第324話 狂戦士の実体験
「よ~~~~し! 今日も殺す気で掛かって来い!!!!」
昼過ぎまで休息を楽しんだ後、それからは昨日までと同じく慣れない武器を使った模擬戦を繰り返し行う。
そして、毎回一組は怪物、イシュドと戦り合い……最後は腹パンを食らって沈んでいく。
「はぁ、はぁ……前から、思っていたが……イシュド、お前の体力は、どうなっているんだ?」
先程までイシュドと戦り合い、腹パンを食らって負けたヨセフ。
まだ完全に呼吸が整っていないまま、何故一向に息切れしないかについて尋ねた。
「そりゃお前らもやしっ子とは、鍛え方が違ぇからな!!!」
「もやしっ子? …………線の細さや太さで語るならば、パオロさんがお前より消耗が早いのはおかしくないか」
「むっ、それはそうだな。つっても、そこはあれだ。昔っから訓練中、動いて動いて動きまくってたからな」
全くてもって理解出来ない。
理解出来ないが、説明が省かれているのだろうと思い、どういった意図で動いて動いて動きまくるのかを考える。
「………………本当の意味で、体力がなくなるのが目的か?」
「おっ、良い線なんじゃねぇの。確かに、そういうのはちょっと考えてたな。後……もう限界だって思った時、ぶっちゃけ呼吸は出来るし、多少動くことは出来るだろ」
「それは……そうだな」
「ってことは、本当の意味で限界は来てない、限界まで動いてないってことになるだろ」
「むむ…………いや待て! それは本当の意味でと言うより、安全外でという意味では、ないのか?」
「あっはっは!!!!! 確かにそうとも言えるかもな」
なるほどと納得しかけたところで、ヨセフは気付いてしまった。
本当の意味で限界を越えてしまった場合、身体に何かしらの影響が出るのではないかと。
「けど、運が良ければ……良い意味で、爆発出来るかもしれねぇぜ」
「……爆発に、良いも悪いもあるのか?」
冷静にツッコむヨセフだが、イシュドは至って真面目であった。
「訓練で限界を越えられねぇ奴が、本番で越えられると思うか?」
「…………話が通る無茶を、よくそんなにぽんぽん思い付くな」
「なっはっは!!! そりゃ褒め言葉ってもんだぜ」
訓練で出来ない事が、何故本番で出来ると思う。
そんなイシュドの言葉を否定できる経験、知識はヨセフになく……寧ろ、あの時自分が限界を越えた力を引き出せていたらという後悔しか思い浮かばない。
「因みに、限界を越えて動こうとすれば、実際のところどうなるのだ?」
「さっき言った通り、自分の中で何かが爆発するか、筋肉の……筋って言うのか? あれがブチって切れる」
「…………」
「大丈夫っての。んなの、ポーションを飲めばどうとでもなるし、お前らは回復魔法を受けりゃ直ぐ治んだろ」
「それは効率が……いや、効率で考えては………………はぁーーーーーー、ふぅーーーーーーーーー…………」
頭が爆発しそうになったヨセフは、一度大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。
効率……それは確かに重要な事である。
非効率な鍛え方を続ければ、時間の無駄に繋がる。
だが、ただ効率的な鍛え方を求めるだけで、ヨセフが追い付きたい相手に追い付けるのか。
答えは……そう簡単に出せるものではないが、ヨセフ自身……今のままでは追い付ける自信がない。
(効率を考えたところで、私は……あいつに追い付けるのか? あの……エリヴェラに)
二次職で聖騎士の職に就いた男であり、同性代の怪物。
多くの者が本人の前で口には出さないが、何故同世代にあんな怪物がと……恨みや妬みを持っている。
しかし、ヨセフはそんな怪物を越えたい。
それでも、怪物は怪物で歩みを進めている。
そんな姿を見て……当たり前の事を繰り返して、追いつけるとは思えない。
「……限界を越えれば、更に先へ……いけるのか」
「それは、そいつの根性次第だな」
「最後の最後に、濁してくれるな」
「俺は指導者じゃねぇからな。自分が感じた事、思った事しか伝えられねぇよ。ただ、体の中の何かが爆発するにしろ、筋肉の筋がブチって千切れちまうにしろ……限界を越えたって感覚を知ってれば、色々と違うと思うぜ」
「なるほど……それは、理解出来るな…………では、ついでにもう一つぐらい、何か教えてもらおうか」
「おいおい、雑だな」
そう言いながらも、初対面と違って自分とよく話し、貪欲に聞いてくるヨセフが面白いのか、イシュドはカラっと笑っていた。
「つってもなぁ~~~~……そもそもな話、限界を越えずとも自分より強い相手を倒してぇってんなら、自分の中で相手を崩して渾身の一撃をぶち込むまでのパターンがあれば、準備して無茶出来るぜ」
「結局は無茶をするのだな」
「おいおい、土壇場で無茶をするのと、予めイメージしてた無茶をするのとじゃあ、全然違うぜ」
「実体験、ということか」
「そういうこった。どうよ、狂戦士の実体験だから、説得力があるだろ」
「……ふふ、そうだな」
イシュドの笑顔につられ、ヨセフも小さな笑みを零した。
「っし!!! そろそろ休憩は終わりだな。次はどのタッグだ!?」
中央に向かうイシュドの背を見て……もう一度小さな笑みを零し、ヨセフはパオロと共に次の対戦相手の元へ向かった。
「なぁ、時間的に全員帰ってるんじゃないっすか?」
「そうでもないんだよ。残って明日の授業内容を考えたり、資料作りしてると教師とか結構いるんだよ」
「はぁ~~~~~~……ちゃんと残業代って出てるんすか?」
「結果次第、ってところだよ」
結果次第、という部分の詳しいところは知らないため、安易に「やっぱ教師はクソブラックっすね~~~」と口に出さなかった。
「なるほど~~~。んで、学園のトップが俺に用、ねぇ~~~~~……クルト先生、ちなみに学園内で暴れたらどうなるんすか」
「……ないと思いたいけど、学園長が国際問題に発展するようなことを口にしたら、止めないかな~~~」
夕食を食べ終えた後、イシュドはクルトに呼び留められた。
その理由は……アンジェーロ学園の学園長が、イシュドに用があるというもの。
呼び出しに対し、シドウとアリンダはイシュドに付いて行こうとしたが、イシュドからガルフたちの傍に居てやってほしいと頼まれ、この場にはいなかった。
故に…………今、この場には言葉でイシュドの行動を制限できる者がいない。
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