第193話 良いチャンス

「フンッ!!!!」


「っ!! ぬぅああああああッ!!!!!」


大剣使いのヘレナと長剣使いのガルフのマッチアップ。


大剣士と闘剣士である二人では、二次職が大剣士であるヘレナの方が高いパワーを持つも……ガルフにはヘレナにない闘気という強力な武器がある。


(この男、決して線は細くないけど、それでも子の体で……しかも、ロングソードを使ってるのに、私にパワー負け、してない!!!)


ガルフとしてはそう簡単に切り札である闘気を使用したくなかったが、ヘレナは最初からガルフの事を格下とは見ていなかったこともあり、序盤から強化系スキルを発動し……魔力も纏いながら攻めていた。


(当たり前だけど、イシュドよりは、パワーはない。ただ……パワーだけなら、ダスティン先輩に迫る、かな!?)


現状、腕力勝負では上を取るのは難しい。

何度か斬り結ぶ中でそれは認めざるを得なかった……ただ、だからといってガルフは技術で対抗しようとは思わなかった。


「シッ!!! ヌァアアアア゛ア゛ッ!!!!」


「っ! くっ!? チッ!!!」


パワープレイが得意な相手に、技術で対抗することは、決して卑怯なことでも逃げでもない。

それはガルフも解っている。


ただ……先日、ガルフは理不尽へ挑戦し、結果として敗北してしまった。


その理不尽と比べれば、目の前の留学生など……全くもって理を無視した存在ではない。

友の隣に並び立つと決めたのであれば、目の前の丁度良い強敵ぐらい、真正面から倒せなければならない。


「随分と、余裕ねッ!!!!!」


「そんな事は、ありませんッ!!!!!」


真正面からの攻撃は、大剣という面が広い武器を持つヘレナにとっては、かなり対処しやすい。

ガルフの一撃は大剣士に勝るスピードも利用した斬撃ばかりであるため、ある程度読みが通用する。


だが、そんな攻めが数十秒も続き、ガルフのスピードをある程度把握したヘレナは、ガルフの攻め方に僅かな怒りを感じた。


パワー勝負が競っている状態ならば、勝っているスピードを活かす……もしくは技術で勝負するのが妥当な戦力。

にもかかわらず、ガルフは勝っているスピードを単純な攻撃力に変化し、フェイントや受け流しといった技術を使わずに真正面から攻め続けている。


(これ、闘気よね!!?? あのレグラ家の人間の、関係者なのだから、普通ではないと思ってたけど……それでも、随分嘗めたこと、してくれるじゃない!!!!)


本来であれば、真正面から斬り合いは望むところ……寧ろ大好物な戦いだが、今のヘレナは……主であるフレアがあのレグラ家の人間であるイシュドと関わりを持てるか否かという重大な責任を背負っている。


冷静に考えれば、ガルフにそういった気がないのは直ぐに解る。


しかし、今のヘレナには敢えて真正面から自分を倒そうとするガルフに少なからず苛立っていた。


「ハァアアアアッ!!!!」


「ぐっ!!!!」


それでも……彼女は王女の護衛として選ばれた未来の騎士候補生。

本来の目的を忘れることはなく、一度ガルフが絶対に防御という選択肢しか取れないタイミングでスイングをぶちかまして吹っ飛ばし……一定の距離を取った。


そこで大剣技の技……を使うことはなく、どっしりと構えを取って無理には攻めない。


(そっちがそのつもりなら、私も私なりの戦り方をするまで)


スピードでは劣っていると自覚しているからこそ、無理に攻めず……ただ大剣を使った攻撃のみで仕留めると決めた。


「どうした、もうスタミナ切れかい?」


「冗談を……まだまだこれからでしょう!!!」


実際に戦り合うことで、いかに闘気という武器が恐ろしいか身に染みてた体感。

だが、闘気というエネルギーが無尽蔵ではない事は情報として知っている。


有限であれば……なくなるまで戦い続ければ、いつかガス欠が起き、ガクッと身体能力が下がる。

勿論ノーリスクではなく、闘気と身体強化のスキルを使用しているガルフの斬撃を耐えるには、ヘレナも魔力と身体強化のスキルを使用しなければならない。


先にヘレナの魔力が限界を迎える可能性は十分にある。


「ッ!!!!!!! その、程度かしらッ!!!!!!!」


「ぬッ!!!!???? そちら、こそ!!! その程度の圧で、僕が圧され潰されるとでも!!!!!!」


ただの脳筋大剣ブンブン丸ではなく、ジャストタイミングで大斬で攻守の反転を試みる。

闘気を纏っていれど、内部に響き渡る衝撃までは対処出来ない。


とはいえ、それで怯むガルフではない。


これまで何度もヘレナが放つ圧以上のプレッシャーと向かい合ってきていた。


(正面から、打ち勝てッ!!!!!!!!!)


そこは俺の土俵だと吼えんばかりの表情で勇猛果敢に斬撃を叩きつけていく。




「……もしかしなくても、ガルフ…………あなたに似てきてたのではなくて?」


「ん~~~……俺に似てきたのかは知らんけど、良い攻めじゃねぇか」


「果敢に攻めてはいますけど、ガルフのスピードや技術力を考えれば、もっと適した攻め方あるでしょう」


離れた場所から四人の戦いを観戦しているミシェラたち三人。


ルドラとイブキの戦いが両者の技術と読みがぶつかり合っている形だが、ヘレナとガルフの戦い方はその逆であり……多少の読みと、後は身体能力(主にパワー)のぶつかり合い。


そしてミシェラの言う通り、ガルフは無理に正面突破しようとしなくても戦い様はある。


「……良いチャンスだと思ったんじゃねぇの。俺も、なんとなく覚えがある」


「良いチャンスって……そう簡単に言える程、あの方たちは弱くありませんわよ」


「弱かったら困るっての。つか、強くねぇと良いチャンスだと言わねぇだろ。それによ……デカパイ、お前だってあの二人と戦うとして……絶対に負けるイメージしか湧かねぇのかよ」


「そんな訳ないでしょう。絶対に勝てるイメージは浮かびませんけど、それでも逆に絶対に負けるイメージも湧きませんわ」


「そういうこった。だから、良いチャンスなんだよ」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら友人が戦う様子を眺めるイシュドを見て、またしても言い負かされた腹いせに頭をかち割りたいという思うが湧き上がるも、さすがに私情が過ぎると理解しており、直ぐに視線を試合へと戻した。

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