんだけど、結果的には僕達の為にもなる。
僕達は集落をバリケードの壁で囲って安全圏を築いたけど、そこで永続的な人間社会を構築してゆくためには、ある程度の人口が必要だからだ。
だけど全ての人を救助しようとは考えていない。
白蛇さんも、それは出来ないと言っていた。
集落は街の部分も含めて数万人、もし集合住宅を作る事が出来れば数十万人は暮らせるだろうけど、今はパパが掲げた目標である人口1000人を目指しているところだ。
ーーーーー
「こっちの方角に数人の生存者がいます。距離は1km、多分三人です」
空を飛ぶ絨毯に同乗している二人が頷く。
乗員が三名になったので以前よりも大きい絨毯だ。
そろそろ寒くなるので何らかの乗り物での移動にした方が良いかも知れない。
今や僕の超能力でのサーチ範囲は半径2kmに及んでいるんだけど、この辺りの生存者は大分減ってしまっている様で反応も少なかった。
パンデミックから半年弱、物資も乏しくなっているから無理も無いだろう。
そんな事を考えているうちに、生存者のいる高級住宅街の一軒家が見えた。
「あの大きな庭のある家です。まずは近くの感染者を排除しましょう。犬のゾンビがいるので気を付けて下さい。悠里さんは虎太郎さんの援護をお願いします」
「ああ、分かった」
「了解しました、隊長!」
僕は二人に超能力で生成した武器を手渡しながら、絨毯を静かに地面から1mぐらい浮かせて降ろした。
虎太郎さんと悠里さんも今は僕と同じ様に黒いライダースーツに身を包んでいる。
この装備なら万が一噛み付かれても直ぐに歯や爪を通さないので安心だ。
悠里さんが遠距離攻撃で先手を放ち、まだこちらに気付いてない感染者の頭をサイコボウで貫く。
それに呼応する様に虎太郎さんもサイコスレッジハンマーを持って感染者に突っ込んでいった。
僕は二人とは反対側にいる感染者をサイコブレードで倒しつつ、付近にいた数匹のドーベルマン犬のゾンビを、サーチでロックオンしたサイコバレットで倒した。
基本的に人間の感染者=ゾンビの動きはノロノロ系だけど、感染動物のゾンビは元が単純な為か動物的な何かなのか、とても素早い動きをしてくる。
このドーベルマン犬のゾンビなどは超能力が無ければ物凄い脅威だっただろう。
二人には事前に動物系のゾンビは危険だから避けてほしいと言ってあるんだ。
ーーーーー
(ドンドン!)
「誰かいらっしゃいますか? 救助隊の者です!」
悠里さんがドアを叩いて生存者に呼び掛ける。
僕や虎太郎さんより、女性である悠里さんの方が警戒されないだろうという事で、生存者への最初の呼び掛けは悠里さんの担当になったからだ。
何回か呼び掛けて数分待ったところで、中から男性の声で応答があった。
「お前達は何者だ?」
「私達は救助隊の者です。何かお困りでは無いでしょうか?」
「何っ! 救助だと!」
(バン!)
ドアが勢い良く開かれ、中から怒った様子の小太りの中年男性が現れる。
「遅いぞ! 今まで何をしていた! 家の地下にシェルターと物資があったから良かったものの、他の家なら皆死んでるぞ!」
悠里さんはいきなり捲し立てられて怯んでしまい、何も言えずにいた。
僕は悠里さんを庇う様に前に出て説明する。
「何か勘違いされているかも知れませんが、僕達は政府や自治体の救助隊じゃありません。独自に救助活動を行っている団体です」
「う、うるさい! 私を誰だと思ってるんだ! 経団連の会長職を務める大企業、〇〇化学の重役だぞ! 今すぐ私達を安全な場所に保護するんだ!」
僕は虎太郎さん悠里さんと目を合わせて軽く首を振った。
二人とは事前に、集落に招くかどうかは僕が決める事で合意していた。
人を選別する嫌な仕事だから二人にそんな重荷を背負わせる訳にはいかない。
実質的なリーダーである僕が決断すべき事だろう。
パパは最終的に集落への参加の是非は自分が判断するが、それを前もって僕が代行するだけだと言ってくれている。
だけどそれはほぼ建前で、僕の精神的な負担を軽減してくれているだけだろう。
僕は自分の意志で決断して切り捨てる。
とてもこの自己中な男性は集落には連れていけないだろう。
奥さんと子供には申し訳ないけど物資を渡して撤退しよう。
「僕達は希望者の皆さんに物資を配って周っています。避難所への誘導はしていないんです。ご家族は三人の様ですのでこれをどうぞ」
僕は扉の奥に心配そうに立つ奥さんと子供を見て、リュックから例のサバイバルセットを三つ取り出して男性の前に置いた。
※サバイバルセット=乾パンと各種缶詰を数個、水2リットル2本、お米2kgを入れたリュック
「ふざけるな! こんな量で足りるか! さっさと私達を自衛隊の駐屯地まで護衛するんだ!」
「おいコラ、ふざけんなよオッサン! 大将に失礼だろうが!」
「ひ、ひぃっ!」
巨漢の虎太郎さんが顔を近付けて上から怒号を飛ばすと、男性はビビって尻もちをつく。
この人、最近僕を大将って呼ぶんだよね……名前の方が良いんだけど……
「それではすみませんが、失礼します」
「ご健闘をお祈りします……」
僕はもう関わらないとばかりに別れの挨拶を口にする。
悠里さんは子供を気にしていた様だけど僕の決断を優先してくれたみたいだ。
「ま、待て、金が必要なら払う! 大金を払ってやってもいいぞ!」
僕達はそのまま振り返らずにその家を後にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます