第49話 恩知らずな者たち(8/2)

朝食をとった後、集合して再出発となった。

直線距離的にはあと2、3kmぐらいのようだからお昼前に着ければベストだろう。


また僕が先頭に立ってサーチで感染者の動向を見て、待つか殲滅するかを選択しながら移動する。


婦人警官の米倉さんはまだ僕を怪しんでいる感じで観察している様だった。


まあ見える前に感染者の位置を指摘したりといった事が、100%の確率で外れなく続くといった事は異常だと思うけど、皆の安全の為なんだから見逃して欲しい。


そして出発から一時間ほど経った時だ。

僕はサーチで今いる道の先から、生存者の小集団がこちらに来るのが分かった。


「米倉さん。この道の先から生存者の一団が来ます。たぶん5人ぐらいです」


「分かったわ。一旦隠れましょう!」


僕達は全員がビルの影に隠れて様子を伺ったけど、相手が目視出来るようになると急に米倉さんが相手に見えるように出て大きく手を振った。


近づいて来ていたのは警察官の一団だった。





ーーーーー





「米倉巡査、行方不明だった君が良く無事で!」


「はい。犯罪者集団に囚われていたんですが脱出してきました。この女性達も被害者で、助け出してここまで護衛してきたんです!」


「そうか、すぐに署に戻って報告しよう。後は我々が護衛を引き継ぐ!」


助けたのも護衛してきたのも僕なんだけど……


まあどうやら僕はお役御免で後は警察官が護衛してくれるとの事。

警察権力の庇護下に入れた事で被害女性達も嬉しそうだ。


光司君と美久ちゃんを警察の避難所に入れてくれるという約束が守られるなら、僕も気が楽になって良いかも知れない。


僕達は警察の一団に誘導されながら警察署までの道を歩いてゆくのだった。





ーーーーー





お昼前に、やっと米倉さんの所属する警察署にたどり着く事が出来た。

最後は少し強行軍になってしまったので美久ちゃんは僕がおぶっての到着だ。


光司君と美久ちゃんも笑顔で、被害女性達も嬉しそうだ。

だけど僕の心は沈んでいた。


何故かというと、ここは桑田さんを送った警察署だという事に気付いたからだ。

偶然にも米倉さん所属の警察署と桑田さん姉弟の避難所が同じだったんだ。


お別れもせずに出て行ったから、もし桑田さんに出会うとかなり気まずいだろう。

この際、警察署に入らずにこのまま行った方が良いかも知れない。


僕は米倉さんに相談する事にした。


「米倉さん。警察署まで来たので光司君と美久ちゃんの避難所への入所の件、よろしくお願いしますね」


「ええ。それは良いんだけど貴方はどうするの?」


「二人が問題なく入所出来る様なら、僕はここで失礼しようかと思いまして」


「駄目よ。貴方も来なさい! あの男達を殺した方法や銃弾の謎を話してもらうわよ。他にも何か隠していそうだし!」


「それはお断りしたはずですけど……僕は家族を探しに」


僕達が入口で言い争っているように見えたのか、皆が集まってくる。

光司君と美久ちゃんも心配そうだ。


「一体どうしたんだ?」


数人の警察官の人が来て米倉さんに尋ねる。




「この子を殺人容疑で逮捕して下さい!」


「「「 ! 」」」


いきなり僕を逮捕しろという米倉さんに、光司君と美久ちゃん、被害女性達は一体何を言ってるんだという顔になった。


どう考えても僕が皆を助けたという事実があるし、ここまで護衛して来たんだ。

男達に関しては正当防衛だし逮捕する理由は無い、めちゃくちゃにも程がある。


(ガチャ! ガチャッ!)


「米倉巡査、僕が逮捕しますよ!」


いきなり若い警察官が僕の手首に手錠を掛けた。

若い警察官は米倉さん、いや米倉のご機嫌を取りたいだけの感じがする。


「おかしいですよ! 冴賢さんは皆さんを助けたんですよ!?」

「なんでひさとお兄ちゃんに手錠を掛けるの!」


光司君と美久ちゃんは僕への対応に怒った。


「えっ! あの子は私達を助けてくれたんじゃないの?」

「まさか、あの男達とグルだったとか?」

「まだ子供なのに?」


被害女性達は状況が分からないみたいで憶測でヒソヒソ話を始める。


「僕が手錠を掛けられるいわれはありません」


僕は怒りで暴れ出しそうになる自分を抑える。

そして手を振って手錠をアイテムボックスに格納して外した。


「えっ! 手錠が無い!」

「まさか!」


手錠を消し去ると警察官達が臨戦態勢になったようだ。

僕に拳銃の銃口が向けられる。


いざとなれば念力サイコキネシスを纏えばよい。

僕に拳銃が効かないのは実戦で証明済みなんだ。

あの男達との戦闘も全くの無駄では無かったという事だ。


「それが正義だと思うなら、罪なき僕を撃てばいい!」


白蛇さんから言われた言葉が頭をよぎる。


僕を撃った場合は、ここにいる警察官は米倉を含めて全員殺す事になるだろう。

その場合は光司君と美久ちゃんを置いておく事は出来ないので連れて逃げるか。


一触即発の緊張感が漂う中、米倉がゆっくりと銃を抜いて……


美久ちゃんに銃口を向けるのだった。

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