第150話 心の弱さの証
SIDE ダスティン
「ダスティン様、少し休憩為された方が」
「そうだな……後、三十分経てば、休憩を取るとしよう」
実家に帰省したダスティンはミシェラやクリスティールと同じく、帰省したその日から訓練を行っていた。
「次、頼む」
「……分かりました」
ワビル伯爵家に仕えるスピードに特化した騎士は、頼まれた通り素早さを活かして攻撃を仕掛ける。
(読め、把握するのだ。これが、俺の今越えるべき、壁だ!!)
レグラ家で何度も何度も行った試合。
その中で、ダスティンは二年生という立場ではあるが、何度も一年生たちに刃を急所に突き付けられた。
ダスティンもダスティンで何度もガルフたちをその剛力で叩きのめしてきたが、それでも彼の中で……二年生である自分に対して不甲斐なさがあった。
「くっ、ッ!! ぬぅあああッ!!!!」
ダスティンの重戦士という職業上、スピードが他の職業よりも劣るのは当然のこと。
騎士や軽槍士たちが重戦士にスピードで負けては、立つ瀬がない。
その辺りはダスティンも理解しており、己の力だけではどうこう出来る部分ではないと理解している。
だが、どうこう出来ないからといって、放っておくことなど出来ない。
だからこそ、ダスティンはイシュドから教えられた動きを読む、加えてその読みに合わせて合理的に動き、最短距離で攻撃を当てることを意識し、模擬戦に臨んでいた。
「っ!!!!!!!」
何度目になるか解らない模擬戦が行われる最中、見事……読みと最短距離を行く合理的な動きが嚙み合わさり、強烈な一撃を与えることに成功。
「っ!!! はぁ、はぁ、はぁ」
「ダスティン様! さすがに休憩のお時間を取りましょう!!」
「……そう、だな」
疲れてからが本番という考えはダスティンにもしっかりと刷り込まれているが、完全に動けなくなってしまっては、訓練のしようがない。
「ダスティン様、時折繰り出された強烈な一撃、見事でした」
「…………俺は、遅いからな。知人の家で学んでいる時、それを嫌と言うほど思い知った」
「お話は聞いています……あの、レグラ家に滞在していたと」
「ふっふっふ。言っておくが、世間一般的なイメージは捨てた方が良い。俺をエキシビションマッチで倒したイシュドも、レグラ辺境伯が治める街も、レグラ家の者たちも……皆素晴らしい」
ダスティンが嘘や冗談を言うタイプではない事を知っているため、騎士たちは驚きこそ隠せないが、それでもなんとかダスティンから伝えられた事実を飲み込んだ。
「お前が見事だと言ってくれた一撃もな、イシュドのアドバイスがあってこそ放てた一撃だ」
「そうでしたか……一般的なイメージとして、あまり他人にそういった事を教えられる様な者たちではないと思っていました」
「……俺も、出会うまでは知らなかったからこそ、あまり強くは言えないが、彼らを侮り過ぎだ」
世話になったからこそ、少しでも世間のイメージを払拭したい、といった思いではない。
ただ、個人的にあの強者たちが侮られることに不快感を感じる。
「第一に、彼等は強さを求めているが、礼儀がないわけではない」
ダスティンの頭に浮かんでいるのはレグラ家現当主のアルバに、夫人のヴァレリア。
そしてイシュドの妹に当たる人物、リュネ。
彼等からは特に貴族としての気品を感じ取っていたダスティン。
「加えて、戦闘に関してもただ暴れているだけではない。そうだな……解り易い例で言えば、イシュドは狩りを行っている最中にケルベロスと遭遇したのだが、その際にわざわざ俺や他のメンバーが得意とする得物を使って倒した」
騎士たちの中で聡い者は、直ぐにイシュドが狂戦士らしからぬ武器をケルベロスという高ランクモンスターを相手に使ったという事実を把握。
「元々狂戦士らしからぬ思考を兼ね備えていたのか……将来的に食える相手を自ら育てたいという思いゆえに、そういった思考が身に付いたのかは解らない。ただ、普通の狂戦士だと思って相手をすれば、痛い目を見るのは間違いない…………油断せずとも、真正面から力で潰されるがな」
思い浮かぶ、フィリップとクリスティールの三人で繰り出した合体攻撃。
当れば、Bランクモンスターであろうとも倒せる自信があった。
しかし、イシュドはそれを片腕で粉砕。
結果としてその試合最中には片腕が使用できない状態に追い込むことに成功はしたものの、それはイシュドの戯れによる結果。
加えて……合体攻撃を放ったことで、ダスティンとフィリップはガス欠に陥った。
「お前たちも、会えば解る、辺境の蛮族という言葉は、過去の臆病者たちが名付けた心の弱さの証明だと」
ダスティンの言葉に……騎士たちの身が引き締まる。
ワビル伯爵家が治める領地はレグラ家が治めている領地程ではないが、Bランクモンスターが出現することはそこまで珍しくはない。
騎士たちも盗賊退治だけではなく、積極的にモンスターの討伐を行っている。
故に、侯爵家などに仕える騎士たちにも、実力では負けない自信があった。
だからこそ……少しでもレグラ家の人間、治める領地にいる者たちを見下していた自分たちを恥じた。
「……良き方と、出会われたという事ですね」
「うむ、その通りだ」
「ところでダスティン様~~。そろそろ嫁さん候補は見つかりましたか?」
若干チャラさが漂う騎士が、シリアスな空気をぶった切りながら尋ねた。
「お前……」
「いやいやいや、超良い話だとは思いましたよ。俺も負けてられねええ!! って思いましたけど、ダスティン様が学園に通う理由って、そこもあったじゃないですか」
チャラ騎士の言う通り、ワビル伯爵から絶対命令として下された訳ではないが、それっぽい事を言われてはいた。
「むっ………………正直なところ、そちらの方が厳しい問題かもしれないな」
ダスティンの中で、自身の伴侶となる者は、できれば共に高め合える者が良い。
(クリスティール、ミシェラ、イブキ………………おそらく、彼女たちはイシュドと婚約するだろう)
であればと思った瞬間、一人……三人と同じく上を目指すことに対して高い意欲を持つ者が脳内に浮かんだが、それはないと思い、頭を横に振った。
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