第173話 何故、折れるか
「っしゃ、呑んで食うぞ~~~」
探索一日目。
特に成果を得られることはなく、四人が自分たちは確実に以前までよりも強くなった……という自信を得るだけで終わった。
「…………」
「おいおいガルフ~~、テンション低いぞ~~~」
「あ、ご、ごめん」
「変に気負うなよ。冒険者だって、受けた依頼がその日に終わらない、数日……もしくは五日六日かけて達成するなんてザラだ。そりゃ初日に発見出来れば快挙? かもしれねぇけど、まだ時間はあるんだから変に焦るなよ」
イシュドの言う通り、まだ期限まで最大十日ほどある。
一日二日、何も収穫がなくとも焦る必要は全くない。
「イシュドの言う通りだぜ、ガルフ。つかさ、モンスターが遭遇した冒険者や騎士を殺さないって情報だけでも収穫だよな~」
「既に冒険者ギルドが得ていた情報なのだから、評価にはならない筈ですわ」
「んじゃあ、あの真面目で優しい若い冒険者が教えてくれた、対峙すれば死ぬんじゃなくて心が折れるって情報なら、生の声って事もあって悪くない情報なんじゃねぇの」
「…………ですが、やはり一度も遭遇出来てない、交戦してないというのは正確性に欠けますわ」
ミシェラの言っている事が間違っていないと解っている為、フィリップはそれ以上返すことはなかった。
「まっ、探索は続けるんだから、おそらくこの先遭遇はするだろう。それに備えて、もう少しあの冒険者が教えてくれた折れるっていう感覚について考えた方が良いかもな」
「心が折れる、以外にも何かあるってこと?」
「最終地点はそこだろうな。ただ、その心が折れるまでの過程はどういった内容なのか。それを知れるだけで、色々と変わってくるだろうな」
イシュドはオーガとリザードマンの融合体と戦って見逃されただろう冒険者たちの表情から、おそらく例の個体はAランクには届いてないと予想していた。
物凄く上から目線の考えではあるが、ガルフたちが主体となって戦うと予想し、敢えて自分が思う過程を口にしなかった。
「見逃される、以外の要素と言うと………………自分が得意とする同じ武器を使われ、負けた時でしょうか」
「……なるほど。それは、解りますわね」
レグラ家で過ごす中で、双剣を使ってイシュドとの模擬戦に負けた時の記憶を思い出し、ミシェラはイブキの意見に激しく同意。
それに対し、特にこれといった武器に拘ってはいない闘剣士のガルフと傭兵のフィリップはいまいち解らなかった。
「えっと……だから、例の個体はロングソードだけじゃなくて、槍や斧も使ってたのかな」
「リザードマンならロングソード、オーガなら大剣ってイメージがあるけど、それ以外の武器を使って戦ってるってなると……もしかして、同じ武器を使って人間を倒すことに楽しさを感じてるとか?」
モンスターがそこまで考えて戦っているわけがない、とツッコみそうになったミシェラ。
だが、それを口に出してしまう前に、レグラ家の領地内で体験した経験を思い出す。
(王になった筈のモンスターが、王である責務を放棄した…………モンスターが王という立場に、どこまで責任を感じているのかは解らない。けど……キングまで至ったモンスターが個人間だけで共に行動したという話は、聞いたことがありませんでしたわ)
衝撃度で言えば、イシュド・レグラとの出会いや戦いに負けないほど驚かされた内容を思い出し、冷静に考え始めた。
「……例えるのがあれですけれど、ゴブリンやオークが女性に対する扱い……に近い感情を持っていると」
「リザードマンに一物ってあったっけ」
「…………フィリップ、次この場でそういった言葉を使えば、斬りますわよ」
「へいへい、分かった分かった。だからそのおっかない怒気をしまってくれ」
フィリップは全く反省はしてないものの、ひとまずこの場で下品な発言は控えようと決めた。
「他者をいたぶる、そういった感覚には近い感情ではなくて」
「愉悦と……支配、征服? 確かに繋がりはありそうですね」
「……ガルフはどう思う」
「…………………少し前に、イシュドが例の個体には武士道精神? みたいな心構えを持ってるかもしれないって、イブキと話してたよね」
「あぁ、確かにそうだな」
武士道精神に加え、受付嬢が教えてくれたロングソードだけではなく槍や斧を使うという情報から……ガルフはある言葉を思い出した。
「例の個体って、武芸百般? って言葉を体現しようとしてるんじゃないかな」
「っ……武芸百般という言葉は知らずとも、その道を目指してる可能性は……否定出来ませんね」
モンスターは……モンスターである。
人の言葉を喋ろうとも、決して人ではない。
何かを目指すことはあっても、その何かを目指す為に努力を積み重ねることはない。
個体にもよるが、貴族や王族の人間よりも生まれながらの強者としての道が用意されていると言える。
「え~~~っと、つまり例の個体はロングソードだけじゃなくて、他の武器も極めようと……最悪の場合、魔法まで極めちゃおうとしてるってことか?」
「それもまた、否定出来ませんわね」
明らかにパワータイプの様に思える。
だが、目の前に狂戦士のくせに魔法を平然と使用するクソイレギュラーな存在がいることを忘れておらず、ミシェラは続けて冷静な思考でフィリップが口にした可能性を受け入れた。
「複数の武器を扱えて、魔法まで使える………………なんか、イシュドみてぇな
モンスターだな」
「ふっ、はっはっは!!!!! かもしれねぇな」
イシュドからすれば、自分の様なモンスターがいるのであれば……それはそれで是非とも戦ってみたい、闘争心が爆発する。
だが……フィリップたちからすれば「冗談じゃない!!!!」と、叫びたい。
人間には、レベルや職業という補正が存在する。
モンスターにはランクがある代わりにそういった補正はない……ただ、得てきた経験値によって、同じモンスターであっても差は確実に生まれる。
「つまり、例の個体を倒すことが出来れば、イシュドに一歩近づけるってことだよね」
「……ふっふっふ。まぁ、そうと言えるかもな」
そんな中、仮想イシュドと捉えられるかもしれない存在に……ガルフは同じく闘争心を燃え上がらせていた。
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