第51話 取り調べと釈放(8/2〜8/3)

桑田さんを一緒に連れて行く事になって、僕は作戦を練り直す必要があった。


留置所の格子を叩き切って光司君達を回収して逃げるつもりだったけど、それに桑田さんを加えると人数的に厳しそうだし、残される桑田さんの弟にも迷惑が掛かりそうだ。


だから僕は合法的に何を聞かれても黙秘する事にした。

弁護士でも要求してみようか。


幸い僕はまだ未成年だ。

何の容疑か分からないけど、誰にも迷惑を掛けていないのに理由なく拘留を続ける事は出来ないだろう。





ーーーーー





次の日、朝食後に取り調べがあった。

紹介されたけど、米倉とその上司みたいだ。


「荒井君、昨日は失礼したわね」

「……」


「最初に言っておくけど、貴方を罰しようとしている訳ではないの、警察としてはあの男達をどうやって殺したのか知っておきたいのよ。いくつかの疑問に正直に話してくれれば直ぐに釈放するわ」

「……」


「ずっとそうしているつもり?」

「まず逮捕理由が明らかにされていません。逮捕状は? 僕は弁護士が来るまで全て黙秘します。それと民間人、それも未成年に銃を向けた事も問題がありますよ」


米倉が僕に秘密を喋らせようとしてくるので、一言告げて黙秘する事にした。

上司がビックリしたような顔になる。


「米倉君、銃口を向けたのかね!」

「え、いえっ……」


「僕にも向けましたが、僕を捕えるために美久ちゃんという小学生の女の子にまで銃を向けましたよ。全く、信じられませんよ」


「……それは貴方が不思議な力で手錠を消して脅すからじゃない!」


米倉が上司の手前まずいのか言い訳をしてくる。


「これの事ですか?」


「!」


「こんなのただの手品ですよ。そんなに騒ぐ事じゃない!」


僕は手品の様に見せかけてアイテムボックスから昨日外した手錠を取り出した。

米倉も急に現れた手錠にビックリしている。


「米倉君、本当かね? これはかなりまずい事になるよ。手品を見せただけで未成年者に銃を突きつけて逮捕したとは!」


「違います! この少年は色々とおかしいんです! 口を割らせないと!」


「昨日の事をみんな見てますからね。今頃噂になっているんじゃないですか? この警察署は民間人を殺そうとしているって。僕はただ昨日知り合いの二人とここに来て少し手品を見せただけの高校生です!」


僕はここぞとばかりに追い打ちして畳み掛けた。

米倉が独断で色々とやっていたのは明白だ。

分が悪くなって顔色が青くなっている。


「米倉君、彼をすぐ釈放したまえ! 我々が不当逮捕で訴えられるぞ!」

「……はい。承知しました……」


僕はこれで釈放される事になった。


あの無法者の男達を殲滅したのは自分の意志だけど、その後は扉をこじ開けて救助し、感染者から女性達を保護までしてきたのにこの仕打ちだ。


僕はこの仕打ちを忘れない。

もし外で米倉とあの手錠を掛けた警官に出会ったら容赦しない事にしよう。





ーーーーー





釈放された僕は荷物のリュックも返してもらい、警察官の付き添いで居住区まで光司君、美久ちゃん、桑田さんを迎えにきた。


「光司君! 美久ちゃん!」


「冴賢さん! 出られたんですね!」

「ひさとお兄ちゃん! 良かった〜!」


美久ちゃんが飛びついてくる。

光司君も笑顔だ。


「不安な思いをさせてゴメン。もう容疑は晴れたから釈放されたんだ」


僕は光司君を手招きして近くに寄せ、美久ちゃんと三人で小声で話した。


「この避難所はある程度安全だと思う。でも、いずれ崩壊しないとも限らない。僕は家族を探して旅を続けて、その後は暮らしてゆける土地を探すよ。君達さえ良ければ僕と一緒に来ないかい?」


「私は……ひさとお兄ちゃんと一緒に行きたい!」

「……僕も冴賢さんには恩もあるし、一緒に行きたいです!」


「分かった。二人ともありがとう。僕もある程度強いから安心して。それと、もう一人ここから同行者が増えるんだ。後で紹介するよ。ここを出る準備をしておいて」


僕は付き添いの警察官の人に言い、別の部屋に向かった。

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