第259話 選択肢が増えた

「ありがとう、イシュド君。でも……本当にギリギリの戦いだったわ」


「条件は向こうも同じだけど、あれを知らなかったのはキチぃだろ。つか、俺はあんたのあぁいうところ見れて、割と嬉しかったけどな」


ヘッドバットから掌底、そして喉元を抑えながらの制圧。


華麗に氷刃を振るい、敵を仕留める普段のクリスティールからは想像出来ない野性味あふれる戦闘。


そういう戦いがあると知っているのと、実際行動に移せるかで大きな違いがある。


「そうですか? そう言われると、やはり最後まで諦めずに動いて良かったと思えますね」


「いやぁ~~~、正味超びっくりしたけどクリスティールパイセン、マジ判断速度が速かったっすね~~。あれ、元々追い詰められたら、あぁいう戦い方をしようって考えてたんすか」


フィリップから見ても、今回のクリスティールの戦いっぷりは感嘆させられた。


「いえ、あれは本当に咄嗟の判断でした。双剣を落されてしまった瞬間、負けてはならないという思いが湧き上がったと言いますか」


「ヒュ~~~♪ クリスティールパイセンにも、そういう負けず嫌いない一面があるんすね。そこもビックリっすわ」


イシュド、フィリップが意気揚々とクリスティールの戦いっぷりを褒める中……ミシェラはほんの少し、混乱していた。


(あれが……クリスティールお姉様の、戦い、方?)


エリヴェラという生徒と比べれば特異性は数段劣るものの、ステラも普通ではない強さ、戦闘スタイルを有している。


相手が強敵であれば、クリスティールであっても普段は取らない行動で、相手の虚を突く必要性がある。

それはミシェラも理解している。

理解しているからこそ、鬼竜・尖との戦いでは尻尾にしがみつき、そのまま根元から切断するという方法を取った。


だが、それでも目指すべきは華麗な双剣技で敵を倒すクリスティールの強さ。


そんなクリスティールが……聞いたことのない声で吼え、ヘッドバットという全くもって予想していなかった攻撃方法で現状を打破し、勝利を掴み取った。


何も悪い点など、一つもない。

それでも……何かがミシェラの中で引っ掛かった。


「彼女の戦い方に、ビックリしたかい?」


「シドウ先生…………はい。クリスティールお姉様があの様に吼え、あぁいった戦い方をするのを、初めて見ました」


「そうか。それで、理想との違いに混乱していた、ってところかな」


「っ……はい」


この感情が良くないことだと、なんとなく解っているからこそ、ミシェラの声は非常に小さくなっていた。


「……俺が思うに、クリスティールは殻を破ろうとしたんだと思う」


「殻を破る、ですか?」


「あぁ、そうだ。これまで彼女は同じ学生はモンスターが相手でも華麗に戦ってきたのだろう。ただ……世の中、そういった戦い方だけで勝てるほど、甘くない」


「…………」


実際にエリヴェラやステラの強さを生で観たからこそ、シドウが語る内容がどれだけ正しいのか解かる。


「いざという時に、あぁいった戦い方が出来るのと出来ないとでは、勝率が大きく

変わってくる……まぁ、今回の試合と実戦ではまた色々と違うけどな」


「……殻を破った、という事は、あれが本来の……クリスティールお姉様の戦い方、なのですの?」


「ん~~~~……それは違うかな。ただ、彼女の中で選択肢が広がった。騎士になり、仲間を……人々を守るための、選択肢が」


「仲間を、人々を…………っ」


シドウの言葉を聞き、ミシェラはある事を思い出した。

自分やアドレアス、クリスティールやディムナ、ダスティンたちはそれぞれの憧れや目標、使命などあれど……第一に、人々を守るために騎士になるのだと。


「俺は騎士ではないからあれだが、本当に勝ちたいと願う時、人はだからこそ冷静になるか、それとも野性に身を任せて戦うべきか……それは人それぞれだ」


「そう、なのです」


「多分な。それに……ミシェラの場合は、イシュドをぶった斬るという目標があるのだろう」


「むっ……そうですわね」


「であれば、華麗さを軸に戦うのは良いかもしれないが、本当にそれだけで勝てると思うか?」


「………………眼を背けてはいけない現実、ですわね」


「ふふ、そうだろ」


今のところ……イシュドはバイロンやシドウとしか模擬戦を行っておらず、通常個体よりも強いCランクやBランクモンスターとあまり戦闘出来ておらず、あまりレベルも上がっていない。


その為、現状の伸び率はミシェラの方が上ではある。


ミシェラが前に進む間に、イシュドも同じくらいの速さで前に進んでいるという、メリーゴーランドの様に一生追い付けないという訳ではない。


ただ……イシュドは学園を卒業すれば、騎士として就職することはなく、実家に帰る。

それ以降、絶対に会えない訳ではない。

それでも、本気でイシュドに追い付きたい、そしてぶった斬りたいのであれば……学園を卒業するまでに、絶対に三次職に転職しなければならない。


そこまで前に進んで、ようやく足元が見えるという話になる。


(まずは、レベルを……そして、あの男から教えられたことを、自分なりに昇華しませんと)


残念な事に、学園卒業までに三次職に転職出来たとしても、どうしても就いてきた卒業によって差が生まれてしまう。


だからこそ、気持ちで負けてはならない。


「クリスティールお姉様。見事な戦い……勝利への執念でした」


シドウの助言もあり、これまで見たことがなかったクリスティールの戦う姿勢を飲み込め……面と向かって賞賛の言葉を送った。


「ふふ。ありがとう、ミシェラ。でも、カッコ悪いところを見せてしまいましたね」


「い、いえ。そんな事ありませんわ!!!」


ミシェラだけではなく、双剣を落されてしまってからのクリスティールの行動は、イシュドたちも驚かされた。


ただ、最初のヘッドバットはともかく、その後の顎下から決めた掌底、そして喉元を掴みながらの制圧。


それらの攻撃は寧ろ流れるように繋がっており、普段のミシェラからは見えない力強さを感じさせられた。


「私も、まだまだだと思い知らされました……ですので、これからも共に……双剣士として、精進していきましょう」


「っ、はい!!!!!」


普段の声量に戻り、嬉しそうな顔で応えるミシェラ。


そして……クリスティールの戦いが終わったということもあり、ミシェラも含めてまだ戦ってない組から闘争心が零れだした(フィリップを除いて)。

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