第354話 殺した武器

「なぁ、イブキ。ちょっと良いか」


「……珍しいですね。フィリップが私に声を掛けるのは」


「かもしれないな」


昼食時、あまり野営とは思えない料理を完成させた後……イシュドはフィリップたちと共に食べず、離れた場所で昼食を食べ始めた。


理由としては、やはりイシュドの実力や知恵、知識だけでガルフたちが動くのは良くない。

そんなアリンダから伝えられた考えに対し、イシュドは特に反論を返すことはなく了承。

そのため、昼食の間はひとまず離れて物理的に会話に参加しないようにした。


「ゴブリンとウルフ系モンスターを本気でぶつかる際、何かしら面倒な事を考えてそうな連中を確認しといてくれねぇか」


「策士の監視、ですか」


「あぁ。誰かが気付いておかないと、向こうに嫌な手を打たれる可能性があるからな」


「…………フィリップが出来ませんの、それ」


皿の上に置かれた焼肉をナイフとフォークで丁寧に食べるミシェラは、普段と変わらない表情で尋ねた。


「無理に決まってんだろ、俺を殺す気か。やっぱあれか、胸に栄養が行き過ぎてんのか」


「っ、失礼ですわ!!!!」


ミシェラとしては、先日の夕食時に話した圧倒的な中衛の役割に関して他のメンバーと同じくフィリップを推したのと同じく……多少の悔しさは感じるものの、それでもフィリップならやり遂げられるという思いから、策士の監視も行えるのではと進言した。


しかし、フィリップからすればこれ以上俺を働かせて過労死させるつもりかとツッコミたかった。


「ミシェラ、フィリップの言葉は良くありませんが、落ち着きましょう。それで、策士の監視についてでしたね。珍しくフィリップからの頼みですし、引き受けましょう」


「おっ、そりゃ助かるぜ」


「…………ねぇ、フィリップ。その役目は、イブキさんが一番適任なの?」


イブキには荷が重い仕事、などとは全く思っていないガルフ。


しかし、イブキの攻撃力や技術力の高さを知っているからこそ、攻撃メインで動かずにそういった役割に回る方が良いのかという疑問が浮かんだ。


「ガルフ、ゴブリンとウルフ系モンスターの群れと衝突した際、クリスティール先輩やガルフ、ステラさんにレオナさん、エリヴェラの攻撃力は非常に重要です。強敵を討伐するには、同前提としてあなたたちの火力が必要なの。だからこそ、ミシェラほどではないにしろある程度動ける私が適任なのです」


「……まっ、そんな感じの理由だ。後、イブキと一緒に組んでイシュドたちと戦ってた時、イブキが一番合わせやすかったって言うか、動きやすかったからな」


「それは私も思いましたね。もう即席というほど歴は浅くないかもしれませんけど、私も動きが合わせやすいと感じるのはフィリップとイブキさんの二人が同率で一位でしたね」


当然、クリスティールはガルフたちだけではなく、エリヴェラたちとも共に組んでイシュドやシドウ、クルトに挑んでいた。


結果として、どの組もイシュドたち三人に敵わなかったが、それでも誰と組みやすいかというのはある程度理解出来た。


(くっ!!! ……純粋な強さではなく、理解度が足りないということですの?)


ミシェラとしては、親愛なるお姉様であるクリスティールに、その枠に自分がいないと告げられて相変わらず悔しさを感じるも……今自分たちがどういった場所にいるのか理解しているからか、大きな声を出して不満や反論を口にすることはなかった。


「それは僕も感じたけど……それと関係があるの?」


「俺はあると思うぜ。組んで戦い易いって感じる人間は、それだけ戦況を良く見れてるってのに繋がると思うんだよ」


クリスティールからの称賛によって、自画自賛が入っていると解りつつも、フィリップは自身の考えを伝える。


「だから、イブキが策士を監視し続けるのが適任だと思ったんだ」


「そっか…………うん、それなら納得だね」


不満はなく、フィリップの考えに対して納得している。


しかし……ガルフの中で、イブキにはミノタウロスの件で決定打を与え、助けられたというイメージが強く、「でもあの攻撃力をメインに添えないのは……」という思いが残っていた。


(……ガルフ君の中で、イブキさんに対する評価はかなり高いようですね)


腹芸に長けているクリスティールは、ガルフの表情からある程度の心情を把握。

クリスティールもイブキに対して高い評価を持っているが、ガルフのイブキに対する評価の高さに少し疑問を持った。


「あれですね。ガルフ君は、イブキさんへの評価がかなり高いのですね」


「そ、そうですか? その……えっと…………なんと言いますか、勿論イブキさん自身に対しても凄い方だと思ってるんですけど、やっぱりこう……刀に対する強さが僕の頭に強く残っていて」


「…………あぁ~~~~~、はいはいはい。なるほどな」


「フィリップ、何がなるほどなのですの」


「んだよ、忘れたのかよミシェラ。前に、イシュドはシドウ先生に刀でぶった斬られただろ」


「……そういえば、その様なこともありましたわね」


シドウがイブキと共にフラベルト学園に来た直後、イシュドが興奮気味にシドウに本気の死合いを申し込み、そのまま実行されることとなった。


イシュドのメイン武器を戦斧ではあるものの、シドウとの死合いでは刀を使った。


相変わらずお前は本当に狂戦士なのかとツッコみたくなるほどの腕前でシドウと斬り結ぶも、やはり刀の腕前では剣豪の指導には届かず……文字通り、イシュドは真っ二つに斬り裂かれてしまった。


事前にイシュドがエリクサーという最強の回復アイテムを用意していたことで臨死体験で済んだものの、あのイシュドが死という確実な敗北を体験したことに変わりはない。


それもあって、ガルフは刀に……その刀を扱う者に対して、自然と敬意の様な感情を持つようになった。


つまり、とにかくイブキさんは凄い存在だと思っているガルフに対し、イシュドから申し込んできたこととはいえ……兄がやってしまった事を思い出し、ミシェラは赤く染まる顔を両手で抑えるのだった。

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