第208話 強さの象徴

「それじゃあ、行ってくるよ」


「おう。気張っていけよガルフ、フィリップ、イブキ、アドレアス」


「うん、しっかり結果を残しにいくよ」


「死なねぇ程度に頑張ってくるわ」


「えぇ、気張って斬ってきます」


「同じく、結果を残してくるよ」


早朝、ガルフたちと別れたイシュド。

同時に、シドウもイシュドからの頼み、学園が許可を出しているということもあり、こっそり出発した。


「んじゃ、戻るか」


「……はぁ~~~~。心配ですわね」


「何が?」


「アドレアス様を除いた三人は、あなたと共に旅をすることに慣れてしまっている。そこが一番心配ですわ」


常日頃から訓練を重ねており、ここ最近では仮想ミノタウロスとしてイシュドと試合を行い……連携度は確実に上がっていた。


だが、イシュド抜きでの旅はこれが初。


多少は本来の依頼を受ける過程を知っているミシェラからすれば、これまえ自分たちはあまりにも恵まれていたと断言出来る。


「別に目的地までアホほど離れてるわけじゃねぇんだし、大丈夫だろ」


「…………確かに、もう私たちがあれこれ言っても仕方ないですわね」


イシュドたちは学園に戻り、いつも通り授業を受ける。

ただし……同じクラスに、ガルフもイブキもいない。


休み時間になっても、下世話な話で盛り上がれるフィリップもいない。

イシュドにとって……非常に退屈な時間であった。


そして戦闘訓練の時間、普段であればガルフとの試合などがメインだったが、今日はそのガルフがいない。


「ふわぁ~~~~~~」


担任であるバイロンが相手をしてくれるのであれば、それはそれで悪くない。

手が空いている戦闘職の教師が相手となるのも、イシュドからすれば丁度良い味変。


と思っていたが……授業は授業。


そして戦闘力に関しては既に生徒の域を飛び出しているイシュド。


「……今度飯奢ってくださいよ~~」


「私の財布を考慮するのであれば、考えよう」


結果、イシュドはフォーマンセルの同級生たちと連戦することになった。


「ほらほら~~、殺気が足りねぇぞ殺気が~~~。んな鈍い攻撃が当たると思うな

~~~」


「「「「ッ!!!!!!!」」」」


一応授業であるため、瞬殺するような真似はしない。

ただ、イシュドは模擬戦を終える度に適当に武器を変えて戦っていた。


固定の武器を使わないなど、嘗めているのか…………既に、そのような不満を口にする者は、イシュドと同じクラスの生徒にはいなかった。


まず、身体能力だけで自分たちをはるかに上回る力を持っている。

そして普段の戦闘訓練の試合でも、ガルフを相手に様々な武器を使用して戦っている。


(まさに、ミシェラ嬢の、言う通りという、ことか!!!)


クラスメートたちの耳に、何度か入ったことがある。


異常な狂戦士。


それは、ミシェラがイシュドという人間を表すときに使う言葉だった。


「ごふっ!!??」


「はい、終わり。おら、さっさと次用意しろ」


変わらず横柄な態度。

不遜、傲慢とも言える過度な自信。


しかし……仮にイシュドを除く全員で勝負を挑んだとしても、勝てるイメージが全く湧かない。



「今日はここまでだな」


そして授業終了五分前、ようやく一対四の連戦が終了。

多くの生徒たちが地面に腰を下ろし、息絶え絶えの中、イシュドだけは変わらずいつも通り涼しげな表情を浮かべていた。


「どうだった」


「どうだったって言われても…………頑張ってるんじゃね? ぐらいしか言えないっすけど」


「ふむ……そうか」


「俺とある程度戦り合いてぇなら、さっさと三次職に転職してくれって感じっすけど」


三次職に転職すれば、あのイシュド・レグラと渡り合える様になる。

それは……クラスメートたちにとって、ある種の道を教えてもらった感覚に近かった。


だが、直ぐにバイロンがイシュドに注意を飛ばす。


「イシュド、あまり非現実的なことを口にするな。こいつらが全員死んだらどうする」


過去に、学生の間に三次職にに転職した者は……一応記録として残っている。


だが、長い歴史を振り返っても、その人数は両手の指があれば十分足りるほど。

つまり……まず無理だという話。


「自己責任としか言えなくないっすか?」


「この学園において、強さの象徴とも言えるお前がそういった発言をすれば、他の生徒たちが鵜呑みにしてしまうだろ」


これまで、フラベルト学園のトップと言えば、現生徒会長のクリスティールだった。


しかし、今でも生徒会長は変わらずクリスティールだが……物理的な強さで言えば、間違いなくイシュド・レグラがトップであった。


相変わらず交流する生徒は限られており、久しぶりに授業の成り行きとはいえクラスメートと交流したと思えば……変わらず態度は不遜で傲慢。

それでも……激闘祭のエキシビションマッチで魅せたように、魔力や強化系スキルを使わずに自分たちを圧倒。


そんな王者、帝王といった言葉に相応しい実力を有しているイシュドが「この道に進めば強くなれるんじゃね? 俺とある程度戦えるようになるんじゃね?」と言われれば、冷静さを欠いた判断をしてしまってもおかしくない。


「ふ~~~ん? つっても、どっちにしろ卒業した後の戦場で死にたくなかったら、学生の間にそれぐらい貯金を持ってたら、生き残れる可能性があるじゃないっすか?」


「…………言いたい事は解る。ただ、それまでに死んでしまったら元も子もないだろ」


「あぁ…………まっ、それもそうっすね」


クラスメートは自分ではない。

ましてや、レグラ家の人間でもない。


自分の考えを理解出来ても、納得して実行出来るわけがなかったと思い、それ以上は口を開こうとはしなかった。


「イシュド」


「?」


「どうすれば、お前の言う通りにやれる」


「……三次職へ転職か?」


「それも含めてだ」


一人の生徒が、疲労が溜まっている体に鞭を打って立ち上がり、イシュドの前に向かい……どうすれば良いのかを尋ねた。


「つっても、今しがたバイロン先生に注意されたばっかだからなぁ………………けど、あれだな。お前にその気があんなら、戦闘で勝つことと死なねぇこと。それを考えてみろ」


「勝つことと、死なないことを……」


「お前らは騎士候補、魔術師候補であって、まだ騎士でも魔術師でもねぇ。そんなら、別にまだ拘る必要はねぇだろってのが俺の考えだ。これがラストだ。後は自分で考えな」


親族でも、友人でもない。

お前らに教えるのはここまでだ。


そんなイシュドの言葉が聞こえてきた。


(イシュドが、クラスメートにアドバイスをするとは……何か心境の変化が………………いや、ただの気まぐれか)


バイロンの予想通り、本当に気まぐれも気まぐれ。

だが……その気まぐれで、何人かの意識が変わった。

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