第363話 いつの間にか……
「…………よく、倒せたな」
夕食時、お互いに得た情報を交換し合っている際に、ヨセフたちはガルフたちがアサルトワイバーンと遭遇し、戦った話を聞いて驚きを隠せなかった。
「いや、そうか……イシュドが参加していなかったとはいえ、全員で戦ったのか……であれば、ギリギリというものでもなかったか」
「どうだっただろうな。ぶっちゃけ、最後の方は結構ヤバぇとは思ったぜ。ガルフがあそこで思いっ切り殴って……つか、その前にイブキとアドレアスが同時に攻撃をぶっ放して減速してくれたのもナイスだったな」
「私としては、あれで完全に動きを止められればと思っていたのですがね」
主の咆哮というスキルを持つミノタウロスを相手に放った時と比べれば質は劣るものの、イブキは自身が放った居合・三日月でなんとかアサルトワイバーンの動きを止める……もしくは完全に妨害したかった。
「私も同じ意見だね。そういったところを振り返ると、途中まで私たちのペースで進めていたこともあり、心のどこかで油断が生まれていたも言えるかな」
快勝と呼べなくも勝利で幕を閉じたアサルトワイバーン戦だが、遭遇してからアドレアスたちは常に緊張感と戦い続けていた。
イシュドと比べたら温い圧?
実際に比べてみれば……そうと言えなくもない。
しかし、アサルトワイバーンの豪火球や爪撃、尾撃を食らえば間違いなく致命傷に……最悪、一撃で死んでしまう可能性もある。
アサルトワイバーンはその外見だけでそう思わせ、当然外見だけではなくそれ相応の実力を有しており、圧も偽物ではない。
一撃の攻撃範囲も広いため、挑む数が多くとも、常に警戒しておかなければ一瞬で爪撃波や豪火球が飛来する。
「……そうですわね。そういった部分は、確かにありましたわ」
「Bランクモンスターの亜竜を相手に、自分たちが押せているという感覚は確かにあったな」
ミシェラや、二年生のレブトも同じく途中から心の何処かでそういった油断があったことを素直に認めた。
「って考えるとあれだな。やっぱアサルトワイバーンでの戦いじゃあ、ガルフが一番働いてくれたな」
「そ、そうかな」
「フィリップと同じく。私とアドレアス様の攻撃によってアサルトワイバーンを減速させることは出来ましたが、それでもガルフの闘気を纏った一撃がなければ、私たちも決して小さくない傷を負っていたでしょう」
「ってことだ。だから、素直に喜んどけって」
「う、うん」
「んでよ、そっちはどうだったんだ」
他に遭遇したモンスターも含めて、フィリップたちは本日得た情報を全て伝えた。
ヨセフたちはどうなのかと尋ねるフィリップに対し、彼らは少し申し訳なさそうな表情となった。
「……正直なところ、私たちが遭遇したモンスターの中で、強敵と言えたのはブラックウルフに乗ったゴブリンナイトだけであった」
「へぇ~~~。まだ討伐対象の全容は見えてねぇけど、Cランクモンスターのブラックウルフに乗れてるなら、そのゴブリンナイトは割と群れの中でも上位の存在だったんじゃねぇの?」
「かもしれないな。そう思えるほどの戦闘力は持っていた」
ヨセフたちは遭遇するモンスターを相手に、毎回毎回全員で挑むことはなく、必要であろう人数だけで攻め、他のメンバーは第三者の乱入を警戒していた。
一応リスクを考えてメンバーを編成しているため、怪我を負っても切傷や青痣で済んでいた。
しかし、ゴブリンナイトとブラックウルフのタッグに対しては……ヨセフとローザ、パオロの三人だけではなく、レオナまで参加して挑むも、討伐するまで五分以上の時間が掛かってしまった。
「マジっすか、それ」
「大マジよ~~。騎乗のスキルを持ってるモンスターなら、ゴブリンが相手でも油断ならないってのは解ってたけど、マジでビックリって感じだったわね~~」
「大前提として、ゴブリンナイトも通常のゴブリンの上位種と比べて一回り……いえ、二回りは大きかったですね」
「通常の個体よりも二回りも大きいってなると、ランクはDじゃなくてCか?」
フィリップの言葉に、実際に戦り合ったヨセフたちは小さく頷いた。
実際に視てはいないものの、身体能力の高さや剣技の腕前などから考慮し、それが妥当としか思えなかった。
「ブラックウルフとも意思疎通が完全に取れているように思いました」
「うわぁ~~~、クソ厄介だな~~~。まぁ、そこでぶっ殺せたのは良かったか……なぁ、エリヴェラ、ステラさん。その戦いを観てた奴はいたっすか」
「私は特に何も感じませんでしたね」
「僕も……そうだね。特に不穏に感じる何かもなかった」
「それなら、今のところ俺らが我が不利になることはねぇか」
「しかしミシェラ、そのCランク相当のゴブリンナイトと同等の実力を持つ個体が何体いるか解りませんわよ」
レオナが参加しているにもかかわらず、討伐するのに五分以上掛かった。
その話に、ミシェラは決して小さくない衝撃を受けた。
「落ち着けっつの。数が多かったとしても、大量に襲い掛かってくればそれはそれで向こうが動き辛くなるだけだろ」
「そうだね。そうなれば、こちら側の攻撃も当たり易くなるだろう」
フィリップとアドレアスも、ヨセフたちの話を聞いて多少驚きはしたが、それでも冷静に大局を見据えていた。
「問題があるとすりゃあ、あれだな。Bランクの個体が面倒なのは変わりないとして、メイジがウルフ系に乗ってたらクソ厄介だろうな」
「高速移動魔砲台ということだね」
「そういうこった」
「ではフィリップ、そういった個体は私が最初に狙って討伐しておきましょうか?」
「あぁ~~~~……そう、だな……………………そうしてくれっと、有難いかもな」
フィリップとしては、イブキの斬撃はBランクモンスターにも通じる高火力という手札の一つ。
そちらに使いたくはあるものの、自身の口から語った通り、ウルフに乗って高速で移動するメイジが厄介なのも間違いない。
「んじゃあ、序盤はうちも一緒に狙ってメイジ共をぶっ潰すよ。その方が良いっしょ」
「そうっすね」
クリスティールとステラも特に反対意見などなく、軽く頷いて同意をします。
二人が了承したのであれば、ミシェラやヨセフも特に言うことはない。
(ん? あんでクリスティールはこっち見て笑って…………あっ)
本来、今回の討伐メンバーの中でリーダーを務めているのはクリスティールとステラの二人。
しかし、先程のやり取りを振り返ってみると……どう見ても、フィリップがリーダーとして話を進めている様にしか見えない。
クリスティールとしては手のかかる弟の成長が嬉しいものの、当の本人からすればやってしまったという後悔しかなかった。
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