第295話 反省会
「昨日、身を持って体験したから、解ってたけど……本当に、強いね」
ガルフとエリヴェラ。
この二人と同時に戦うのであれば、それなりに楽しめるだろうと判断したイシュド。
その為、魔力を全身に纏う強化だけを行い、身体強化のスキルなどは一切発動せずに戦っていた。
対してガルフは闘気を纏い、エリヴェラは聖光を纏っていた。
当然、闘気と聖光も己の武器に纏うことが可能であるため、攻撃力は非常に侮れない。
なので、ガルフの双剣、エリヴェラの長槍によって、イシュドの体に数か所だけではあるが切傷が刻まれた。
「なんて言うか…………まぁ、イシュドだからね」
「その言葉が、正解なんだろうね」
明確な答えが出てこないからこそ、イシュドだからというのが答えとなっていた。
「…………僕は、エリヴェラの動きを把握出来てたかな」
「そうだね。正直なところ、予想以上に動きやすかったよ。見たところ、ガルフ君たちの方には、魔法をメインに扱う人がいないみたいだけど……もしかして、普段は一緒に訓練を行ってるけど、今回の交流会には参加出来なかった同級生がいるのかな」
「いや、そういう人はいないよ。モンスターと戦う時とかは、先日レオナさんとローザさんのタッグと戦う時に、僕と組んでくれたフィリップが担当してるんだ」
「あぁ、彼が…………なるほど」
レオナとローザとのタッグ戦……エリヴェラは闘気という勿論自分自身を体得しておらず、周りにも体得してる者がいない力を扱うガルフに注目していたが、もう一人……後衛職ではないにもかかわらず、後衛職のローザと遠距離攻撃合戦を行っていたフィリップにも注目していた。
「確かに、あの技術は凄かった。とはいえ、彼は前衛職なんだよね。なのに、いつも後ろで戦ってるのかい?」
「相手がDランクのモンスターとかなら一人で倒すこともあるけど、複数のCランクモンスターに囲まれた時とかは、主に後方から斬撃波で上手くサポートしてくれる印象が強いかな」
「そうなんだね……」
ガルフの説明を受けて、エリヴェラの脳裏に浮かんだのは……レオナとローザとのタッグ戦の最後。
レオナを相手に、たった数秒の間とはいえ、試合という戦いであったとはいえ、見事制圧してみせたて姿。
(まだ全部は解ってないけど、全体的なステータスを視た場合、一番怖いのはあの人なのかな)
そう思いながらも、先程共にタッグでイシュドに挑んだガルフに対しても恐ろしさを感じていた。
「あの……闘気を応用した護身剛気、って言うんだっけ。あれは良かった。あれを利用してイシュド君の体勢を崩してくれたから、僕の槍が彼に掠った」
「何度も使えない手だけどね」
「いや、あのイシュド君を相手に、完璧な受け流しだったよ……凄いね、闘気というのは」
「ありがとう。聖騎士に褒められると、自信が付くよ」
お世辞でも嬉しい。
そう思いながら笑みを浮かべるガルフだが、エリヴェラは本気でイシュドの攻撃を完璧に受け流す要となった闘気の応用技、護身剛気を賞賛していた。
「本当に凄かったよ。僕が普段使ってる剣と盾を使っても、あそこまで上手くは受け流せない……驚嘆に値する防御力と見事な技術だった」
「あ、ありがとう」
ガルフからすれば、エリヴェラは少々嫉妬心を抱いてしまう相手。
だが、先日イシュドとバチバチに戦った姿、バーサーカーソウルを発動したイシュドが放った剣技、裂空を耐え切った姿……それらの光景から、ガルフはエリヴェラに対して確かな敬意を持っていた。
だからこそ、あまり褒められると照れてしまう。
「えっと、もう少し傷を増やす為には……僕は近距離でも、双剣から斬撃波を放てていれば、増やせたかな」
「そうだね……僕も、もう少し直接付くのではなく、遠距離の刺突と斬撃波を多用するべきだったかな」
もう少し遠距離攻撃を使うべきだったという反省点が出たが、二人とも徒手格闘がメインであるステラと同じく素手で戦うイシュドの姿を見ていた。
なんだそれはとツッコんでしまいたくなる技量を見せ付けられ、確かに近距離からでも斬撃波を放てればという反省点は出たものの、イシュドがその瞬間を見逃すかという疑問点が生まれてくる。
そもそもな話、一応クルトとシドウ、アリンダが見ているとはいえ、放った遠距離が躱されてしまった場合……他の場所で戦っているメンバーに当たるかもしれない。
「「…………」」
その可能性を考えられない二人ではない為、直ぐにやっぱり物理攻撃でどうにかしないとという考えに至るも……フィジカルモンスターを相手に、早々良い案は思い浮かばなかった。
「フィリップ……あなた、戦斧の扱いに、非常に慣れてません?」
「そっちこそ、本職のランサーかと思っちまったぜ」
「っ!!! あなたねぇ~~~~」
長槍を使うミシェラを相手に、フィリップは戦斧を使って応戦していた。
結果、そろそろ模擬戦が終わる実感になるといったタイミングで、フィリップが戦斧の刃をミシェラが持っていた腕に添えた。
頭部や首、心臓部ではなかったが、利き手である腕を切断されてしまえば、アウトも
同然。
ミシェラは素直に敗北を受け入れた。
「んな怒んなっての、冗談だろ」
「まったく…………それにしても、あなたの腕前を見てると、そろそろイシュドの様に二振りで振り回してもおかしくありませんわね」
「戦斧の二刀流か? 無理だって。俺とイシュドじゃあ、腕力が違うんだからよ」
ミシェラの言う通り、フィリップの戦斧の技量は使い始めて半年足らずとは思えない程伸びていた。
それでも二刀流は、主に先程戦斧を使用していたヨセフと同じ理由で現段階ではあまり現実的とは言えなかった。
「それを言えば、私も似た様なものですわね」
「だな。俺が二刀流で戦うなら、ミシェラが二槍流で戦ったら面白ぇな~~って思ったけど」
「何をいきなりぶっ飛んだ話をしますの…………まぁ、世の中にはそういったぶっ飛んだ方もいるようですけど」
イシュド……の話ではない。
ただ、レグラ家に仕える中に長物の二刀流で実際に戦う騎士がおり、そういった戦闘スタイルで戦う者はレグラ家以外にも数は多くないが、一応存在している。
「それで、私の槍はどうでしたの」
「前より細かい動きが面倒になってたな。後、弾いた時に即座に刃の無い方で対応してくるのが普通に厄介だった」
「そうですのね……あなたはあなたで、決めるべきところでパワーを上手く入れるようになりましたわね」
こうして、次の模擬戦まで珍しく二人は互いの良かったところを褒め合いながら、反省会を行った。
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