第186話 スキルと操作技術の差

「それで、レポートによると……途中から、ガルフ君たち四人ではなく、イシュド君が鬼竜・尖の相手をしたと書かれてありますが」


「その通りだよ。あの時、四人はガチで集中してた。連携度もそこら辺のベテラン騎士や冒険者に負けてなかったんじゃねぇか? けど、向こうは向こうでそんなに四人と戦ってるってのもあって、バチクソに集中力が高まってベストパフォーマンスを出せた……ってのが、外から見てた俺の見解だ」


「なるほど。確かに、モンスターにも集中力による変化というのはあってもおかしくないとは思いますが……イシュド君、私はこのいきなり体色が更に赤みを増し、鼓動が加速した結果、身体能力が向上した。この説明を上手く呑み込めません」


クリスティールの質問に対し、めんどくさそうな顔をしながらも、五人の中で一応ある程度納得出来てるのがイシュドであり、他四人に説明したのもイシュドであるため、流れ的にも説明するしかなかった。


「そいつはなぁ~~~~~~……ぶっちゃけ、俺もよく解ってねぇんだよ」


「イシュド君のバーサーカーソウルや、ガルフ君の闘気とはまた違う強化方法ということなのでしょう」


「そうだな。だからこそ、マジでそれらしい理由を確認して繋げても納得し辛いんだよ」


「…………」


クリスティールはイシュド達が書いたレポートにもう一度目を通す。


(人が激しく運動すれば、心臓が比例するように高鳴る。だからこそ、鬼竜・尖の心臓が離れた場所まで聞こえるほど高鳴り始めた結果……鼓動をコントールして身体能力を急激に向上させた………………繋げられないことはありませんが、これは…………)


後輩たちが懸命に戦い、激しい戦闘の中でもなんとか手に入れた情報。


依頼を受けることを許可した、評価する立場としてレポートの内容を理解出来ないといったふざけた真似など出来る訳がない。


故に十秒、二十秒……一分以上レポート洋紙とにらめっこするも、ピースがピタッとハマるような納得考えられず、役員揃って頭がショートした。


「っ!? おいおい会長パイセン、他のパイセンたちも大丈夫かよ」


「え、えぇ……なんとか、大丈夫です。ただ、言われてみれば解らなくもないという内容が多く、理解するのに苦戦していると言いますか」


「だから、それは仕方ねぇって話だ。あれこれ要素を繋げて、それらしい理由にしたが、俺だって完全に納得は出来てねぇよ」


「…………特殊技術、と納得するしかないという事ですね」


「そういうこった。まっ……他にも考えられる内容? 理由? みたいなもんはあるけどな」


「「っ!!!!!?????」」


イシュドの言葉に、この場にいる者たちの中でも特にクリスティールを慕っているミシェラとインテリメガネパイセンが強く反応した。

何故……何故その内容をレポートに記さなかったのかと。


「なっはっは!!!!! インテリメガネパイセン、面白い顔になってんぜ」


「ミシェラ、少しはしたない顔になってますよ」


二人に言われ、なんとか落ち着きを取り戻す。

ただ、イシュドがレポートに記さなかった内容に関して反応したのは、ミシェラとインテリメガネパイセンだけではなかった。


「それで、イシュド君。それをこの場で口にしたという事は、その内容を教えてくれると思って良いのですね」


「別に良いけど……何の根拠もねぇ個人的な見解だからな」


「それで構いません。あなたからの意見は、私たちとは違う方向から見た景色であることが多いので」


「んな期待されても困るっつーの。ったく…………この鬼竜・尖って個体は、再生のスキルを持ってるんじゃなくて、体の特徴の一つとして、再生っていう能力を持っていた」


「……改めて聞くと、それだけでも十分恐ろしいですね」


「超同感だ。特徴の一つだからか、魔力は消費してなかったしな。んで、その再生力が心臓を、鼓動を操る要因の一つなんじゃねぇかと思ってな」


ここまでの説明を聞いて、殆どの者たちが最終的にイシュドが何を言いたいのか解ってないかったが……唯一、フィリップのみが答えに近いところまで予想が膨らんでいた。


「もう少し、詳しく教えてもらってもいいかしら」


「スキルってのは、会得しちまえば誰でも使えはするだろ。そこから先、技術的に向上するか否かは置いといて」


「そうですね」


「けどよ、体の扱い方に関しちゃあ、一度理想の動きが出来たからって、その動きが何度も出来る訳じゃねぇだろ」


「えぇ、本当にその通りです」


「……なぁ、イシュド。ちょっと良いか」


「おぅ、なんだフィリップ。もしかして、俺が考えてる事を同じ事を思い付いたんか?」


二人の会話に入ってきたフィリップに視線が集まる。


それに気付いたフィリップ「やらかした~~~」と後悔するも、やっぱりなんでもないと退ける雰囲気ではないと察し、思い付いた考えを説明し始めた。


「再生のスキルを持ってるなら、ただスキルを発動すれば良い。ただ、再生という特徴……特性? であれば、きっちり傷口や欠損した部分を再生する意識ってのが必要なんじゃねぇかと思った」


「ほぅほぅ、そんでそんで」


「それを何度も何度も続けて良ければ、ただ体を動かすだけじゃなくて、自身の体の内側? の物を動かす、操作する技術が高まっていって、結果鼓動をコントロール出来るようなったんじゃねぇかって思ったんだけど……合ってるか、イシュド」


「はっはっは!!!!! 良いじゃん、冴えてるじゃねぇか、フィリップ。つっても、本当にその考えが正解なのかは知らねぇけど、俺が考えてたのと同じ答えだぜ」


「そ、そうか……そいつは、良かった?」


フィリップはガルフほどイシュドに敬意を持っているタイプではないが、それでも少なからず凄い奴だと、尊敬する部分があるにはあると思っており……そんなイシュドと同じ考えに至ったことにほんの少し嬉しさを感じた。


「……これまた、一応納得出来る流れではありますね。しかしそうなると、体質として再生が実行出来る個体はこれと同じことが……いやしかし、この鬼竜・尖という個体は心臓が二個あるのでしたね」


「そうだぜ会長パイセン。だから、また同じような個体が現れたら、って変に心配する必要はねぇと思うぜ」


イシュドがクリスティールの心配を払拭させるために口にした言葉は、決して間違ってはおらず、鬼竜・尖の様な個体が何体も現れれば、組織単位で対策を練らなければならなくなる。


ただ……イシュドの前世の者たちが今の言葉を聞けば「今のセリフ、フラグになるんじゃねぇの?」と総ツッコみされていた。

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