第31話 空っぽの家(6/7)
僕は自宅から後3kmぐらいのところまで来ていた。
時間はまだお昼ぐらいだ。
このまま進むと家から2kmぐらいのところにある新幹線が停車する駅がある。
そこはこの辺のキー駅で普段から人が多いので、多分感染者だらけだと思う。
僕はそう予想して少し離れた川側の土手を移動していた。
映画だと大体ゾンビは水が苦手という設定だからここは比較的安全だと考えた。
まあ映画によっては海を渡ったりもしていたと思うけどね。
その後、土手から幹線道路に移動した僕は、手を伸ばして捕まえようとする感染者を振り切りながら猛スピードで自宅へと向かった。
白蛇さんが上げてくれた身体能力で昨日と今日でかなり全力で走ったけど、まだ全然限界を感じていない。
僕が成長期というのもあるだろうけど、これからまだ身体能力は上がりそうだ。
パンデミック発生からかなり時間が経過したからだろうか、マンションの規模にもよるけど心持ち生存者がいる率が下がっている様な気もする。
都心の方と、郊外ではまたちょっと違うかもしれないけど。
はやる気持ちを抑えるため、そんな事を考えながらいつも通っていた道を通る。
この辺りは住宅街だが、マンションはそう多くはないので感染者もまばらだ。
僕の家は3階建ての一軒家で1階は車庫を含めてコンクリート作りになっている。
恐らく1Fが突破される事は無いだろう。
通常は2Fにも上がって来れないし、3Fへは空でも飛ばない限り侵入できないはず。
感染者対策であれば家に立て籠もっている限り安全だと言える。
やはりパパが言っていた通り、一番怖いのは生きた人間だろうと思う。
ーーーーー
あと50mほどの距離に今では少し懐かしくも思える自宅が見えた。
家の窓は全て閉まっている。
パパの車、ミニバンが車庫に無い!
僕の心臓はドキン、ドキンと物凄い音を立てている。
心臓が鳴りすぎて首筋が痛いように感じる。
佐々岡さんや桑田さんも同じ様な感じだったのだろうかという疑問が頭を過る
僕は家の玄関の前に立つ。
サーチでも感染者の反応は無いけど生存者の反応も無い。
そうするとここには何者もいないか、倒された感染者がいるかのどちらかだ!
僕はゆっくりと玄関の扉を開けて家に入った。
ーーーーー
玄関には履いていない靴は無く、赤黒い血痕のような物が少し付着している。
それが誰の物かは分からない。
何が起こるかわからないので、僕は靴のまま家の中に入った。
1階のトイレ、お風呂、僕の部屋にはかなり荒らされたような跡があり、土足の跡もあったが、基本的にはそのままだ。
2階に行く。
2階はリビングとダイニング、キッチンだ。
リビングの奥にある食料庫が荒らされたような感じだが、何も残っていない。
キッチンも調味料などはある様だが、冷蔵庫は空に近かった。
書き置きの様な物も無い
3階に行く。
3階はトイレ、妹の部屋、両親の仕事部屋兼寝室だ。
妹の部屋には服とかが少し散乱しているが普通の時でも同じだったはずだ……
妹はハムスター2匹を別ケージで飼っていた。
そのハムスター達のケージも空いており、我が家のアイドルだったハムスターのナイトとあずきも見当たらない。
両親の寝室もパパがテレワークで使用していたパソコンが置いたままで、衣類が少し散乱している。
最期に屋根裏だ。
家は3階の廊下の天井にある階段を降ろすと小さいが屋根裏部屋がある。
普段は単なる収納としているが、念のため僕は上がってみた。
階段から屋根裏部屋を除くと基本的には以前のままであった。
だけど入ってすぐのところに、2Lのペットボトルの水、小量の非常食、そして僕宛の手紙が置いてあった。
僕はそのままの状態で急いで手紙を開く。
『冴賢へ
この辺りの避難所は全て満員でもう入れないらしい。
パパたちは家に籠もっていたがそのうち物資を求めて移動する事になると思う。
何処へ行くかはまだはっきりと決めていないが、基本的には人の少ない田舎とかになると思う。
念のため少量だがここに物資を残しておく。
必ず生きてまた会おう。お互いの検討を祈る。
※行き先がはっきり決まったら次の手紙で知らせる
パパより
冴賢が無事なのを祈ってる。
早く帰って来て。
ママより
お兄ちゃん、みんな心配してるよ。
なるべく早く帰ってきてね。
玲奈より』
「……」
ひとまず家族が無事だったのは良かった。
車庫に車が無かったのも車で脱出したからだろう。
手紙ではっきりと行き先を告げていない、家に荒らされた跡があるし玄関の血痕などから察するに、他の人間に襲われて慌ててここを脱出したのかも知れない……
一体、家族は何処へ行ってしまったのだろう。
手掛かりは何も無い。
家に帰るのが遅すぎたんだ!
僕はこれからどうすれば良いんだろう……
「うっ……くうっ……あああっ……」
途端に僕は強い孤独感に苛まれた。
やっと家族に会えると思っていたのに……
(ギュッ!)
僕は家族に会いたいのに会えないもどかしさで拳を強く握りしめる。
握った拳の間からギシギシと音が漏れ、力を入れ過ぎてブルブルと身体が震えた。
だがそれも長くは続かず、反動で力が抜けて膝から崩れ落ちる。
絶望して横たわる僕。
緊張と絶望から意識が途絶えてゆく。
気を失う最中、僕は優しい青白い光に包まれてゆくのを感じた。
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