第61話 超能力と責任(8/7)

僕たちはサーチの方向を頼りに、さいたま市を日光方面に北上して行く。


高校生2人、中学生2人、小学生以下5人と大人数での移動だ。

本来なら途轍も無く危険で時間もかかるはずだけど、大型のキャンピングカーに乗ったままなのでとても楽に移動できている。


本来は車での移動でも障害だらけのはずが、途中現れる感染者や障害物は僕が超能力で倒したり退けたりする事が出来るので成り立っているんだ。



「あの……さっきから車が勝手に動いて道を空けたり、ゾンビが一瞬で倒されて飛んで行ったりしているんですけど……これは一体……」


小学生以下の子供たちはキャンピングカーの寝室でくつろいだり遊んだりしているけど、早苗ちゃんはじっと移動方向を注視していた様で、異常に気付いたみたい。


「そのう、早苗ちゃん。怖がらないで聞いて欲しいんだけど……君が見た現象は僕の超能力で起こした物なんだ」


「えっ! 超能力ですか?」


「うん。元からここに居るメンバーは知っている事なんだけど、隠せないと思うから君にも伝えておくよ」


僕は白蛇さんに授かった力の事を早苗ちゃんに簡単に伝えた。


話を聞いた早苗ちゃんはもの凄く驚いている様だった。

次いで少し怒りが混じった目つきで僕に質問してくる。


「そんな……そんな凄い力があるなら……なんでもっと早く、早く大勢の人を助けてくれなかったんですか!」


「それは……」


「駄目よ早苗ちゃん、そんな事言っちゃ! 冴賢くんだって色々と大変だったの。それにただの高校生にそんな責任は無いわ!」


「そうですよ!! 冴賢さんにそんな事言うなら降りて下さい!」


早苗ちゃんは力がある僕が大勢の人を助けていない事が不満だったようだ。

たぶん僕がもっと早く助けに来れば、ご両親も亡くなる事は無かったと考えているのかもしれない。


それを聞いた明日奈さんと光司君が、早苗ちゃんをいさめる。

二人の想いはありがたいけど僕も自分の言葉で語る事にしよう。


「早苗ちゃん。僕はこの力を授かった存在に言われてるんだ。全てを助ける事は出来ない、自分と自分の仲間たちを護って共に生きろと。だから日本を救うとか世界を救うとかは無理なんだ」


「……」


「それにここまでの力に目覚めたのは本当につい最近なんだ。最初は感染者の位置がわかる程度の力とアイテムボックスしか無かったんだ。僕だって何度もゾンビやならず者に襲われて死にそうになったよ。このアイテムボックスにしたって、もし公にしたら僕は何処かに手錠でも掛けて拘束されて、都合の良いように扱われるだけだと思うよ。つい最近も似たような事があったしね」


それはもちろんあの婦人警官の米倉の事だ。

光司君もうんうんと頷いている。


「でもゴメンね。君の親しい人たちを救ってあげられなくて……」


「ううん。私こそごめんなさい……冴賢さんのせいじゃないのに、もしも両親が生きていたらって思うと……我慢出来なくなって、つい……」


早苗ちゃんが涙を流しながら謝罪する。

きっと本当に僕を責めるつもりは無くて突発的な思いだったんだろう。


「いいんだよ。それに君はご両親の分までこの世界を生き抜く必要があると思う。精一杯生きないと。それを亡くなられたご両親だって望んでいると思うよ」


「そうだよ、前を向いて一緒に頑張ろうよ!」


明日奈さんも僕に同調してくれる。

光司君もうんうんと頷いて肯定しくれているようだ。


「はい! 私、頑張って生きます! 死んだ両親の分まで!」


早苗ちゃんは涙の跡が残る顔で笑みを浮かべるのだった。



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