第195話 褒め言葉ではない

「決着、と思ってよろしいでしょうか」


「ッ…………えぇ、私の負けです」


ガルフがヘッドバットに対して正拳突きを叩き込んでいる反対側で、ルドラはイブキに細剣技のスキル技、三連突きを放っていた。


超高速の連続突きをイブキはほぼ反射で回避することに成功。


そして三連突きを放つ際、最後の三連目を放てば……確実に引くという動作を見逃さず、同時に前へと詰めた。


「……あの男と共に行動するようになり、得た力なのですか」


「そうですね。イシュドと共に行動するようになって、本当に良い刺激を受け続けています」


距離を詰められた後、細剣で対処する前に刃を首元に添えられてしまい……ルドラは降参を宣言するしかなかった。


「あなた達は……初対面の流れもあってイシュドに対して良い印象を抱いていないようですが、多少関わればあの人の基準価値が解ると思います」


「強さ、ですか」


「その通りです。因みにですが、彼は私の兄……シドウ・アカツキを見た時、一瞬で目の前まで移動して本気の殺し合いをしてほしいと申し込みました」


「…………は?」


変な声が零れた自覚はある。

だが、今のルドラにはそれを気にする余裕が全くなかった。


「イシュドは、それだけ強さに対して強い興味を抱いています」


「……まさに、バーサーカーということですね」


観戦場所からこちらへ向かってくる異常な狂戦士を見て、体を震わせずにはいられず……よく数分前の自分はあの男に対して戦意や怒気を向けられたなと、ある意味感心するのだった。



「いやぁ~~~、ガルフ。マジでナイス正拳突きだったぜ。もしかして、最近結構練習してたか?」


「実は、少しね。ほら……イシュドが鬼竜・尖と戦ってた時に最後に放った一撃……鬼竜・尖も含めてカッコいいって感じてさ」


「なっはっは!!!! 嬉しいこと言ってくれんじゃねぇかガルフ~~~~。ほら、とりあえずポーション飲んじまえ」


「ありがとう」


ヘレナが咄嗟に放ったヘッドバットに競り勝ったとはいえ、頭蓋骨の中で一番固い前頭骨に叩き込んだ正拳も並ではないダメージを負っていた。


「うげ~~~。ガルフ~~、お前それ痛くなかったのか?」


「そうだね。ほら、戦いに集中してたら、痛みとか気にならなくなる時ってあるでしょ。後数分も経てば危なかったと思うけど」


見るからにボキっとバキッと折れている手に痛みを感じないのは、間違いなくアドレナリンが大量に放出されていたからである。


「…………やはりガルフ、あなたイシュドに似てきましたわね」


頭という硬い部分を利用したヘッドバットに対し、正拳突きというパンチを選べば……少なからず、反動が帰ってくることは容易に想像出来る。


しかし、離れた場所からミシェラから見て……一切の躊躇を感じなかった。


「え、そ……そうかな。へへ」


対して、イシュドに似てきたと言われたガルフは少々照れながらも笑顔を浮かべていた。

ミシェラにとっては、それは良くないのではという意見だったのだが、ガルフからすればそれはガッツリ褒め言葉だった。


「…………まぁ、良いですわ。それで、イシュド。ガルフとイブキがあの二人に勝利したわけですが、どうするつもりかしら?」


判決……そう、判決を受ける為にフレアたち三人は大人しくイシュドたちの前に来ていた。


ガルフとイブキに敗れたルドラ、ヘレナはフレアに対する申し訳ないという気持ちが思いっきり零れていた。

そしてヘレナも……表面上は冷静さを保ってはいるが、内心は汗と涙と鼻水ダラダラであった。


「ん~~~~~、そうだなぁ…………」


イシュドが思った通り、ルドラとヘレナの実力は高等部一年のそれではなかった。


膝の抜きと持ち前の身のこなしで序盤から中盤にかけては突きを躱されていたルドラだが、中盤を過ぎたあたりからはイブキの動きを捉え始めていた。


結果としてイブキとガルフが終始優勢だったように見えなくはないが、決してその様なことはなかった。


(こいつら、学生にしちゃあ、珍しく結構殺してきてるんだよなぁ~~~)


何よりイシュドが気に入っていたのは、二人の殺し合いを知っている動き。

二人にとって大事な試合であったのは間違いないが、それでも自分たちが留学生であるという立場を弁えているからこそ……殺してでもという二人の奥底に眠る本気で吼える姿は見れなかった。


「…………さっきも言ったが、俺は弱い奴には興味ねぇ。だが、そっちの二人は強さを示した。だから、こいつらの訓練相手になってくれんなら、とりあえず学園内で同行すんのは拒まねぇ」


予想に反する結果に、ルドラとヘレナの表情が一転。

心の内のフレアも汗に涙に鼻水が直ぐに止まった。


「ただ、訓練相手っつ~のはほぼ毎日だ。そこんとこ忘れんなよ」


「あ、ありがとうございます!!!!」


「頭を下げんなら、俺じゃなくてあんたの為に戦ったそっちの二人に頭を下げろ」


そう言って、訓練場から退出するイシュド。


「意外でしたわね」


「実際、予想通り悪くなかったからな。でも、どうせならもうちょい我を見せてほしかったなぁ~~~。開始前に、腕や脚の一本吹っ飛んでも大丈夫だぜって伝えておくべきだったか?」


「「ッ!!!」」


危な過ぎる言葉に、ブルっと体を震わせるガルフとイブキ。


そういった発言をするという事は、自前で四肢が斬り飛ぼうが爆散しようが、なんとか出来るポーションを持っていると予想出来る。


予想は出来るが……恐ろしい考えであることに変わりはない。


「んで、フィリップから見てあの二人はどうだったよ」


「どうだったつわれてもなぁ……二人が勝てたのはイシュドと戦ってたり、この前戦った鬼竜・尖との戦闘経験が大きいからじゃねぇの? 二人的にもモチベーションが良い感じに高まってたみてぇだしよ。後…………超個人的な感想だけどよ、あの二人結構殺ってきてるよな」


「おっ、フィリップもそう思ったか。俺としては、まだ高等部の一年って考えると、魅力に感じる部分だったんだよな~~」


常人なら「何故そこに魅力を感じる?」と首を捻るところだが、イシュドのことをある程度解ってきているガルフたちがそこにツッコむことはなかった。

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