第230話 何故要領が良い?
「フィリップ」
「ん~~? なんだ」
「なんかボーっとしてっけど、なんか考え事でもしてんのか?」
フィリップがボケーとすることは珍しくない。
ただ、何かを考えながらボーっとするのは珍しかった。
フィリップにも考え事、悩み事があるのかと失礼なことを口走らなかったが、それでもイシュドは珍しい事もあるものだなと思った。
「……いや、なんも考えてねぇよ。依頼から帰ってきたばっかで、まだちょっと疲れが残っててな」
「そうか。んじゃ、明日明後日は休みだし、がっつり寝とけ」
「そうさせてもらうぜ」
普段は起きれば直ぐに朝食を食べ、軽く準備運動を行った後から訓練を始めているのだが……フィリップはイシュドに答えた通り、その日は普段の朝食時間に起きず、爆睡に爆睡を重ねた。
「あぁ~~~~~~~……くっそ、寝たなぁ」
体の節々がやや痛いと感じ、寝過ぎも毒なんだな~と思いつつも、それでも長時間睡眠は絶対にしないようにしようとは思わなかった。
「とりあえず飯食うか」
学生服に着替え、食堂へ向かうと、丁度昼食を食べに来たイシュドたちと遭遇。
「おぅ、ようやく起きたかフィリップ」
「よ~~く寝たぜ。やっぱ睡眠は最高だな」
「フィリップ、あなたさすがに寝過ぎですわよ」
ミシェラもベッドの暖かさによる心地良さを知っているため、うっかり二度寝したくなる気持ちなどは理解出来る。
しかし……現在、時刻は丁度十二時。
先日、ガルフたちとイシュドたち、二組とも依頼を達成した祝いに宴会を楽しんだが、それでも十時前には学園に戻ってきている。
全員ベッドに寝転がってから数分以内に夢の世界へ旅立ったことを考えれば、フィリップは半日以上眠り続けていたことになる。
「良いじゃねぇか~~。昨日依頼から帰って来たばっかりなんだからよ~」
「同じく帰って来たばかりの三人は普通に起きてましたわよ」
「俺はガルフたちみたいに優等生じゃねぇからな~~~」
あっはっは! と笑いながら選んだ料理を受け取るフィリップに対し、鋭い視線を向けるミシェラ。
(相変わらずと言うか……自然に煽ってしまってるね)
(……天性の煽り屋、なのでしょうか)
何故ミシェラがフィリップに対して鋭い視線を向けているのか、アドレアスとルドラが直ぐに気付いた。
先日、両者疲れが残っている状態とはいえ、ミシェラから試合を仕掛け……結果として不意を突かれた内容ではあるものの、フィリップに敗れた。
そんなフィリップが「俺は優等生じゃねぇからな~~」と言われてしまえば、では優等生に負けた私は何なのだと……ぶつけようのない怒りが湧き上がるのも無理はない。
とはいえ、それを知ったところで……怒りが湧き上がる理由を理解したとしても、直ぐに掛ける言葉が出てくるわけではない。
ただ淑女をエスコートする際の言葉であればまだしも、同じ戦闘者として……生半可な慰めの言葉は、激情を逆撫でするだけだと解っている。
「確かに、フィリップは不良ってスタイルが似合うね」
「おっ、解ってるじゃん」
「けど、案外そういう連中の方が要領が良かったりするから、あれなんだよね~~~」
幼い頃からフレアの護衛として育てられてきたヘレナだが、それなりに同じ貴族令嬢や未来の騎士候補たちと交流がある。
そんな知人友人たちの中に、フィリップとやや似た者がいた。
「イシュドって、そこら辺なんでかって解ったりしないの?」
「……ヘレナ、お前まで俺をなんだと思ってるんだよ」
「私たちには思い付かない、奇想天外な事を考えられる狂戦士」
「はぁ~~、褒め言葉として受け取っといてやるよ。つっても、さすがにそんな理屈がクソ無さ過ぎる事の理由なんて思いつかねぇけど…………フィリップが不良つっても、他人に実害を与えるようなタイプの不良じゃねぇからなんじゃねぇの?」
「イシュド、ゲルギオス公爵様はフィリップのせいで多少の実害は受けてる筈ですよわよ」
「そりゃあ…………ノーカンで頼むわ」
フィリップが明後日の方向を向くだけで否定しないため、イシュドとしても「いやいや、そんな事ねぇだろ」とは言えなかった。
「とりま、入学初日にガルフを殴って蹴ってた連中みたいに、物理的誰かを傷付けたりはしてねぇだろ」
「それはそうですわね」
「あぁいうクソ不良じゃなくて、フィリップはただ色んな事に対して面倒、やりたくねぇって思って、本当にやらないタイプの不良ってところだ」
「イシュドも良く解ってるねぇ~~」
「そりゃダチだからな」
互いに悪い笑みを浮かべるフィリップとイシュド。
そして、話の本題に入る。
「けど、フィリップはなんだかんだ、スペックが高いんだろうな。生きてりゃあ、やりたくねけど、避けては通れねぇこととかあんだろ。やりたくねぇからこそ、最小限の労力でどうにかしようって無意識に考えるんだろうな」
めんどくさいと思うからこそ、最小限の労力でどうにかしようとする。
多くの者たちからすれば、それが出来れば苦労しないとツッコみたい。
だが、イシュドが説明した通り、フィリップには何だかんだで高いスペックがある。
それが要領が良い秘訣……なのかもしれないというのが、イシュドの考察だった。
(前世にそんな同級生がいた気がするんだよなぁ…………うん、クソほど嫉妬した記憶があるな)
前世の記憶を思い出し、そんな事もあったなと懐かしみ、不意に笑みが零した。
「最小限の労力で、か…………先日のフィリップは、あれ以上時間を掛けるのは無意味だと判断したから、リスクがあっても不意を突けるあの攻撃方法を選んだってことかな」
「かもしれねぇな」
「んな事考えてたっけ?」
「フィリップが意識してなくても、頭が勝手に判断したんだろ」
無意識に最良の判断が出来る頭を持っている……そのことにミシェラは僅かな嫉妬を覚えた。
(ッ…………ふぅーーーーーー。焦っては、いけませんわ。まだ、私にはそこに至るまでの、経験が足りない。それだけですわ)
言葉にして、先日自分を倒した男が持っていて、自分が持っていない内容を説明されるも、ミシェラの目に落ち込み……ネガティブな色はなかった。
逆に、フィリップにネガティブな色こそ浮かんでいないが、変わらず会話に参加していない時はボーっとしながら何かを考えていた。
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