第204話 仮想、ミノタウロス
「へいへいへい!!!!!!! どうしたどうした!!?? そんなもんか!!!! もっと殺す気で掛かって来いやッ!!!!!!!!」
「「「ッ!!!!!!」」」
「無茶言うぜ~~~」
訓練場で大斧を片手で持ち、無傷の状態で高らかにガルフたちを挑発するイシュド。
対して、闘争心を燃え滾らせるガルフ、イブキ、アドレアス。
そしてフィリップは……イシュドの挑発にあてられることなく、冷静に後方支援という自分の役割を果たす。
「……ミシェラ、彼の……得意武器は、なんなの?」
「イシュドが本気で戦う時は戦斧……を使うことが殆どですわ、ヘレナ」
「そ、そうか。戦斧扱っているのであれば、大斧もそれなりに…………いやしかし……」
(ヘレナ。その気持ち、良く解りますわ)
イシュドは普段の訓練時、特定の武器のみしか使用しないのではなく、大斧や戦斧だけではなく、ロングソードや大剣に双剣、ガルフたちが望めば細剣や短剣も使用している。
「あの狂戦士は、普通の狂戦士ではない。そう捉えるしかありませんわ」
今現在、イシュドはガルフたちから大斧を使い、ミノタウロスの様な戦い方をしてほしいと頼まれ、実演していた。
過去に何度もミノタウロスと戦ったことがあるため、どうしても体のサイズだけはどうしようも出来ないが、身体能力や戦い方は真似ることが出来る。
「ぅおおおおおあああああああああああッ!!!!!」
大斧をぶん投げたかと思うと、四つ足歩行の体勢になり、そのまま突貫。
ミノタウロスはその堅い角を使い、突進からのかち上げで標的を弾き飛ばす。
もしくはそのまま角で貫き、標的と貫き殺す。
当然ながら、イシュドに角なんてない。
ないのだが……魔力でそれらしい角を頭から生やし、魔力の質を変化させてミノタウロスの角を真似た。
(ぅおい、ぅおい!!!! なんでそんな四足歩行に慣れてんの!!!!????)
標的として狙われたのはフィリップではないものの、イシュドの突進姿に驚きを隠せず、それはイブキやアドレアスも同じだった。
「ッ!!!! 破ッ!!!!!!!!!!!!!」
「っ!!!! 正、解!!!!!!!!」
角で勝ちあげられる直前に、ロックオンされていたガルフはタイミングをズラし、超低姿勢になりながらほんの少し下がり……空いた右手で掌底をしたから叩き込んだ。
その選択肢に対し、正解だと口にしながら、ミノタウロスらしからぬ動きでイブキとアドレスの追撃を躱し、先程ぶん投げた大斧を掴んで距離を取った。
「ぬおらッ!!!!!!!」
そして今度は大斧から特大範囲の斬撃刃を放つ。
(っ!!?? おいおい、範囲が広すぎねぇか? 実戦だったら……結構面倒なことになってるかもな)
四人とも無事躱すことに成功したが、ミノタウロスが生息している場所は森などが多く……先程の特大斬撃刃を放たれた場合、今の様に躱すことが出来たとしても、周囲の木々が一斉に切り倒されてしまう。
そうなると、ほんの一瞬ではあるが、視界が悪くなってしまう。
(マジのミノタウロスがどこまで考えてるのかは知らねぇけど、大雑把な攻撃はやっぱりそれはそれで厄介だな、クソ)
後衛、戦況を見渡す担当となったフィリップは面倒だ面倒だと口にしながらも、必死に考えながら仮想ミノタウロス戦を最後まで戦い抜いた。
「「「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」」」」」
「はっはっは!!!!! 良いじゃん良いじゃん。連携も前より様になってきてるぜ」
役十分ほど仮想ミノタウロス戦を行い、結果は仮想ミノタウロスを担当したイシュドの勝利に終わりはしたものの、四人はイシュドの予想以上に良い動きを見せた。
「はぁ、はぁ…………だーーーーーーー、超疲れた!! つかさ~~、イシュドぉ。ミノタウロスって、こんなに戦い続けられるもんなのか?」
四人よりも圧倒的なスタミナを持つイシュド。
その点に関しては、ミノタウロスがモンスターである事を考えれば、ある程度納得出来る。
しかし……ミノタウロスは接近戦タイプのモンスターであり、稀に属性魔法のスキルを会得している個体もいるが、そういった個体であっても魔力総量はそこまで多くない。
「あぁ~~~~……どうだろうな。そこは良く解らねぇや」
(……これ、魔力量に関しては絶対にイシュドの計算違いだろうな)
異常な狂戦士であるイシュドは、魔力量も狂戦士にしては異常と呼べる部類であった。
その魔力量はミノタウロスよりも多く、ミノタウロスの上位種と比べてもイシュドの方が優れた魔力量を有している。
「実際にミノタウロスと遭遇したら、気を付けるのはイシュドの時ととのリーチの差異だな」
「どのようにして懐に潜り込むかが重要ですね」
「……僕は攻めると見せかけて防御したり、あまりミノタウロスを動かさないイメージで対応した方が良いかな」
「そうだなぁ……その方が、ありがてぇかもな」
仮想ミノタウロスを想定して四人の相手をしたのはイシュドであり、そこら辺のミノタウロスと比べれば、イシュドの方が強い。
ただし、これまで情報を集めた限り、突進力の強さなどはイシュドが実演したものに近いと予想しているフィリップ。
(ぶっちゃけ、ミノタウロスが思いっきり動いたり突進されたりしたら、俺のちまちました攻撃だと……上手く目に当たったりしなきゃ、弾返されて意味がなさそうだからな~~~)
器用なフィリップではあるが、ガルフたちの中でも火力は低い方。
特別な遠距離攻撃などはなく、ミノタウロスの突進に対する有効手段は持っていなかった。
「随分悩んでるようだけど、ミノタウロスはこの狂戦士みたいに、臨機応変に空中で器用に動いたりしない筈よ」
「そいつはそうだな。もうちょい動きが大雑把って考えりゃあ…………ある程度余裕をもって臨めるか」
「はっはっは!!! 偶には良いアドバイスするじゃねぇか、デカパイ」
「………………イシュド、まだ体力は有り余ってるわよね。私と戦りなさい」
ミシェラ、デカパイという呼び方を甘んじて受け入れている訳ではない。
慣れてしまってはいるが、他国の王女がいる場所では……名前で呼ぶのではないかと、微かな希望を抱いていた。
しかし、やはりイシュドはイシュド。ザ・ノット紳士。
相も変わらずデカパイと呼び続け……ついに、溜まった苛立ちが大噴火。
「おぅ、良いぜ。どの武器が良い。今日は機嫌が良いから選ばせてやるよ」
ミシェラが選ぶのは……当然、双剣。
こうしてイシュドとミシェラのタイマン勝負が始まり、ミシェラは本気で……文字通り殺す気で刃を振るった。
ただ、結果はいつも通りイシュドの圧勝。
ミシェラは切傷一つ付けられることが出来なかったものの……制限をかけていたとはいえ、イシュドは普段の試合以上に集中力を高めており、試合終了後は満足気な笑みを浮かべていた。
これがガルフやイブキであれば、自身の成長を感じるところだが……今日こそはとデカパイ呼びを訂正させるために挑んだミシェラにとって、負けは文字通り負けだった。
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