第12話 計算高い男(東堂達也)

俺の名は東堂とうどう達也たつや


俺は子供の頃から人より体が大きく、運動神経も良くてスポーツなら大体なんでも出来た。

ついでに言うと家も金持ちで、親に言えば大体の物は買ってもらえた。


俺はイケメンで学校の成績も良く、女子からも少なからずモテていたが中学では彼女は作らなかった。

俺にふさわしいと思える女子がいなかったからだ。


高校は少し偏差値の高い進学校に入学する事が出来た。

入学式が終わり、クラス別に教室に集まった際に俺の目を引く女子がいた。

武田たけだ真理まりだ。


彼女は万人が目を引く容姿で高一にしてはスタイルも良い。

少し観察したところ、明るく人当たりも良くクラスにもすぐに馴染んでいた。

真理まりをモノにしたいと考えた俺は、親しそうにしている男子に目を付けた。

荒井あらい冴賢ひさとだ。


聞けば家が隣同士の幼馴染らしい。

だが片や美少女、片やボッチ感満載の男子、どうにも釣り合わないように見える。

彼女には俺こそがふさわしいだろう。


知恵の回る俺は、まず冴賢ひさとと友達になる事を目指した。

少し陰キャボッチ感はあるがそれほど不快感の無い男だったので、ラノベなどの共通の話題ですぐに仲良くなる事が出来た。


そして毎日3人で顔を突き合わせて昼食を食べる仲となった。

真理まりとはそのうちに教室やお昼の時もチラチラと目が合うようになった。

真理まりも何となく俺に好意を寄せている事を感じた。


来週あたり真理まりをデートにでも誘ってみるか。

冴賢ひさと真理まりに好意がある事は見え見えなので少しだけ悪いと思ったが、遠慮などしていられない。


そのうちに昼食は2人で摂る事になるだろうな。





ーーーーー





そして事が起こった。

ウィルスか何かのパンデミックだ。


いつもはのほほんとしている冴賢ひさとが珍しくリーダーシップを発揮して先生への報告や食糧の調達などを進んでやっている。

それにこういう状況にやたら詳しそうな感じだ。


こいつ、やれば出来るんじゃないか。

その調子でこれからも俺の役に立てよ。


だが冴賢ひさとは階段で転倒して動けなくなってしまった。

確実に骨にヒビは入っているだろう。

恐らくは2、3週間は満足に動けないはずだ。

役に立つどころか足手まといになりやがって!


体育館での避難生活で冴賢ひさとが寝ている時だ。

俺は真理まりを体育館の隅に呼び出した。


真理まり、いざという時になったら二人で購買で買った食料を持って逃げよう。災害用地図アプリで見たら5kmぐらい先に大きな警察署があるんだ。そこが駄目なら市役所だってある。少人数なら身を隠しながら移動すれば行けるはずだ」


「えっ! ひーくんはどうするの? 怪我してるんだよ……」


「だから万が一だよ。冴賢ひさとには悪いが心中するつもりは無い。アイツを背負って行く事は出来ないんだ」


「でも……」


「まあこのまま助けが来ればいいけどな。君だって死にたく無いだろう?」


「それは、そうだけど……」


「なら、そのつもりだって事は忘れないでくれ。君の為でもあるんだ」





ーーーーー





その「いざ」って時は思ったよりも早く来てしまった。

食糧調達チームが感染者に捕まって体育館内に呼び込んでしまったのだ。

直ぐに脱出しないと!


真理まりと目を合わせ、食糧入のバッグを持つ。


「真理、達也!」


冴賢ひさとが俺に手を伸ばす。

立たせてほしいんだろう。


「悪いな!」


俺は冴賢ひさとのバッグを奪い、真理まりの手を引いて走り出す。

バッグを奪った時に真理まりは驚愕の表情だったが、諦めたのか一緒に走ってくれる。


俺達は振り返らずに感染者をかわしながら学校から脱出する。


ふっ! 悪いなひさと。

俺はこんなところで死んで良い人間じゃないんだ。

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