第100話 私の王子様(佐々岡莉子)

私の名前は佐々岡ささおか莉子りこ


私は子供の頃から活発で気が強く、将来はスポーツ選手になるのが夢だった。

勉強も結構できる方で運動神経も良く、中学から陸上をやっていてスポーツ推薦されるほどではなかったけど頑張って良い記録を出していた。


でもそれは表向きの自分で本当は凄く怖がり。

少女漫画も大好きで白馬に乗った王子様の様な彼氏にも憧れていた。

ツインテールがトレードマークで顔も可愛いと言われていたけど、胸がペッタンコだったせいか中学では色恋沙汰とは縁が無かった。


高校は勉強を頑張ったお陰で偏差値の高い進学校に入学する事が出来た。

高校でも好きな陸上部に入り、陸上は高校からだという明日奈ちゃんに色々と聞かれて教えているうちに凄く仲良くなって、親友と呼べるまでになった。


最近は背がそこまで高くないのに、胸がもの凄く成長してきたのが悩みだけど、大好きな陸上と、勉学と、友達と充実した学生生活を送っていた。

そんな中でパンデミックが起こった。


私は放送を聞いて直ぐに体育館に向かった。

そこには明日奈ちゃんもいて両手を合わせて無事な再会を喜び合った。


でも数日後、避難している体育館から脱出しなければいけなくなった。

私のクラスは出口に近かったので直ぐに体育館から逃げ出す事が出来た。


私は明日奈ちゃんが出てくるまで待っていたんだけど、私と同じクラスである幼馴染の男子に引っ張られて現れた明日奈ちゃんは、なぜだかとても悲しそうな顔に見えた。





ーーーーー





私は明日奈ちゃん、明日奈ちゃんの幼馴染の男子、それと同じクラスの男子二人で学校から脱出し、市内のビルに夜になるまで隠れていた。

そして自分達だけ食べ物を食べていた男子達が、私の身体を舐めるように見て言った。


「お腹が空いただろ、食べ物をあげるからわかるよな? おい後ろに回れ!」

「わかった!」


えっ、何! 襲われる! 怖い!

あまりの恐怖で身体が動かなくなったけど、明日奈ちゃんが男子に体当たりして助けてくれた。


それから私と明日奈ちゃんは走って逃げたんだけど、私は逃げた先でガレキに躓いて足を挫いてしまった。

最悪だよ、この状況で走れなくなっちゃった……


お腹も空いてるし怪我も痛む。

それに逃げ切ったはずの男子にもいずれ見つかっちゃうかも。

途方に暮れる私たちだったけど、そこに現れたのが荒井君だった。


明日奈ちゃんに気になる男子として少しだけ聞いていたんだけど、聞いていたより背が高くて体格もがっしりとしている。

怖い……たぶん襲われたら絶対に敵わないだろう。


でも荒井君は明日奈ちゃんに聞いていた通り、凄く優しくて思いやりがあった。

私の怪我の治療も私が怖がらないように明日奈ちゃんに任せてくれるし、休む場所や毎度の食事まで用意して気づかってくれた。


そして追いかけてきた男子やならず者、ゾンビとかあらゆる危険から私と明日奈ちゃんを守り抜き、ついに私を家族の元まで送ってくれたのだ。


荒井君には本当に感謝しかない。


最後に食べた荒井君が作ってくれたおにぎりのなんと美味しかった事か。

その後も弟の秀彦にお菓子までもらってしまった。


明日奈ちゃんと荒井君にも避難所に残って欲しかったけど、家族を探しに行くというのを止められるはずがない。


泣く泣く、再会を祈って私達は別れたのだった。





ーーーーー





(カン! カン! カン! カン!)


深夜、私達の避難所に武装グループの襲撃があった。

避難所には警察官が何人か常駐していたはずなのに。


避難所に侵入してきた武装グループのならず者達が、私の身体を見て舌舐めずりをする。

ひっ! 怖い!


「莉子! 秀彦を連れて逃げるんだ!!」

「お父さん!」


「そうよ! 早く行きなさい!!」

「お母さん!」


お父さんとお母さんが、ならず者達に縋り付くようにして私を追いかけられないようにしてくれている!


私は秀彦を抱え、火事場の馬鹿力的な感じで何とか走って逃げ切る事が出来た。

お父さん、お母さん、ごめんね……





ーーーーー





私は逃げ込んだ商業ビルの奥で秀彦と共に数日を過ごした。

秀彦のリュックには荒井君からもらったお菓子がまだ残っていた。

それと緊急用にペットボトルの水が少し入っていたの。

ビルの水道の水はもう出ないようだった。


そのうち食料も水も無くなったけど秀彦を置いて出るわけにもいかない。

もう駄目かもしれない。


こんな時、王子様が颯爽と現れて私達を助けてくれないかな。

でも、そんな都合良く現れるわけ無いよね……


お願い! せめて秀彦だけでも誰か助けて!


既に意識の無い秀彦を抱え、涙を流して絶望の中で意識が薄れていった……





ふと声が聞こえる……

誰かが私を揺さぶっている。


薄っすらと目を開けると、なぜか荒井君が目の前にいる。

私を助けて家族の元に送ってくれた心優しい荒井君だ。


私は彼が側にいる事でもの凄く安心した。

でも荒井君に答えようとするけど声が出せないみたい。


「僕は荒井だよ! わかる?」


私は何とか微かに頷いた。

それから私と秀彦は荒井君に付きっきりで看病されて回復していった。


身体がうまく動かせないので、下の世話まで……

もうお嫁に行けないから責任を取ってもらうしかないかも。


それから私達を救ってくれた荒井君は不思議な力で、明日奈ちゃんもいる安全な集落まで連れて行ってくれた。


荒井君ううん、冴賢くんは私と秀彦の恩人で、私を絶望の淵から救ってくれた王子様だ。


私は一生をかけてこの恩を返してゆきたいと思う。





ーーーーー





この前、冴賢くんが両親のかたきってくれた。


避難所を荒らし回っていた大規模な武装グループをやっつけてくれたのだ。

冴賢くん、明日奈ちゃんと一緒に両親の墓に報告をした。


その晩、両親が夢に現れて冴賢くんと同じ事を言ってくれた。

二人とも笑顔で私達の分まで生きてと。


お父さん、お母さん、ありがとう……


それからは悪夢はもう見なくなった。

全て冴賢くんのお陰だ。


感謝はもちろんだけど胸にき上がってくる熱い想いもある。

私はこれから何があろうとも、明日奈ちゃんとずっと一緒に支えて行くんだ。


私の王子様である冴賢くんを。

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