前途多難な三人暮らし。─お、俺の親友も義妹だと?─

白ゐ眠子

第1話 心中お察し出来かねます。


「はぁ? が、がく? 今、なに、言ったの?」

「ん? 俺の親父が上司と再婚するって、言ったんだが? 朱音あかねの耳は大丈夫か? 頭だけでなく耳までおかしくなったか?」


 それは高校に進学して二年目の春が訪れる頃合いに聞かされたとんでもない転換点だった。


「耳は大丈夫だよ。でも、再婚って・・・確か、十三年前に離婚して一生独身をって、酒に酔ったおじさんから聞いた事があるけど、その決意を破ったんだ。何というか分からないものだね」

「いや、マジで俺もそう思う」

「ぷっ、息子にも思われておじさん可哀想」


 二年生に進級し、始業式を終え、俺と親父が住んでいるボロアパートに帰宅する途中で呼び出され、再婚話だけを聞かされて今に至る。


「可哀想なのは俺だってぇの。お陰で荷造りをする羽目になってバイトも休まないと・・・はぁ〜」


 肝心のボロアパートも今月限りで解約すると通知され、近日中に引っ越しする段取りまでも水面下で進行中という。


「学校に無許可で行っている、俺への家庭教師のバイトだから、休むも休まないも無いと思うけど? 何なら俺も手伝うし、ね?」

「いや、お前の学力が低下したら俺が詰む」

「詰むって・・・ああ、確かに詰んじゃうね」

「ああ、お前のおじさん、めっちゃ恐いから」


 住んでいるボロアパートも近日中にリフォームする話を聞かされていたため、同じく居住していた住人達は俺と父親を除いて一人・二人と出ていっていたが。


「大事な子供だからね〜」

「唯一の子供だもんな」


 そして今は、一度帰宅した親友こと東山とうやま朱音あかねと近所のスーパーマーケットで合流したのち、俺の住まうボロアパートへと帰宅している最中である。

 スーパーマーケットに寄ったのは一緒に夕食を食べて送迎までがセットだから。

 ま、送迎帰りに一人で銭湯へと寄るルートだから了承したわけだが。


「それもこれも、明日行う小テスト・・・」

「少しでも身についているか確認したいんだろ。初の担任になって息巻いていたし」

「新任のあさちゃん先生に担任は荷が重いと思うけど?」

「一年目を過ぎたから新任もクソもないだろ」

「それはそうだけど・・・」


 ちなみに、俺の名は北山きたやまがくという。俺の容姿など誰得だって話だから容姿やらは省くな。自他共に認める平々凡々な容姿に何を求めるって言うんだか。

 その点で言えば、俺の隣をしょんぼりと歩く朱音は美形と呼べる容姿だろう。

 切り揃えた短めの茶髪、クリッとした目元、鼻筋は通り、道行く女性達が常に振り返る、読者モデルのスカウトすら受けた事のある美形なのだから。朱音自身はやる気が見られず、すげなくあしらっていたがな。


「どうしたの? 俺の顔に何か付いてる?」

「いんや、何でもないぞ」


 そのくせ、勘が鋭いから余計な事など考えようものなら、俺に抱きついてくる始末だ。

 男が男に抱きつく? 何それ恐い。

 俺は恋愛に興味こそ無いが、同性が好きというわけでもない。健全な男子高校生であるのは確かで異性に触れられただけで御子息が元気になるのは確定だからな。まぁ触れられた事すら無いから、その確定要素すら未知なる物だが。


「ところで、再婚したら名字はどうなるの?」

「当面は今の名字を使う事になるだろうな」

「ああ、手続きが面倒ってこと?」

「進級した直後に再婚だろ? それなら進級する前に言って欲しかったわ〜」

「た、確かに・・・で、何て名字なの?」


 つか、男の上目遣い、やめい!

 そんなに名字が気になるのかね?

 朱音の身長はクラスの男子で一番低い。

 校内では下から数えた方が早い身長だ。

 俺も高い方では無いが俺より低い身長からの上目遣いだから油断するとたじろいでしまう。


「みょ、名字が気になるのか?」

「うん。だってさ、引っ越すとなると、俺がその家に出向く事になるじゃない?」

「ああ、家庭教師の話かぁ」

「そうそう。ウチは男所帯ならではの汚部屋だからね〜、足の踏み場もない惨状では勉強どころでは無いし、俺の下着拾って洗ってたしね」

「それを言ったら俺の家はどうなるねん!?」

「岳の奇麗好きでピカピカな家だけど?」

「し、室内は、な・・・」


 名字を問われ、語ってよいものか悩む。

 何せ親父の再婚相手は子持ちと聞いたのだ。

 年齢は不明だが異性らしい。願うなら同性の方が良かったが、それを願うのは筋違いだろう。


「ま、まぁ、いいか」

「で、どんな名字なの?」

「なんだったかな? キラキラネームに近い名字だったはずだ」

「キ、キラキラ、ネーム?」

「親父の仕事関係だから俺も詳しくは聞いていないが、財閥に属するとか言っていたな?」

「ざ、ざい・・・そ、そうなんだ」


 おや? 何で頬が引きつっているんだ?

 目も泳いでいるし、少し脂汗が出てる?

 さっきまで元気だったのに、何ぞ?


「調子悪いなら今日はやめるか?」

「ううん。大丈夫、明日の小テストが気がかりだし、少しでも勉強を進めないとね」


 何故か気丈に振る舞う朱音。

 俺は首を傾げながら微かに震える朱音の横顔を眺めるしか出来なかった。


「雪、俺、どうしよう・・・」



 §



 《あとがき》


 久方ぶりの新作です。

 この物語が今後どう発展していくのやら?



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